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完全無欠の悪役令嬢はポンコツヒロインをほうっておけない  作者: Kei
第三章 建国祭はフラグ祭り

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【ライオネル】女神の加護

「またお前が相手か、ライ」


 ヴィンセント団長は決勝戦まで勝ち進んだ俺を見て、つまらなそうに肩をすくめた。


 建国祭二日目の武術大会。王立騎士団が主催するこの大会には、国内外の騎士や冒険者が集い、力試しに挑む。

 俺も例年通り、団長命令で参加していた。


 つい先ほど準決勝を突破し、決勝の舞台に駒を進めた俺を前に、団長はあからさまにがっかりした様子だった。


 それも無理はない。

 去年と同じ──決勝の舞台で、またしても俺たちは対峙することになったのだから。


 一時間の死闘の末、わずかな差で団長に敗北した去年の試合が脳裏に浮かぶ。


「今年こそは勝たせてもらいますよ、団長」


 俺は静かに剣の柄を握りしめる。剣の腕なら、もう団長にも引けは取らないはずだ。

 それでも、土壇場では経験の差が勝敗を分ける──去年はそれを痛感させられた。


「はっ、バカ言え」


 団長は豪快に笑う。


「お前みたいな小僧には、まだまだ負けねぇよ」


 そう言いながら、団長は自慢げに首元のチョーカーを指で弾いた。奥方の手作りらしい。

 「女神の加護」だと、酔っ払うたびに自慢されるシロモノだ。


「で、お前の女神は見に来ないのかよ」


 団長が楽しそうに茶化してくる。


「……っ、だからそういうのじゃないって言ってるでしょう!?」


 酒場での一件以来、団長は何かと俺をからかってくる。

 どれだけ否定しても無駄だということは、長い付き合いで理解しているが、言わないわけにもいかない。


 俺は視線を剣に落とし、昨日の光景を思い出す。”彼女”が、王宮のバルコニーに立つ姿を見たときのことを。


 息を呑むような美しさだった。

 ロイヤルブルーのドレスが彼女の白い肌を際立たせ、繊細な銀糸の刺繍が夜空に浮かぶ星々を思わせる光を放っていた。

 気高く、そして完璧だった。


 だが、同時に思い知らされた。

 彼女は未来の王妃であり、王太子殿下の婚約者なのだと。


 その事実は、無言のうちに俺の胸を打ちのめした。


 バルコニーでアレクシス殿下に手を引かれ、王族の一員のように並び立つ彼女と、整列する騎士団の一員でしかない俺。

 その間に横たわる深く、厚い壁。


 剣の手入れをしようと、ゆっくりと鞘から刃を抜いた。


 この剣は、大切なものを守るためにある。そして王立騎士団は、この国を守るために存在する。だから俺は、彼女を守るためにこの剣を捧げることができるのだ。

 ──それで十分だ。


「決勝戦です。ヴィンセント団長、ライオネルさん、お願いします」


 騎士見習いの声が響き、俺たちは闘技場の門をくぐる。


 陽光が差し込む闘技場は、すでに歓声で満ちていた。


 ──そして、視線の先。


「なんだ、お前の女神が来てるじゃねぇか」


 団長がにやりと笑う。


 客席の向こう側。扉と正反対の位置に、”彼女”がいた。


 普段とは違う、平民に近い装いをしているが、その美貌は隠しきれていない。そこだけが異質な光を放っていた。

 彼女の隣にはリナ殿とルーク殿が並ぶ。三人で武術大会を見に来たのだろう。


 彼女の視線は、まっすぐこちらを見つめていた。

 気のせいかもしれないが、目が合ったような気がした。


 柄に触れていた手が、自然と強く握り込まれる。


「……団長」

「おう?」


 彼女を見つめたまま、俺は低く呟いた。


「やっぱり今日は──負けられません」


 一瞬、団長が少し驚いたような気配がした。

 だが次の瞬間には、楽しげに「そうか」と言うと、団長は大剣を抜いた。


「やってみろ。お前の女神に、いいところ見せてやれよ」


 太陽の光を浴びて、剣がきらめく。


 ──負けるわけにはいかない。俺はこの剣を、大切なものを守るために捧げると決めたのだから。

次回は2/24(月) 19:00更新予定です。

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 完全無欠の悪役令嬢はポンコツヒロインをほうっておけない
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