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完全無欠の悪役令嬢はポンコツヒロインをほうっておけない  作者: Kei
第三章 建国祭はフラグ祭り

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夜闇に咲く花 1

 建国祭、最終日。


 私は公爵邸の私室で、ベッドに横たわっていた。


 着替えは済ませたものの、外に出る気になれず、侍女たちを下がらせた後で、再びベッドに身を沈める。

 もう私は、完璧な公爵令嬢などではない。その肩書きは、返上してしまいたかった。


 ──とはいえ、今夜は建国祭の締めくくりだ。空には華やかな花火が打ち上がる。

 必須のフラグではないが、リナが攻略キャラたちと花火を見ることで、彼らとの好感度を上げる大事なイベントになる。


 私はしぼんだ心に鞭を打ち、ゆっくりとベッドから体を起こした。


 部屋を出ると、そこにはルークが立っていた。彼は心配そうに私を見下ろしてくる。


「姉さん、大丈夫?」


 ──ルークが心配するのも無理はない。


 昨日の事件のあと、私は心身ともに憔悴しきっていた。普段の私からは考えられないほど疲弊した様子に、リナとルークは終始心配してくれていた。

 あの場には何の痕跡もない。ただ、私が何かに疲れ果てている──それだけが見て取れる状況だったのだ。

 本当に、心の底から申し訳なく思う。


 私は精一杯の虚勢を張り、いつものクラリス・エヴァレットを演じることにした。


「ええ、もう平気よ。昨日はごめんなさい。慣れない場所で、少し疲れてしまったみたいだわ」


 我ながら、なかなかの出来映えだ。少しだけ、自信が回復するのを感じる。


 ルークは何か言いたそうに口を開きかけたが、そのまま言葉を飲み込んだ。代わりに、ほんの少しだけ寂しげな笑みを浮かべる。


「……そっか。じゃあ、困ったことがあったら言ってね」

「ええ、ありがとう」


 それ以上追及しない彼の優しさに、私は甘えることにした。


 今日もリナと一緒に、建国祭を回る予定になっている。この後、彼女と合流して、一般開放されている王宮の庭園を訪れるのだ。


 そこで攻略キャラたちと自然に遭遇し、夜の花火を共に見て、建国祭を締めくくる。


 ──たった三日間。しかし、信じられないほど濃密だった三日間。

 それがようやく終わろうとしていることに、私は静かに安堵した。




 ルークと同じく、私を心配していたリナは、私の姿を見つけるなり駆け寄ってきた。


「クラリス様、お体は……」

「大丈夫よ、リナ。心配かけてごめんなさい」


 リナの目には、いつものクラリス・エヴァレットが映っていることだろう。私は完璧な公爵令嬢としての佇まいを演じて、彼女の心配を取り除こうとした。


 しかし、彼女は私の瞳をじっと覗き込み、しばらく無言のまま動かない。


 その真っ直ぐな視線に、私は思わずたじろぎそうになるが、奥歯を噛み締めてぐっと堪える。


 やがて、リナはルークと同じように、少し困ったような笑みを浮かべた。


「……わかりました。でも、何かあったら言ってくださいね」


 ──ルークもリナも、きっと私の様子がいつもと違うことに気づいているのだろう。

 けれど、それを深く追求しようとはしない。私はその優しさに、静かに感謝した。

次回は3/3(月) 19:00更新予定です。

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 完全無欠の悪役令嬢はポンコツヒロインをほうっておけない
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