第Ⅸ十Ⅱ話:湯けむり入浴尋問たいむ。
「惜しかったわねぇ。」
相変わらず、何も考えてないような笑顔と無責任発言し放題の琴音が湯に浸かっている。
「べ、別に一緒に入りたかったわけじゃ・・・。」 「入りたくないの?」
最後まで杏奈に言わせず、あくまで優しく突っ込む。
「いや、その・・・。」
「流石に杏奈さんは恥ずかしいわよね、年頃だもの。」
身体を洗いながら、助け舟を出す静流。
結局、征樹に逃げられた(?)女性陣だが、海に行ったという事もあって、例の貸切風呂に入る事にした。
「年頃だから、今のうちに見せておこうっていうのもアリよ?」
「・・・一理あるような・・・。」
ちらりと杏奈の身体を上から下まで見る。
湯船には浸かれないが、潮風に晒された髪を洗う為に杏奈はここまでついて来たのだが・・・。
「ど、何処を見てるんですか?!というか、静流さん、納得しかけないで下さい。」
その視線から逃れるように背を向ける杏奈。
「それでなくても杏奈ちゃんにはチャンスが残り少ないかも知れないんだから~。」
チャンス?
杏奈はその意味が把握出来ない。
「もし、征樹ちゃんが奏ちゃんの想いを受け入れたら?」
「あ・・・。」
「静流さんは保護者、奏ちゃんは恋人。じゃあ、杏奈ちゃんは?」
ただの幼馴染。
それは今も変わらないが、それ以上にはなる可能性は皆無になってしまう。
恋人は最強に限りなく近い称号だ。
「なーんて、そうしたら、私もお姉ちゃんじゃなくて、ただの知り合いのおばちゃんになっちゃうかも。」
「おばっ・・・。」
今度は静流の胸にざっくりと刺さり、絶句する。
年齢が近い琴音にそう言われると、流石にその範囲として自分も連想してしまう。
それに保護者だけというのも、完全に本意とは言えない。
「どちらにしても、今一番進んでいるのは奏ちゃん。」
「わた、私はそんな・・・。」
琴音の発言に思わず呆けてしまった奏が、ようやく我に返る。
「あら?聞かないの?欲しくないの?お返事は。」
それはそうなのだが、しかし、告白というのはハイリスク・ハイリターンだ。
OKならば全てを得られ、NOならば全てを失う。
だが、奏は少し違った。
「私はただ・・・知ってもらいたくて、返事なんて・・・。」
元々が玉砕覚悟だった。
ただ自分の想い、妹の想いを知って欲しかった。
だたそれだけで、それが目標だったのだ。
「欲しくない?ん~、でも、どう想っているのかは・・・知りたいわよね?」
そう言った琴音の問いかけは、奏だけでなく、全員の顔を見る。
「自分がどう想われているのかなんて、誰でも気になるもの。勿論、私も。一番怖いのは、無関心だわ。」
無関心からは何も生まれず、何の変化もない。
「でも、一番手は奏さん。というワケですね?」
静流の言葉ににっこりと琴音は頷く。
「そんな・・・あの、私、もう出ますっ。」
視線の集中に耐え切れなくなった奏は、一目散に脱衣所へと逃げて行く。
「あら、可愛いお尻♪」
「琴音さん・・・。」
呆れとも責めとも取れる眼差しで、杏奈は琴音を見る。
「もぅ、静流さんが奏ちゃんをイジメるから♪」 「私ですかっ?!」
見事な責任転嫁である。
「トドメを刺したのは、静流さんよねぇ?」
「ですね。」
杏奈までもが琴音に同意する。
多数決では静流の方が分が悪い。
2対1だとしても。
「ま、それは置いといても・・・征樹がどう想ってるかは気になるなぁ・・・怖いケド。」
「でしょう?」
皆、少なくとも嫌われているような事はないと思っている。
だが、それがどの程度の好意に近い位置に達しているかと言われれば、自信はない。
あってたまるか!という気分になる。
「それ以前に征樹くんが、心をどれだけ開いてくれるかの方が問題ですけれど。」
静流の指摘ももっともだ。
なにせ征樹といったら・・・。
「アレだもんな・・・征樹。」
「そうねぇ。」
「確かにね・・・。」
三者三様の想いを抱いたまま、入浴タイムは過ぎてゆく・・・。
翌日更新アリマス。




