第Ⅸ十Ⅳ話:新大陸発見?!
唸るしか出来ない征樹がいた。
旅行先に来てからこっち、ずっと唸ってばかり感じもするが、今回は夕食の時間である。
昨日と同じような席順と、征樹に食べさせる"征樹的罰ゲーム"な展開が繰りひろげられたのだ。
しかも、今回は何やら雰囲気が違う。
異様としか言い表しようのない・・・。
鈍感な征樹でも解るくらいなのだから。
『征樹ちゃん、モテモテねぇ。』
唯一、例外で琴音だけは一人マイペースだったが、寧ろ、こちらの方が例外というより普通なので、余計に征樹は調子が狂ってしまった。
(・・・なにか、少し疲れたかも。)
距離感が近づくという事は、人間関係が円滑にいっている証拠だ。
それは良い事なのだろう。
程度は別として、親しくなればこのようになっていくのだろうと理解可能である。
しかし、"疲れる"。
段階の進み方が急過ぎるのか、そこに"愛情"が絡むとなると、ただでさえ未知の領域真っ只中の征樹にとっては、疲労・消耗のレベルだ。
もっとも、征樹にはその愛情の種類もよく把握出来てないうえに、どれがそういうモノに類するのかも掴めていなかったが。
とりあえず、例の少女に話した通り、嫌われてはいないという認識。
杏奈には纏わりつかれる、奏は好意も向けられるくらいにはというのも。
だた、それも実は今ひとつピンとこない。
「はぁ・・・。」
部屋に戻り、ベッドへと身を投げ出した征樹は、溜め息をつきながら力を抜く。
辞書で単語を引いて意味が解っても、その内容・本質を捉えられたというわけでないのだ。
逆にいきなり"こういうモノだ"と解れと言われても無理だ。
「ダメだ・・・。」
ムクリと身体をすぐさま起こす。
心も身体も落ち着かない。
しかし、確実に自分は疲労している。
「・・・お風呂でも入るかな。」
だが、浴場まで足を運ぶ程の気力がない。
それに大浴場は一人だと逆に落ち着けなさそうだ。
かといって、貸切風呂も前回がああだっただけに、油断出来ず嫌な予感しかしない。
(弱ったな。)
やや八方塞がり気味で佇む征樹の視界に、今まで一度も入る事すらなかった部屋が思い浮かぶ。
(内風呂って確か・・・。)
入室した時の仲居の説明を思い出す。
内風呂は、大浴場・貸切風呂と同じ泉質・効能の温泉を引いているという言葉。
「狭くても、温泉は温泉。」
自宅の風呂with温泉の素というフレーズを脳内から強制的に排除して、内風呂の扉を開いて覗き込む。
「あぁ・・・。」
思わず呻いた。
(忘れてた・・・ここ、瀬戸さんの紹介なんだった・・・。)
彼を、自宅にある風呂のゆうに数倍の面積がある、総檜風呂が出迎えたのだ。
「・・・いや、ここは感謝すべきとこであって・・・。」
だが、何か受け入れ難い。
それは自分の庶民感覚か?
ともあれ、征樹は早速に湯を張る準備をして、部屋の扉の鍵を閉める。
閉めずに乱入でもされたら、それこそ疲労回復の意味がない。
基本、常識人な皆だが、約一名は"前科"がある。
しかも、確信犯で。
とりあえず、そこそこ以上の入浴が出来る事に、征樹は楽しみを見出してきた。
ずっと自分でも感づいていたのだが、意外と温泉好きだったらしい。
兎にも角にも、いそいそと入浴の準備をするのであった。
このまま冬休み連続更新期間に突入できるのか?!(ぇ




