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完全無欠の悪役令嬢はポンコツヒロインをほうっておけない  作者: Kei
第二章 定期テストを乗り切れ

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【アレクシス】脅威

 私の婚約者だけでなく、将来の義弟までおかしくなってしまったようだ。

 先程のクラリスとルークのやり取りを目の当たりにし、私は戦慄した。


「ルーク、お前……」


 クラリスが生徒会室を出た後、呻くようにその名を呼ぶ。

 楽しそうに鼻歌を歌っていたルークは、私の様子に気づき、悪戯っぽく笑った。


「どうしたの、アレクシス? 変な顔してるよ」


 大変失礼な物言いだが、自分が普段とは異なる、苦虫を噛み潰したような表情をしているのは自覚しているため、言い返せなかった。


 このルークという男は、無害そうな外見に反して、底が見えない。

 もともとエヴァレット家の分家の出身で、クラリスが私の婚約者になった際、エヴァレット家を継ぐ者として、クラリスの弟となった。


 そのため、私とも幼い頃からの付き合いであり、私は彼に、自分を呼び捨てで呼ぶことを許している。

 クラリスの影に隠れがちだが、ルークは非常に優秀だ。おそらく、私の父と現在の宰相であるクラリスたちの父のように、将来、私はこの男と二人三脚で国を治めることになるだろう。


 ルークのクラリスへの感情が、単純ではないことは理解している。

 エヴァレット家に来たばかりの頃、まだ物心つくかつかない年齢だった彼が、厳しい指導に打ちひしがれていたのを私は知っている。

 そして、そんな彼をクラリスが陰ながら助けていたことも。


 完璧な姉に対する反発心と、同時に抱いていた憧れ。

 その複雑な感情ゆえに、彼はクラリスに対して素直になれなかった──今までは。


「……さっきのは何だ」

「さっきのって?」


 とぼけたふりをするルークを、私は鋭く睨みつけた。絶対にわかっていてやっている。その証拠に、私の反応を楽しむような笑みを浮かべている。


「そんな怖い顔しないでよ。リナが怯えてるよ」


 そこでようやく、この部屋にもう一人いる存在を思い出す。

 リナ・ハート──彼女はエメラルドグリーンの大きな瞳を瞬かせ、「え? 私?」と、名前を突然呼ばれたことに驚いている様子だった。


「ほら、姉さんに頼まれたんだから。ちゃんとリナに仕事を教えてあげてよ」


 ルークはそう言うと、手元の書類に視線を戻しながら軽く肩をすくめた。

 確かに、現時点で自分の仕事を終えているのは私だけだ。彼女に仕事を教えるのは、私の役目だろう。

 だが、問題はルークだ。本気を出せば、彼は既に自分の仕事を終わらせているはずだ。それを、わざと遅らせているように見える。


 ──さっきのクラリスとのやり取りが引っかかる。あれは一体何だったのか。


「あ、あの、えっと……」


 リナが困ったように、私とルークを交互に見た。戸惑いと緊張が伝わってくる。私とルークの間に漂う剣呑な空気が、彼女を困惑させているのだろう。

 私は一つ大きく息を吐くと、部屋の中央にあるソファーを指差した。


「そこに座りたまえ。仕事を教える」

「は……はい!」


 リナは慌てて姿勢を正し、ソファーに向かうと、ローテーブルに書類を置いて腰掛けた。彼女の動きにはぎこちなさが残るが、それでも姿勢だけはきちんと保っている。


「……話は後で聞かせてもらう」


 彼女の様子を横目で確認しつつ、私はルークに低く告げた。私の不機嫌さを感じ取ったのか、彼は苦笑した。


「本当になんでもないよ。ただ……うかうかしていられないな、と思っただけ」

「……どういう意味だ?」

「言葉通りだよ」


 ルークは静かに視線をリナに向けた。彼の空色の瞳に、どこか既視感のある感情が浮かんでいるのを感じた。それが何なのか、答えにたどり着けないもどかしさが眉間にしわを刻ませる。


 意味がわからない。このルークが、リナに脅威を感じている……というのか?

 飄々としながらも、優秀なこの男が?


 だが、それがどうしてクラリスへのあのような態度──まるで恋人に甘えるような様子につながるのか。その関連性が見えてこない。


 私はそれ以上考えても答えが出ないと判断し、リナの正面のソファーに腰を下ろした。視線を書類越しに彼女へ向ける。

 少なくとも、クラリスやルークに変化をもたらした中心には、彼女がいる。それは間違いない。


 私の視線を感じ取ったのか、リナの小柄な体がビクリと震える。姿勢をさらに正した彼女の額には、じんわりと汗が滲んでいるのが見えた。


 ──いいだろう。見極めてやる。

 この少女が、一体どれほどの脅威を秘めているのかを。

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 完全無欠の悪役令嬢はポンコツヒロインをほうっておけない
― 新着の感想 ―
とても面白いしストーリーが好きなので 毎日読んでいます。  次の話も楽しみにしています!
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