【リナ】特別な光 3
それに初めて気づいたのは、ライオネル先生との個別指導のときだった。
一ヶ月かけて、ようやくまともに素振りができるようになった私に、ライオネル先生は拍手を送ってくれた。
週に二回の個別指導。クラリス様は可能な限り付き添ってくれるのだが、その日は生徒会の仕事でどうしても参加できず、私は一人でライオネル先生の指導を受けていた。
「短期間で随分上達されました。頑張りましたね、リナ殿」
その言葉に、私は自然と頬が緩んだ。ライオネル先生は、平民の私にも変わらず丁寧に接してくれる。
先生は平民出身だが、この学園の卒業生であり、騎士団に入団後、騎士爵を与えられた立派な方だ。この学園に特待生として入学した生徒は、卒業後にお城で働き、爵位を与えられることも少なくないらしいが……正直、私にはそんな未来は想像もつかない。
とにかくライオネル先生は、誰にでも平等に接する素晴らしい先生だった。貴族でも平民でも、礼節を重んじつつ態度を変えることはない。正式にはこの学園の「特別講師」という立場だが、その誠実さから、生徒たちの間での尊敬は厚い。
そんな先生に褒められて、私は心の底から嬉しかった。そしてその喜びを、誰よりもクラリス様に伝えたかった。
「ありがとうございます! ライオネル先生とクラリス様のおかげです!」
そう伝えると、ライオネル先生は一瞬動きを止めた。ほんの僅かな間だったが、その表情には驚きが浮かんでいた。
次の瞬間、彼は柔らかく微笑んだ。その笑顔はいつもの爽やかさとは違い、どこか遠くを見つめるようなものだった。
「……そうですね。クラリス殿は、本当に素晴らしい方です」
その声色に、私は息を呑んだ。
ライオネル先生の精悍な顔に浮かぶ微笑みは、優しさと同時に切なさを孕んでいた。その目には、どこか憧れにも似た光が宿り、静かに吐き出された言葉は、なぜか私をその場に縫い止めてしまう。
──これはまるで……
頭の中に浮かんだ考えに、私は慌てて首を振った。
そんなことがあるはずがない。クラリス様は、王太子殿下の婚約者だ。そんな彼女に、先生が……
私はそれ以上考えるのをやめ、「ですよね!」と、ライオネル先生の言葉に笑顔で同意した。
しかし、そのときの笑顔は、もしかしたら少し引きつっていたかもしれない。
もう一本投稿します。




