【リナ】特別な光 1
──やっぱり、きれいだ。
クラリス様が去った後の生徒会室で、私は早鐘のように打ち続ける心臓を落ち着けるべく、深く息を吐き出した。
頬のほてりはまだ収まらない。けれど、それも無理はない。
だって、あんな笑顔を見せられたら、誰だってこうなる。
クラリス様自身に自覚はないと思う。
彼女がふと口元を柔らかく緩め、優しく微笑む──それを見たのは、これで二度目だった。
その瞬間、私はまたしても息の仕方を忘れてしまった。
それはきっと私だけではない。
同じように彼女の微笑みを目の当たりにした王太子殿下は、慌てて顔を背けていた。片手で口を覆い、小さく「何だ、あれは……」とうめいていた。
声が小さかったため、おそらくそれを聞いたのは私だけだろう。
彼女の婚約者ですらあの笑顔に当てられるのだ。私のような平民に耐えられるはずがない。
クラリス様とルークくんが帰った後、生徒会室には殿下と私の二人だけが残った。
つい先ほどまで動揺を引きずっていた殿下だったが、さすがは将来の国王様、今では冷静さを取り戻し、机に向かって書類をさばいている。
クラリス様が職員室から戻ってくるまで、私にとって王太子殿下はまるで理解不能な人だった。
手にした書類を指し示し、何やら説明を始めるその様子は、まるで政治の場で話をしているかのように厳格で、冷たい。
その口調や態度は、相手が大臣や政治家だったら通用したのかもしれない。
でも私はただの平民だ。突然そんな説明を受けても、言葉の意味すらわからない。
「……つまり、どういうことですか?」と問うべきタイミングもわからず、ただ黙って彼を見つめていた。
すると殿下はさらに説明を重ねる。けれど、言葉が重なるたびに、私の頭の中は真っ白になっていく。
ついには固まってしまい、ただの置物と化していた。
──この人のどこが「聖王子」なの!?
平民にも優しいと評判の王太子殿下。
それはもしかして、別の人の話だったのではないだろうか。
なぜこの人は、私にこんなにも厳しいのだろう?
次第に目尻に涙がたまり始めた私に気づいた殿下は、ようやく眉をひそめ、不思議そうに首を傾げた。
「……あのさ、アレクシス」
さすがに見かねたルークくんが口を開きかけた、そのとき──
クラリス様が帰ってきてくれた。
その顔はいつも通りの無表情だったけれど、私にはそれがまるで女神のように見えた。
もう一本投稿します。




