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完全無欠の悪役令嬢はポンコツヒロインをほうっておけない  作者: Kei
第九章 完全無欠の悪役令嬢はやっぱりポンコツヒロインをほうっておけない

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153/155

【ゼノ】見守る者

 「封印の鍵」の守護者──


 その名を耳にするのは、これで二度目だった。


 以前、クラリスに催眠の香をかがせ、情報を引き出したとき。

 金色の瞳を宿した彼女は、確かにその名を口にした。


 あのときは、その言葉の意味を掴みかねていた。

 他に優先すべき情報が多すぎて、その単語は記憶の奥底に沈んでいた。


 ──そして、今。


 「封印の鍵」の守護者とされたクラリスが、王の前で静かに語っている。


「わたくしが“守護者”であるかどうかは……わかりません」


 彼女は、こことよく似た世界の記憶があること。

 その世界でも、リナが「封印の鍵」の力を持つ者であり──

 仲間との絆によってその力を開花させ、「古代の神」と呼ばれる脅威に立ち向かうこと。

 

 それらを、慎重に言葉を選びながら語っていた。


 両腕を抱きしめるようにして立つ姿は、まるで自らを守る防壁のようだった。


 ……謁見の間に現れたときから、違和感があった。


 以前の彼女に感じていた、張り詰めた弦のような緊張感が、今はどこか、緩やかに解けている。


 まるで、何かから解放されたような──


 ただ、その一方で。

 今までよりもどこか不安定で、儚く掻き消えてしまいそうな危うさも感じられた。


 脳裏に、グランドナイトガラの夜──血に沈む彼女の姿が蘇る。


 あのときは、本当に間に合わないと思った。

 また自分は、目の前で“守りたいもの”を失うのではないかと、己に絶望した。


 ミレイユの治癒魔術によって彼女の傷が塞がったのは確認していた。

 だがその後、エヴァレット家は親族とミレイユ以外の面会を固く禁じた。

 理解できる措置だった。──回復期の彼女を他人に見せたくなかったのだろう。


 治癒魔術は万能ではない。

 傷を塞ぐことはできても、それは回復の先送りにすぎない。

 完全な回復には、自身の体力と魔素を代償にする必要があり、深い傷ほど、その過程は死を望むほどの苦痛を伴う。


 ……やろうと思えば、彼女の様子を影を通じて確認することもできた。

 だが、私はそうしなかった。

 万が一、彼女に何かあったとしたら──それを見るのが、怖かった。


 内心で苦笑する。

 「王家の影」としては、あまりに情けない理由だ。


 けれど、今日この場で彼女の姿を見た瞬間──

 私は心の底から安堵した。

 ……今回は、失わずに済んだのだ。


 先ほど語られたエヴァレット家の歴史が、ふと脳裏をよぎる。

 「封印の鍵」の力の持ち主を救えなかった“守護者”の気持ちが、少しだけ理解できた気がした。


「お前がその記憶を得たのは、いつのことだ?」


 宰相が問いかけると、クラリスは少し考えるように俯き──やがて、顔を上げる。


「リナに……初めて会ったときです」


 ──なるほど。


 その場にいた者たち、特にアレクシス、ライオネル、ルークが一斉に表情を変えた。

 皆、同じことを思ったのだろう。


 私たちが“クラリスが変わった”と感じた瞬間と、まったく同じだったからだ。


 リナと出会って以降の彼女の行動は、本人の自覚がないとはいえ、まさに“守護者”のそれだった。

 常にリナを案じ、リナのために動き、命を賭してリナを守った──


「クラリス様……」


 リナが、クラリスをじっと見つめていた。

 その真っすぐな視線を受けて、クラリスの表情がわずかに曇る。


「……黙っていて、ごめんなさい」


 リナからすれば、黙って一方的に庇護を与えられていたことになる。

 クラリスは、自分の行動を身勝手と感じ、申し訳なさを抱いているように見えた。


 ──だが、それは杞憂だろう。


 リナは小さく首を振り、ゆっくりとクラリスに歩み寄る。

 そしてその腕を伸ばし、ためらいなくクラリスの首に回した。


 クラリスの胸元に顔を埋め、リナはかすかに呟く。


「ずっと……見守っててくれたんですね」


 その一言に、クラリスの動きが止まった。

 視線だけをリナに向けたまま、言葉を失う。


「ありがとうございます、クラリス様──」


 クラリスの紫紺の瞳が大きく見開かれる。

 何かを言おうとして、唇が震え──

 だが、次の瞬間、彼女はリナの肩にそっと顔を埋めた。

 その腕が、リナの背へと回される。


 お互いを抱きしめるように。

 お互いを守るように。


 静かな光の中で、二人の輪郭が重なった。


 クラリスの顔は、漆黒の髪に隠れて見えなかった。

 けれど──その肩が、小さく震えているのが見えた。


 ……あのクラリスが、涙を流しているのかもしれない。


 誰も言葉を発さず、謁見の間には、ただ二人の呼吸だけが響いていた。


こちらはep.71の伏線回収になります。

まさか伏線回収に、こんなに時間がかかるとは思いませんでした(笑)。


今回のX投稿イラストは、抱きしめ合うクラリスとリナです。


次回ep.154は最終回、ep.155はエピローグになります!

それぞれ12月9日(火) 19:00、19:10と連続更新予定です。


ここまで読んでくださった皆さまに、心から感謝を……!

最後までお付き合いよろしくお願いいたします!!

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 『わたくしの推しは筆頭公爵令嬢──あなたを王妃の座にお連れします』
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 完全無欠の悪役令嬢はポンコツヒロインをほうっておけない
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