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完全無欠の悪役令嬢はポンコツヒロインをほうっておけない  作者: Kei
第九章 完全無欠の悪役令嬢はやっぱりポンコツヒロインをほうっておけない

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彼女の選んだ結末

 ──ずっと、不安だった。


 私は前世の記憶を持っている。

 そして、この世界で起こるイベントのことも熟知していた。


 だから、私がヒロインを導けば、幸せな結末へと導ける──

 そう、信じていた。


 ……だけど。


 この世界の人々は、“生きている”。

 ゲームの中のアイコンなんかじゃない。

 確かな意思を持ち、体温を持ち、この世界で息づいている。


 彼らの生を、私の知識でねじ曲げてしまっていいのだろうか──


 いつからか、その考えが胸の奥に芽生え、消えなくなっていた。


 「封印の鍵」の守護者なんて設定を拝借しても、私がやってきたことは変わらない。


 私は──周りを、利用してきた。


 もちろん、それは“世界を救うため”だった。

 けれど同時に、“自分を救うため”でもあった。

 死亡フラグを回避するために、私は人々を物語の駒のように見ていたのかもしれない。


 そう思うたび、胸の奥が罪悪感で締めつけられた。


 ……それなのに。


「ずっと……見守っててくれたんですね」


 リナは、そう言って私を抱きしめてくれた。

 私を責めることも、問いただすこともせず。

 ただ、あたたかく受け入れてくれた。


 その腕の中で、彼女の体温が胸元に広がる。

 それだけで、張り詰めていたものがほどけていくのを感じた。


「ありがとうございます、クラリス様──」


 ──何かを言おうとして、言葉にならない。


 私はただ、彼女の肩に顔を埋めた。

 こらえきれなくなった熱が目から溢れ、リナのドレスを濡らしていく。


 いくつもの感情が渦を巻き、思考はもはや追いつかない。


 ……ダメだ。あの白い空間で泣いてしまってから、どうやら涙腺が脆くなってしまったようだ。


 ──あの白い空間。


 あそこで出会った、金色の瞳をしたもう一人の自分。


 ……あれが、「封印の鍵」の守護者?


 ──今度こそ、守る──


 “彼女”は確かにそう言った。

 その言葉は、父が語ったエヴァレット家の誓いにも通じていた。


 ということは……やっぱり、私は「封印の鍵」の守護者だということなのだろうか。


 その結論に辿り着いた瞬間、軽いめまいを覚える。


 今のクラリスには──

 前世の私。

 今世の私。

 そして、守護者の私。


 ……三人、いるってこと?


 …………重い。重すぎる。

 盛り過ぎだと思います。


 そんなことを考えているうちに、頭の芯が冷えていき、涙も少しずつ引いていった。

 リナのドレスに顔を埋めていたおかげで、涙が頬を伝うことはなかったらしい。


 私は何食わぬ顔で顔を上げ、そっと周りを見渡す。


 ──私、泣いてませんよ。


 ……でも。

 周囲の視線が、やけに生暖かい。

 全然ごまかせていない。悔しい。


 見なかったことにして、私はリナのほうへ向き直る。

 彼女もまた顔を上げていて──頬には涙の跡が残っていた。


 気づけば、今度は私がそっとその涙を拭っていた。


 リナはくすぐったそうに笑った。

 その笑顔を見て、胸の奥がじんわりと温かくなる。


 私たちが落ち着くのを待っていてくれたのか、陛下が静かに口を開いた。


「──では、クラリス。『古代の神』について、知っていることを教えてもらえるだろうか」


 私はゆっくりと陛下に向き直る。


 とはいえ──


 実のところ、私も「古代の神」については、よくわかっていない。


 確かに、「古代の神」ルートという課金ルートは存在した。

 それは、課金キャラを含めた全ルートをフルコンプした強者だけが開放される、選ばれし者の道。

 そこで初めて、「古代の神」に関する裏設定が明かされるらしい。


 ──が、残念ながら私は無課金プレイヤーである。


 ……実物の「古代の神」。ゲーム中でもかなりの破壊力だったけれど、現物はその比ではなかった。

 あの中性的な美貌、確かに課金する価値はあったかもしれない。

 一体どんな萌えイベントがあったのだろう。……超気になる。


 ──いや、今はそこじゃない。


 ここで必要なのは、そんなファン向け情報ではなく、「古代の神」をどう封じ込めるかという話だ。


「……わたくしは見ておりませんが、リナが『封印の鍵』を使って、『古代の神』を退けたと聞いております」


 そこで言葉を切り、私は息を整えて続けた。


「──けれど、『古代の神』を完全に封じ込めることができたわけではないと思います」


 その瞬間、謁見の間に緊張が走った。


 ……もちろん、すでに私が知っているシナリオを大きく逸脱している現状を鑑みれば、断定はできない。

 ただ──


 今、ここに「封印の鍵」が存在しているということは、そういうことなのだ。


 「封印の鍵」は「古代の神」の封印とともに、その役割を終えて消える。

 その鍵がリナのもとにあるということは──「古代の神」は、まだ完全には封印されていない。


 私はそれを、まるで守護者としての記憶を語るように説明した。

 王は納得するように小さく頷く。


「『封印の鍵』がここにあるという事実が、『古代の神』が封印されていないということを証明しているということか」

「はい。そして、『古代の神』を完全に封印するには……その本体を、探す必要があります」


 そう告げると同時に、私はこの場で唯一退屈そうにしていた魔術師団長へと視線を向けた。


 シリル・アルヴァレス。

 黒薔薇を胸に抱く王国最強の魔術師は、私の視線に気づくと、ゆっくりと口角を上げた。


 胸元の黒薔薇を指で持ち上げ、優雅に口づける。


「──さすがクラリス嬢。やはり君は、私の隣にいるべき人物だね!」


 ──お断りします。


 脳内で全力で拒絶しながらも、表情筋は無表情を貫く。


 だが──その瞬間、空気が一変した。

 背後から、ぞくりとするほど鋭い殺気が放たれる。


 ……怖くて、振り向けない。


 アレクシスとシリルは仲が良くないのは知っている。

 けれど、この殺気は彼ひとりのものじゃない。

 背後で何が起こっているのかわからず、思わず体が強張る。


 そのとき、隣に立っていたリナが私の腕にそっと絡みついてきた。

 視線を向けると、彼女はぷくっと頬を膨らませ、愛らしくも怒った表情でシリルを睨みつけている。


 ……なにこの状況。謎すぎる。


 一方のシリルは、この部屋に満ちる異様な空気など気にも留めず、どこからともなく分厚い古文書を取り出した。


「そうだ。君の推察どおり、『封印の鍵』が封じるべき厄災──『古代の神』の本体を見つける方法を、私は知っている」

「はぁ? なんでお前が知ってるんだよ?」


 王を挟んだ反対側に立つ騎士団長の台詞は、謁見の間にいる全員の思いを代弁した格好になった。

 宰相からも射るような視線が飛んできたにもかかわらず、シリルは満面の得意顔で言葉を重ねる。


「脳みそまで筋肉の君には無理だろうが、私はあらゆる言語に通じている。たとえ古代語であっても、私には赤子の手をひねるようなものさ。君とは違ってね?」

「てめぇ、しばくぞ」


 人を小馬鹿にした物言いをするシリルに、ヴィンセントは露骨に顔をしかめた。


 シリルは宰相である父からの命を受け、「封印の鍵」に関する情報を探していたらしい。

 そのため、王国に古くから伝わる文書を保管している資料室への入室を許可されていた。

 そして、そこで──「封印の鍵」が封じるべき厄災の記録を見つけたのだという。


「……私は何も報告を受けていないが?」

「今しましたよ、ここで!」


 父からの苦情を、まるで挨拶のように軽やかに受け流す。


 ……やっぱり厄介だ、この人。

 この魔術師団長のほうが、よっぽど国にとって厄災なんじゃないかと思ったが、さすがに口にはしなかった。


「だが、クラリス嬢はお見通しだったようだ。やはり君は只者じゃないね!」


 シリルの中で、私の株が爆上がりした。

 本当に、やめてほしい。


 シリルからの熱視線と、背後からの冷気に風邪を引きそうになる。

 寒暖差が激しすぎる。喧嘩はよそでやっていただきたい。


 謁見の間に渦巻く緊迫感などどこ吹く風とばかりに、シリルは優雅な足取りで階段を降り、私とリナの前に立った。


「そしてリナ嬢。私は君にも興味がある!」

「えぇ……!?」


 シリルの圧に、リナが怯えたように身を寄せてくる。気持ちはわかる。


 彼にしてみれば、「封印の鍵」という未知の力を持つリナも興味の対象なのだろう。迷惑な話だ。


 私はリナを庇うように一歩前に出ようとしたが、それよりも先に彼は私たちの背後へと回り込んだ。

 流れるような動きで、シリルの腕が私とリナの腰に回される。


「『古代の神』の本体を見つけるための魔法陣は用意した。あとは『封印の鍵』である君がそれを使うだけさ。さあ、行こうではないか!」


 ──それは知っている。

 シリルがその情報を見つけ出して、このあとヒロインが魔法陣を使い、本体の居場所を見つけることも。


 知ってるけど、なんであなたが勝手にリナをエスコートしようとしているの!?


 ここはヒロインと絆を結んだ相手が、手を取り合って魔法陣に挑むシーンだ。

 少なくとも、リナはシリルと絆なんか結んでいないはず。


 隣のリナは、私の腰に回された彼の手を凝視し、明らかに怒っているように見えた。頬がリスのように膨らんでいる。

 ……それはそうだろう。好きでもない相手に腰を抱かれたら、不快に決まっている。


「シリル様──」


 そのまま強引に引率されそうになったところで、抗議の声を上げようとした瞬間、別の方向から腕を引かれた。

 私とリナの体がぐいっと後ろへ引き寄せられ、間に誰かの背中が立ちはだかる。


 ──凛とした声が響いた。


「……姉さんとリナに、触らないでくれる?」


 私たちをかばうように前に立っていたのは、ルークだった。

 後ろからは横顔しか見えないが、ルークが本気で怒っているのが伝わってくる。


 ルークがこんなに怒るなんて……

 やっぱりあなたが、リナの──


 私が感動に打ちひしがれそうになるところに、別の影がルークの隣に並んだ。


「冗談が過ぎます、シリル師団長」


 ライオネルだった。

 彼にしては珍しく、怒気をはらんだ声でシリルを見据えている。

 その手が、腰の剣の柄に伸びた。


 通常、謁見の間で佩刀は許されないが、彼だけはリナの護衛のため、腰に愛剣を帯びていた。


「──今度、彼女たちに触れたら。俺はあなたを斬ります」


 物騒!


 あまりの迫力に、言葉を失う。

 柄を握る手に迷いはなく、その姿だけで本気だとわかった。


 ……え? ちょっと待って。

 これは、護衛としての責任感? それとも、ライオネルがリナの──


 混乱する脳内が状況についていけない。

 事態を整理できないまま、さらにもう一人の人物が前へ出た。


「話なら、私が聞こう」


 ──アレクシス、お前もか。


 どこぞの皇帝のようなセリフを心の中で呟いてしまう。


 うまく隠してはいるが、長い付き合いの私にはわかる。

 他の二人同様、アレクシスも怒っていた。


「だから──今後一切、彼女たちに近づかないでいただきたい」


 …………ええ?


 どうなっているの、これは。

 結局、誰がリナのお相手なの……!?


 三人の怒気が謁見の間に満ちていく。

 その怒気を正面から浴びたシリルは、心底不愉快そうに肩をすくめた。


「何を言っているんだ、君たちは。私が彼女たちのサポートをすることが、世界にとって一番いい選択ではないか!」


 確かにシリルの実力は規格外だ。彼がリナのサポートに回れば心強い。

 ──けれど、そういうことじゃない。

 ここは乙女ゲームの世界なのだ。強さだけでは意味がない。愛のないサポートなど、イベントの邪魔でしかない。


 シリルの妄言に、アレクシスたちの怒りはさらに増していく。


 ──そのとき。


「……シリル」


 三人の横を通り抜け、ゼノが静かにシリルの前に立った。

 彼はシリルの同期だ。もしかしたら、この厄介な魔術師団長を止めてくれるのかもしれない。


「ああ、ゼノ! このわからず屋たちは、一体どうしたら──」


 いつもの調子でゼノに話しかけ──シリルは動きを止めた。


 真紅の瞳が、大きく見開かれていく。


 ゼノの顔はこちらからは見えない。だが、シリルの表情には明らかな驚愕が浮かんでいた。……彼があんな顔をするのは、初めて見た。


 やがて、シリルは興味深そうに目を細め、黙って両手を上げた。


「──なるほど、面白い」


 ちらりとこちらに視線をよこすと、端正な顔に艶やかな笑みを浮かべた。


「私の親友にこんな顔をさせるなんて……さすがはクラリス嬢だ」


 ……どんな顔? しかも、私のせい??


 頭の中が疑問符でいっぱいになる。


 私たちの前に立ちはだかってくれた四人。

 ──彼らはいずれも、攻略キャラだ。


 この中の誰かと、リナは絆を結んでいるはず。

 結んでいる、はずなのに……

 それが誰なのか、さっぱりわからない……!


「──そこまでだ、お前たち」


 収拾のつかなくなってきた状況に、国王の声が響いた。


 そちらに顔を向けると、呆れた顔の陛下、隣で大笑いする騎士団長、そして無表情の中に不機嫌さを隠せていない宰相──父の姿があった。


「だから言っただろ! 周りがほうっておかないってな!」

「……ああ、よくわかった。エドワード、お前も苦労するな……」

「……」


 同年代の仲良し三人組は、なにやら楽しそうだ。

 こっちは大変な状況なのに、何を楽しんでいるのか。


 とりあえず陛下の号令で、私たちは別室へ移動することになった。

 シリルが用意した魔法陣のある部屋──そこで「古代の神」の本体を探し出すことになる。


 私はゴクリと息を呑んだ。

 これは、ゲームと同じ展開だ。

 シリルの描いた魔法陣の上にエルデンローゼ王国の地図が広げられ、そこで「古代の神」の本体の居場所が明らかになる。

 その場所は、ヒロインと絆を結んだ相手──つまりリナのお相手とゆかりの深い場所であるはずだ。


 それがわかれば、彼女が誰と結ばれたのかが明らかになる。


 ……その時点で、私はお役御免だ。


 これからリナを導く役目は、その攻略キャラに譲ろう。

 私がいては、ただの邪魔者でしかない。


 私は静かに、ここで彼女たちの安全を祈って──


 達成感と、わずかな寂しさに浸っていると、誰かにくいっとショールを引っ張られた。

 そちらに視線を向けると、リナがショールの端をつかみ、頬を赤く染めて俯いていた。


 ……あれ? このシーン、どこかで見たような……


「クラリス様……」


 そう。

 自分の宿命を明かされ、不安に襲われたヒロインが、隣に立つ攻略キャラの服を掴み、そして──


「そばに……いてくれますか?」


 ……ちょっと待って。

 今、あなたが掴んでいるのは、攻略キャラの服ではなく──


「私、色々とわからないことだらけで、すごく怖いです……でも」


 リナは顔を上げた。

 エメラルドグリーンの瞳が、まっすぐにこちらを見据えてくる。


 私は動けなかった。

 そう、まるでイベントシーンの中に取り込まれたみたいに──


「クラリス様が……あなたがいてくれれば、私、頑張れる気がするんです」


 ──そのセリフ。


 ふわりと微笑むリナは、まさしく攻略キャラとの絆を信じ、未知の運命に立ち向かおうとするヒロインそのものだった。


 ……まさか、これは。


 私は恐る恐る周囲を見渡す。

 全員の視線がこちらに注がれている。あたたかく、見守るような眼差しで。


 ゆっくりとリナへ視線を戻す。

 その瞳には、確かに恋愛イベント特有の光が宿っていた。


 ──この、ルートは。


 記憶を取り戻して以来の出来事が、走馬灯のように脳裏を駆け巡る。

 ずっと感じていた小さな違和感、バラバラだった出来事のピースが、ある仮定をもとにカチリと噛み合った。


 これは、まさか。


 リナの熱い眼差しを受け止めながら、私はようやく悟った。

 冷や汗が、背筋を伝う。


 ──まさかの、「悪役令嬢ルート」。


 そんなもの、このゲームには存在しない。

 「Destiny Key ~約束の絆~」に、悪役令嬢クラリス・エヴァレットとヒロインが共に歩むルートなど──どこにも、ない。


 ないはず、なのに。


 ……リナはそれを、こじ開けてしまったのだ。


 私は言葉を失った。何を言えばいいのかわからず、口がわなわなと震える。

 助けを求めるように周囲を見渡すと──攻略キャラたちは、なぜか全員、静かに私たちを見守っていた。


 アレクシス。

 少し融通が利かないけれど、パッケージのど真ん中を飾る王道ヒーロー。何でも完璧にこなすくせに、本気で好きになった相手には不器用になる……そのギャップ、尊すぎる。


 ライオネル。

 騎士萌え勢の心を直撃する、絵に描いたような忠誠系騎士様。意外と純情で、抱える悲しい過去ごと包み込みたくなる……ああもう、推せるにもほどがある。


 ルーク。

 明るい同級生キャラ好きにはたまらない、癒やし系のフレンドポジ。あのファビュラスな学園で、唯一、気取らずに話せる貴重な存在だ。


 そしてゼノ。

 大人の色気をこれでもかとまき散らす、危険な香りの魔術教師。心臓に悪いほどのフェロモンを放ちながらも、もしその視線が自分だけに向いたら……ああ、破壊力が高すぎる!


 ──こんなにも。

 こんなにも魅力的な攻略キャラたちが揃っているというのに──


 どうしてヒロインは、よりにもよって悪役令嬢の袖を掴むのか。


 ──なんてポンコツなの、リナ!


 あまりの衝撃に、意識が飛びかけた。

 すんでのところで、私はそれをこらえる。


 知っていた。

 リナがヒロインとしては、とんでもなくポンコツだということは──最初から。


 だからこそ、私はここまで全力でサポートしてきたのだ。

 自分で言うのもなんだけれど、あのサポート体制は完璧だったはず。


 ……はず、なのに。


 私が答えずにいるせいか、リナの手がぎゅっとショールを掴む。

 その指先に力がこもり、不安げな瞳が揺れる。


 ──ああ、もう。


 私は小さく息を吐き──観念した。


「……当たり前でしょう?」


 掴まれた手に、自分の手をそっと重ねる。

 そのまま指先を包み込み、今の私の表情筋で動かせる最大領域を使って、微笑んだ。

 多分──笑えていると思う。


「あなたみたいな子を、わたくしがほうっておくわけないでしょう」


 その瞬間、リナの顔がぱっと輝く。

 ああ、知っている。この笑顔──

 ヒロインが、攻略キャラと絆を結んだときにだけ見せる、特別な笑顔だ。


 ──新たなルートは、切り開かれてしまった。


 もう、この先に何が起こるのか、私にもわからない。

 楽勝だと思っていた「古代の神」の封印も、一筋縄ではいかないかもしれない。


 けれど。

 それでも。


 この完全無欠の悪役令嬢は──やっぱり、ポンコツヒロインをほうっておけないのだ。


 ……きっとそれが、彼女が選んだこの物語の、いちばん幸せな結末なのだから。


最終回なので、長くなってしまいました……!


次回エピローグで最後ですので、お付き合いいただけると幸いです。

本日12月9日(火) 19:10、更新予定です。


最後までよろしくお願いいたします!!

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(※音が出ます。音量にご注意ください)
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(クラリスとレティシアの“はじまり”を描いた物語です)

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 完全無欠の悪役令嬢はポンコツヒロインをほうっておけない
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