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貴方と背中を合わせる理由。(仮)  作者: はつい
第肆縁:出会いは化学反応のように・・・・・・?
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第ⅩⅩⅩⅩⅩⅢ話:読んで食べたくなったら負け。

 重苦しい雰囲気。

誰がどう見てもそう述べる状況で、征樹は食事をしていた。

当然の如く、征樹にはその重苦しい雰囲気など気づいてはいない。

と、思いきや、彼は一つだけ不思議に感じている事があった。


「お味、ど、どうですか?」


「え?」


 奏に問われて、はっとするくらいに不思議に思っていた。


「あ、その、何も言わないから・・・。」


 そう言うと奏では恐縮してしまう。

一言も喋る気配のない征樹の反応を待ち過ぎ、緊張が限界に。

そして思わず声に出して聞いてみてしまったが、冷静に考えてマズいのならば、征樹は食べる事すら止めるのでは?

それで急に恥ずかしくなってしまった。

だが、無言で食べ続け、何の反応もしなかった征樹にこの場合は非がある。

奏が恐縮する必要は何も無かった。

勿論、他の二人も征樹の反応は気になっていた。

つまり、女性全員の視線が集まっていたのである。

それに気づかない征樹。

その理由は・・・。


「いや、美味しいです、凄く・・・・・・好きな味。」


 ソレ。

そこなのだ。

鶏肉を使ったチキンカレーが好き。

三人の会話で皆が知っている(と征樹は思っている)。

だが・・・このカレー、"異様に黄色い"のだ。

どちらかというと、お蕎麦屋さんや昭和の小学校の給食に出てくるアレに近い。

所謂、小麦粉とバターと玉葱から調理が始まるタイプの。

確かに征樹は、チキンカレー>ポークカレー>ビーフカレー

肉をメインに使ったカレーはその順に好きなのだが、"黄色いカレーが好き"とは一言も言っていない。

自分の目の前にいる三人の誰にも。

しかも、このカレーはご丁寧に征樹の好きなチキンカレーの定番、ゆで卵まで乗っている。

一体、何がどうして?


「そうですか・・・嬉しい。」


 ぽつりと頬を赤らめ呟く奏の姿は、保健室と見た時と変わらず可愛い人だなと思える。

だが、そんな征樹の視線を見る二人、静流と杏奈は気が気でない。

一方、征樹はそんな事よりも今の出口の見えないミステリーに挑む事に再び集中していた。


「あ、征樹、福神漬けいる?らっきょもあるよ?」


 征樹が注目する視線の先を何とかして変更しようと、舌を噛みそうになりながら杏奈が身を乗り出して問う。


「あ、あぁ。」


(つい返事をしてしまった・・・。)


 それだけ杏奈は必死だったのだが・・・。


「葵くんは、らっきょ、嫌いよ?」 「え?」 「あ・・・。」


 会話への横槍、その出所の人物に視線が集まる。


「そうだよね?」


 にこりと微笑みかける奏。


「そうなの?」


 杏奈は、当人の征樹にではなく奏に思わず確認をしてしまうくらい混乱していた。

そんな事は初耳だったから。


「ごめん・・・。」


 ぽつりと静まった食卓に謝罪の言葉がおりる。

杏奈の胸には惨めさが溢れる。

こんなに自分は征樹を想っているのに、実は征樹の事を何も知らない。

知らないという事と、知っている人間がいるという事で想い自体が否定されたような気分。

まるで、自分のは"偽物の想い"だと・・・。


「杏奈。」


 聞いた事のない優しい声音に、泣きそうな表情で征樹を見る。

彼女の前には差し出されたカレーの皿。


「らっきょ。」


「え?」


「らっきょをくれ。何時までも子供みたいに好き嫌いがあるのはどうかと思うし。」


「そのかわり、一個にしてあげてね?」


 そう付け足したのは静流だ。

ライバルなるであろう少女を助けるというより、楽しい食卓が台無しになったり、何より征樹の優しさを邪魔したりする方が嫌だったから。

だから、彼女はそれだけを杏奈に言った。

そして。


「好き嫌いはダメね?」


 征樹に念を押すのも忘れない。


「善処します。」


 何処ぞの政治家のようなセリフを吐いて、彼にしては珍しく微笑んだ。

と同時に、何だかんだ言って自分は、この食卓を楽しみにしているんだなとそう征樹は再認識した。

もっとも、そう思っているのは静流も杏奈も同じだたが、今の二人は珍現象と言っても過言ではない美少年、征樹の微笑みをぽーっと眺めていた。


「葵くん・・・。」


 ただ少し寂しそうな奏の声が、誰にも聞き取られる事なく、吐かれていった。

世間は連休だとォォッ!(訳:翌日も更新致します。)

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