攻略キャラに会いに行こう 3
学園から公爵邸に戻ると、玄関でルークとばったり出くわした。ちょうどいい。
ヒロインの同級生にして、クラリスの弟──ルーク・エヴァレット。少し長めの淡い若葉色を帯びた金髪に、大きな空色の瞳が印象的で、快活で優しげな表情には幼さが残る。ルークは明るく社交的で、誰にでも気さくに話しかける学園の人気者だ。その無邪気な笑顔と親しみやすさに、多くの生徒が惹かれている。
しかし、私と目が合った瞬間、彼のいつもの笑顔がどこかぎこちなくなるのがわかる。ルークは気まずそうに目をそらし、少し間を置いてから「お帰り、姉さん」と控えめに言った。
ああ、そういえば。
ゲームの中でもルークは、姉であるクラリスに対して複雑な感情を抱いていた。普段は無邪気で周囲を和ませる彼も、私に対してはなぜかその明るさをそのまま向けられないようだ。
完璧を求められる姉に対して反発心を抱きつつも、同時に尊敬している彼の葛藤がこちらにも伝わってくる。
「学園はどう?」
いきなりヒロインの話題を出すと警戒されるかもしれないので、まずはアイスブレイクとして当たり障りのない質問を投げかける。ヒロインもルークも今年学園に入学したばかり。慣れない環境に戸惑っているだろうか。
ルークは驚いたように目を見開いている。
「え、ああ……うん、悪くないよ」
姉から近況を尋ねられたことに戸惑っているのだろう。そういえば、自分のクラリスとしての記憶を掘り返してみても、挨拶程度の会話しかしたことがない。ましてこちらから相手のことを尋ねるなど、ほとんどなかったはずだ。前世の私から見れば、なんとも窮屈な姉弟関係だ。
とはいえ今さら考えても始まらない。ルークは攻略キャラの一人だ。彼にヒロインのことを聞かないわけにはいかない。
「ルーク。リナ・ハートのことはご存知?」
ヒロインの名前を出してみる。若干不自然な気もするが、ここは仕方がない。
「リナ……ああ、同じクラスの子だよね。うん、まあ、いい子だと思うよ」
言いながらどこか戸惑いがちに目を泳がせる。どうやら私が誰かに興味を持つこと自体に、内心驚いているようだ。
「それならよかったわ。あなたも、彼女に親切に接してあげてちょうだい」
私は表情を崩さずに続けた。ルークはますます困惑したようで、言葉を探すかのように視線を伏せる。
「……姉さんが誰かのことを気にかけるなんて、なんだか意外だな」
彼は少しぎこちなくも、どこか戸惑いの残る声で言った。
三度目の「意外」、いただきました。
それはそうだろう。私もゲームの外にいれば、「クラリス、キャラ違うやん!」と突っ込みたくなるところだ。しかし、今の私はゲームの中にいて、リアルに自分の命がかかっている。多少運営の意図に逆らって動いたとしても、許してほしいところだ。
これで攻略キャラは一通り確認できた。ついでにヒロインのことも少しずつ印象付けられただろう。
本格的な授業は明日から始まる。ヒロインは授業でステータスを上げ、攻略キャラとの好感度を少しずつ上げていく。学園祭の夜に開かれる舞踏会──グランドナイトガラで、恋の告白イベントに突入するのだ。
私は心の中で明日への準備を進めつつ、自分の部屋へと向かった。
明日からは夜7時に投稿するようにしたいと思います。




