【リナ】特別な光 2
クラリス様の仲裁のおかげで、殿下と私の間に漂っていた謎の緊張感は消え去った。しかし、それに代わるように、クラリス様の微笑みという新たな爆撃を受けることになったのだが。
殿下から、さっきとは打って変わったわかりやすい説明を受けながらも、私は先ほどの彼女の美しい笑顔を思い出し、思わず頬が緩む。
すると、その様子に気づいた殿下が、訝しげに眉をひそめた。
「あっ、ご、ごめんなさい! その、さっきの……」
慌てて両手を振りながら、私は消え入りそうな声で告げる。
「クラリス様の笑顔、きれいでしたよね」
自分でもなんということを口にしたのかと思うが、もう遅い。再び頬が熱くなるのを感じた。慌てて取り繕おうとするが、うまく言葉が出てこない。
「あの、えっと……!」
「……リナ」
殿下は私の名前を呟くと、視線を落とした。その表情は読めない。
え? なんだろう? お腹でも痛いんだろうか。
「……君は、クラリスと知り合いだったのか?」
突然の問いかけに、私はぽかんと口を開ける。
「クラリス様と知り合い……?」
冗談にしてもあり得ない。
確かに今はこの学園で彼女と知り合うことができたが、彼女は由緒正しい公爵令嬢。孤児院出身の平民である私に、これまで接点があったはずもない。
「い、いえ。この学園で初めてお会いしました」
困惑しながら答えると、殿下は俯いたまま、かすかに「……そうだよな」と呟いた。
夕焼けの光が、いつもは黄金に輝く彼の髪を赤く染めている。
その姿に、私はなぜか胸がざわつく。見てはいけないものを見てしまったような、そんな気がした。
アレクシス・フォン・エルデンローゼ様──この国の未来の王。将来、クラリス様と共にこの国を治める人。
その方が、葛藤している。
そして、その理由が私にあるような気がしてならない。もちろん、全く身に覚えはない……とは言い切れない。
クラリス様は、私を気にかけてくれている……と、思う。
初めは、学園の特待生としてふさわしい成果を出せていない私が、学園の名誉を汚さないようにと、生徒会副会長として助けてくださっているのだと思っていた。
しかし、この目まぐるしく変わる怒涛の一ヶ月。
その行動は、単なる義務感だけでは説明がつかないほどだった。
一見すると、上級貴族が平民を見下しているように見えるときもあったかもしれない。
けれど、こんなポンコツの私を、彼女は決して見捨てなかった。いつもそばにいてくれた。
そして、明日からの早朝特訓にも付き合ってくれるという。
──私は、確かにクラリス様に特別視されている。
その理由はわからない。もしかしたら、何か裏があるのかもしれない。
けれど、そうだとしても、彼女のわかりにくい優しさは、私の心をいつも温めてくれる。
それだけで、十分だった。
ただ、クラリス様の私への態度は、少しずつ彼女の周囲の人々にも影響を与え始めているようだった。




