【ライオネル】剣を取る理由 1
剣への抵抗感を克服しつつあるリナ殿が、ぎこちないながらも素振りを続けている。その動きには初回の授業で見せた無茶苦茶な振り回しはなく、型通りの動作をしようとする意志が感じられた。これならば、安心して見守れる。
彼女の隣では、ルーク殿が整った動作で規則正しい素振りを繰り返していた。吸収の早い彼は通常の授業でも進度が早く、教師たちからも一目置かれる存在だ。
最近は生徒会の書記にも抜擢され、多忙な日々を過ごしているはずだが、体を動かすことのほうが性に合っているのだろう。リナ殿の稽古に付き合うことでストレスを発散するように、軽快な音を響かせながら木剣を振っている。
二人の素振りが織り成す規則的な音が、静かなホールに心地よく響き渡る。
俺はそっと視線を隣の令嬢に移した。彼女は真剣な表情で、二人の動きをじっと見つめている。
クラリス・エヴァレット嬢。アレクシス殿下の婚約者にして、この国の筆頭公爵家の令嬢。
その氷のような美貌は、一目で見る者を圧倒し、寒気すら覚えさせる。感情を表に出さないその表情から、何を考えているのかを読み取るのは至難の業だ。
彼女の剣術の腕前は折り紙付きである。アレクシス殿下の剣術の稽古相手をしていたこともあり、俺も何度かその技を見る機会があった。以前、殿下との手合わせを目撃したとき、その動きは洗練され、無駄がなく、見事なものだった。
結果は引き分けに終わったが、彼女の表情には最後まで一切の乱れがなかった。本気で打ち込んでいたはずだが、それを顔に出すことはない。それゆえか、殿下は「手を抜かれたのだ」と心底悔しがっていた。
学園に入学してからも、クラリス殿の完璧さは変わらなかった。彼女は常に隙のない振る舞いを見せ、その姿には威厳すら感じられた。そして、その完璧さゆえか、感情を表に出すことはほとんどなかった。
そんな彼女に、微かな変化が見え始めたのは、彼女が最終学年に進み、リナ殿たち新入生が入学してきた頃だった。
クラリス殿がリナ殿を気にかけている様子は、初めから感じられた。彼女がリナ殿について俺に声をかけてきたことは、その一端を物語っている。
副会長として、生徒間で問題が起こるのを未然に防ぎたかったこともあるだろう。それに加えて、俺がリナ殿と同じく平民出身で、この学園で過ごすことの大変さを身をもって知っていると考えたのかもしれない。
そう、俺もかつて特待生として、このエリューシア学園に入学した身だ。十年前、平民でありながら剣術の腕を見込まれ、王立騎士団の現騎士団長から推薦を受け、この学園に入学する機会を得たのだ。
もう一本投稿します。




