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完全無欠の悪役令嬢はポンコツヒロインをほうっておけない  作者: Kei
第六章 悪役令嬢の夏休み

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【リナ】ポンコツヒロインは完璧な美幼女をほうっておけない

 図書館の二階から差し込んだ光に、私は目を丸くした。


 ──この光、どこかで見たことがあるなぁ……


 そうだ。授業で習った、魔法陣を作動させたときの光だ。誰かが誤って魔法陣を発動させてしまったのだろうか。


 私は首を傾げながらも、自然と光の差す方向へと視線を向ける。


 図書館に入ったとき、そこには誰もいなかった。司書さんの姿も見当たらない。おそらく、閉架書庫にでも行っているのだろう。


 私はクラリス様とゼノ先生を捜して、広い一階の書架の間をうろうろしていた。この図書館はエルデンローゼ王国一の蔵書数を誇る。とにかく広いので、人を捜すのも一苦労だ。


 そのとき、ふと二階から差し込む光を目にし、足を止めた。


 ──もしかしたら、二人がいるかもしれない。


 そう思い、私は光を目印に二階へと向かうことにした。


「クラリス様、ゼノ先生、いらっしゃいますか〜……?」


 二人の名を呼びながら、階段に向かう。


 階段に足をかけた、その瞬間。


 上から、ゼノ先生が下りてくるのが見えた。


「あっ、ゼノせんせ──」


 先生の名前を呼びかけた私は、思わず息を呑む。


 ゼノ先生が──小さな女の子を抱えていた。


 艶やかな漆黒の髪が、ふわりと揺れる。大きな紫紺の瞳は、興味深そうに辺りを見回していた。ほんのりピンク色に染まった頬は、まるで桃のように柔らかそうで、思わず触れてみたくなる。


 年は三歳くらいだろうか。孤児院にいた子たちと比べても、それくらいの大きさに見える。


 私は、その少女のあまりの可愛らしさに、思わず手で口元を覆った。


 ──な、なんて可愛いの……!!


「ゼ、ゼノ先生、その子は……!?」


 興奮と困惑が入り混じった声が、自分でも驚くほど裏返る。

 ゼノ先生は私の反応に苦笑しながら、そっと少女を下ろした。


 彼女はスカートの裾をつまみ、小さな体で一所懸命に淑女の礼を取る。


 ──あれ? この子、学園の制服を着てる……?


 よく見ると、それは間違いなく学園の制服だった。サイズは明らかにこの少女のために仕立てられたものだったが、こんな小さなサイズの制服なんて見たことがない。


 そもそも、この年齢の子が学園に入ることなんてありえないはず……


 そんな疑問が頭をよぎったが、それ以上に、目の前の光景にすべてを持っていかれた。


 ──やっぱり可愛い……!!


 小さな手でぎこちなくも丁寧にスカートの端を摘み、精一杯の優雅さを演出している。

 まだ幼いながらも、正しく貴族の礼儀作法をこなそうとする姿に、胸が締めつけられるほど愛らしさを感じる。


 しかし、次の瞬間。


 少女の口から発せられた言葉に、私は頭から氷水を浴びせられたかような衝撃を受けた。


「クラリス・エヴァレットです。はじめまして……ごきげんよう」


 ──えっ……えぇぇぇぇぇっ!?


 愛らしい声で、頑張って丁寧に紡がれた貴族の挨拶。

 その幼さゆえに少しつっかえながらも、必死に大人びた口調を作っているのがわかる。

 本人は至極真剣な表情で、どこか誇らしげに名乗ってみせた。


 ……だけど。


 だけど、待って。


 どうしてこの子の名前が──クラリス様と一緒なの!?


 私の思考は、一瞬にしてフリーズした。




 頭の中が真っ白になったままの私に、ゼノ先生が淡々と事の経緯を説明してくれた。


 図書館で私の個別指導用の資料を集めていたところ、本に挟まれていた謎の魔法陣が描かれた紙をクラリス様が手に取ったらしい。

 すると、その瞬間、魔法陣が発動し──クラリス様は小さくなってしまった、と。


 ……いや、説明を受けてもまったく理解が追いつかない……


 そもそも、そんなことが本当に起こるの? 魔法陣って、そんな都合よく発動するものなの!?

 頭をフル回転させても、納得のいく答えが出てこない。


 けれど、ただ一つ、確信できることがあった。


 目の前の小さな少女が、紛れもなくクラリス様であるということ。


 その事実を受け入れた私は、改めてソファにちょこんと座る少女を見つめた。小さな手を膝の上に揃え、きょとんとした顔でこちらを見上げている。


 ──か、可愛すぎる……!!


 大きくてくりくりとした紫紺の瞳。艶やかな漆黒の髪がさらさらと揺れ、柔らかそうな頬はほんのりピンク色に染まっている。


 クラリス様の面影を残しているものの、どこかあどけなく、表情がよく動く。

 それに──どうやら大人のクラリス様の記憶は失われているらしい。


 私のことを、まるで知らない人を見るような瞳で眺めている。


 胸の奥から湧き上がる愛しさに、私は思わず駆け寄って抱きしめそうになった。


 ──だって、こんなに可愛い女の子、見たことないんだもの!!


「そこでリナ君。君には申し訳ないんだが……」


 私がキラキラと目を輝かせながらクラリス様──ううん、クラリスちゃんを見つめていると、ゼノ先生が静かに口を開いた。

 彼の手には、一枚の紙が握られている。そこに描かれているのは魔法陣だった。

 おそらく、これがクラリス様をクラリスちゃんにしてしまった元凶なのだろう。


「私はこの魔法陣を解析して、彼女を元に戻す方法を探す。だからその間、彼女の面倒を見てくれないだろうか?」


 思ってもみなかった申し出に、私は一瞬ぽかんとした。


 ──えっ? クラリスちゃんのお世話?


 ほんの一瞬の沈黙。


 次の瞬間、私は勢いよく手を挙げた。


「──もちろんです! やります、やらせてくださいっ!!」


 ゼノ先生は私の熱意に若干引き気味になりながらも、「あ、ああ。頼む」と苦笑交じりに頷く。


 私はクラリスちゃんに向き直り、その勢いのまま小さな手をぎゅっと握った。


「クラリスちゃん、私はリナ・ハートです!」

「リナさま?」


 クラリスちゃんは首を傾げながら私の名前を口にした。

 ”さま”の部分が少し舌っ足らずで、それが本当に可愛らしくて、「もっと呼んでください!」と叫びそうになるのをぐっとこらえる。


「リナでいいです──いいよ! 私たちは、な、仲良しだから!!」


 調子に乗って、クラリスちゃんと仲良し宣言をしてみた。恥ずかしいけど、なんだか勇気が湧いてくる。


「あ、あの……?」


 困惑するクラリスちゃんの声を遮るように、私は満面の笑みで宣言する。


「不安かもしれないけど、安心して。私がクラリスちゃんを守るから!!」


 後ろから、「……何から?」とゼノ先生が冷静にツッコミを入れていたが、そんなものは聞こえなかったことにする。


 だって、この可愛らしいクラリスちゃんをほうっておいたら、誰かにさらわれてしまうに決まっている。

 貴族の子供なんて特に危険だし、何よりこの美少女、いや、美幼女っぷりは犯罪級だ。


 ポンコツな私だけれど──こんな完璧な美幼女をほうっておけるはずがない!


 私は小さな手を握りしめながら、心の中で決意を新たにした。


リナの鼻息が荒すぎます(笑)。

次回はライオネル視点、5/20(火) 19:00更新予定です。


X(旧Twitter)では更新連絡やイラストの投稿もしています。

今回のイラストはリナと美幼女クラリスのツーショットです!

お気軽にお立ち寄りください✨️

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 完全無欠の悪役令嬢はポンコツヒロインをほうっておけない
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