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完全無欠の悪役令嬢はポンコツヒロインをほうっておけない  作者: Kei
第一章 完璧にサポートしてみせます

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イケメンがすぎる 1

 ああ、本当に心臓に悪い。


 ライオネルの個別指導を終え、公爵邸へ帰宅した私は、鏡台の前で思わず突っ伏してしまった。完璧な公爵令嬢にあるまじき行為だと頭では分かっている。だが、誰も見ていないのだから、今日ぐらいは許してほしい。




 リナとルークが仲良く並んで素振りを行っているのを、まさに棚から牡丹餅だと満足げに眺めていたところ、隣にいたライオネルが突然私に向かって跪いた。さすがの鉄の表情筋も、この予想外の行動に動揺の色を隠し切れなかったはずだ。


「……ありがとうございます、クラリス殿」


 一体何が起こったのか。何故かお礼を言われたが、全く身に覚えがない。何に対して感謝されているのか。私の頭は混乱していた。


 顔を上げたライオネルの表情は、真剣そのものだった。そのまま瞳をじっと見つめられ、思わず息を呑む。


 ──ダメだ、イケメンすぎる。


 もし私がヒロインに転生していたら、間違いなくニヤけながらその胸に飛び込んでいただろう。しかし、それを許さない鉄壁の表情筋のおかげで、なんとか冷静を装うことができた。


 やがてライオネルは、ハッとしたように視線を逸らすと、勢いよく立ち上がった。そして、今度は謝罪の言葉を口にした。


「も、申し訳ありません、クラリス殿」


 ……本当に、何がどうなっているのだろう。


 内心で戸惑いながらも、それを表に出さないために再びリナとルークに視線を戻した。案の定、二人はこちらをじっと見ている。驚いた表情で、素振りを止めたままだ。


 それも当然だろう。大の大人が突然小娘に跪き、感謝と謝罪を繰り返しているのだから。


 そこで私は、彼がひざまずくに至った経緯に思い至った。


 そうだ、あれはヒロインとのイベントにあったシーンだ。

 「誰かを守るために剣を振るう」と語ったヒロインに、ライオネルが忘れかけていた剣を握る理由を思い出し、彼女に感謝を述べるという場面。

 これまた鬱設定の一つだが、ライオネルには唯一の肉親だった弟を魔物に殺されて失った過去がある。そのとき、彼を助けた剣術の師匠に勧められ、剣を学び始めた彼だが、当初の目的──かつて守れなかった大切なものを今度こそ守るという決意を、いつしか忘れてしまっていたのだ。

 その失いかけていた思いを思い出させてくれたヒロインに、感謝を述べるというのがそのイベントの内容だった。


 ……これって、まさか。

 一所懸命に剣に向き合うリナを見ているうちに、その思いを思い出したということ?

 そして、彼女との個別指導をセッティングした私に対して感謝を述べた……とか?


 もしそうなのだとすれば、ライオネルのリナへの好感度が確実に上がっている証拠になる。少し釈然としないものを感じるけれど、結果オーライなら深く考えるのはやめよう。


 ゲームをプレイしているときから思っていたけれど、ライオネルはどうしてこんなに考えすぎなのだろう。

 彼はこれまで騎士団に所属し、多くの人々を守ってきた。その剣で数々の命を救い、誇るべき実績を残している。目的を見失っていたとしても、彼はその目的をほぼ果たしていると言える。それなら、そのことをもっと誇りに思えばいいのに。


 ただ、彼が本当に「大切なもの」となる存在──ヒロインと絆を結べていない現状では、空虚感を抱えてしまうのも無理はない。


 でも大丈夫。私が絶対、あなたとリナの仲を取り持ってみせるから!


「その力が、大切なものを守るために使われるときが来ます」


 私は励ますつもりで、ライオネルにそう言った。彼の呼吸が一瞬止まる気配がする。

 やがて彼は小さく「はい」と答えた。それ以上は何も言わなかったが、その声には確かな決意の響きがあった。

今日も二本立てです。

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 完全無欠の悪役令嬢はポンコツヒロインをほうっておけない
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