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完全無欠の悪役令嬢はポンコツヒロインをほうっておけない  作者: Kei
第九章 完全無欠の悪役令嬢はやっぱりポンコツヒロインをほうっておけない

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152/155

守護者

 エルデンローゼ王国の建国よりも、さらに昔。

 この世界が滅びの危機に瀕したとき──

 初めて、「封印の鍵」の存在が確認された。


 その力の持ち主は、一人の女性だった。

 彼女は世界を救ったが、その代償として命を落とした。


 一度は危機が去ったものの、厄災は完全には封印されず、時が満ちれば、再び姿を現す。

 そして、そのたびに世界を救う「封印の鍵」の力が、新たな持ち主とともに現れる。


 ──それが、エルデンローゼ王国に古くから伝わる伝承。

 そして、私も知っている歴史だ。


 建国後も、幾度となく破滅の兆しが訪れた。

 だが、そのたびに「封印の鍵」の継承者が現れ、世界は救われてきたという。


 父の口から語られたのは──その伝承の“裏側”だった。


 「封印の鍵」の力の持ち主には、常にその傍らで、彼女を守り続けた存在がいた。


 それが、初代エヴァレット家当主。

 「封印の鍵」の守護者である。


 守護者は、常に彼女とともにあった。

 けれど、最後の瞬間──彼女を守りきれなかった。

 救えなかったことを、深く悔いたという。


 だからこそ、彼は誓った。


 もし彼女が再びこの世界に現れるなら──

 “今度こそ、守る”と。


 その誓いを果たすために、守護者は強い家を築き、国における権力を保ち続けた。


 そして、その意志は今も受け継がれている。


 「完璧であれ」──


 それはただの家訓ではない。

 すべては「封印の鍵」を守るために。

 “彼女”を守るためだけに、我々の誓いは存在する。


「これまでにも、『封印の鍵』が現れたとき、エヴァレット家にもまた、前世の記憶を持つ者が現れ、“守護者”として覚醒しました。──しかし」


 ──結末は、変わらなかった。


 最後には「封印の鍵」の持ち主を犠牲にし、守護者としての役割を果たせぬまま、終わってきた。


 何度も。何度も。


 そのたびに、エヴァレット家は悔恨に身を焼き、さらなる完璧を求め続けた。


 いつか、“彼女”を本当に救うために。


「それが──エヴァレット家の当主にのみ伝えられる、我々しか知らぬ真の歴史です」


 父が語り終えた瞬間、謁見の間に静寂が落ちた。

 誰もが言葉を失い、ただ重い空気が満ちていく。

 その沈黙の中で、私もまた──


 ……完全に初見です。本当にありがとうございました。


 …………いやほんと、知らないです、そんなこと。

 設定資料集にも書いてなかった設定がここで出てくるとか、反則では?

 そもそもゲーム中で、ヒロインとクラリスがそこまで深く関わるイベントなんてなかったはず。

 せいぜい、最後のバッドエンドくらい──


 ──そういえば。

 バッドエンドで、なぜクラリスはヒロインのもとに現れたのだろう。

 誰とも結ばれなかったヒロインの前に現れ、彼女は「古代の神」に立ち向かって──


 ……もしかして。

 “クラリス”は、ヒロインを守ろうとした……?


 あのシーンを初めて見たときは、ただの悪役令嬢ムーブ──ヒロインにお小言を言いに来たのだと思っていた。

 けれど視点を変えれば、あれは“クラリス”がヒロインの危機を察して駆けつけたようにも見える。


 ……今の話を聞くと、そう考える方が自然かもしれない。

 それに、ゲーム中に入りきらなかったエピソードを補完した「設定資料集+」が出るって話もあったし。

 せっかく予約していたのに──その前に私は……


「クラリス」


 前世の記憶にダイブしていた意識が、父の低い声によって、現実へと引き戻された。


 頭の中で繰り広げていた妄想をいったん遮断し、何食わぬ顔で父に向き直る。


 父は──いつもの無表情の中に、わずかに苦しげな色をにじませていた。

 それは、家族である私やルークにしかわからないほどの微かな変化。

 けれど確かに、父の中で何かが揺らいでいるのを感じ取った。


「……すまなかった」


 突然の謝罪に、私は思わず瞬きをする。

 ……謝罪? なぜ? 何を?

 混乱のまま、私は父の顔を見つめ返した。


 父は視線を逸らさず、まっすぐに言葉を続けた。


「お前が“守護者”として覚醒していたことは、薄々感じていた。だが、本当に前世の記憶──そして予知能力があるのか、確信が持てなかったのだ」


 ……いや、確かに前世の記憶はありますけど。

 それは“守護者”のじゃなくて、“プレイヤー”としての記憶です。

 予知能力? ゲーム知識のことでは?


 父の真剣な眼差しを受けながら、私は同じく真剣な顔で、心の中だけで盛大にツッコミを入れる。


「だが今回の件で、お前は確かに『封印の鍵』の守護者であり、前世の記憶を持つ者だと確信した」


 ──違います。


 違う、けど……


 ここで「実はここ乙女ゲームなんです」なんて言ったら、国の中枢を大混乱に陥れる未来しか見えない。


 今日も安定稼働する鋼鉄の表情筋に感謝しつつ、私は内心の計算を隠して、静かに頷いた。


 ──よし。なんだかよくわからないけれど。

 その設定に乗らせてもらうことにしよう。


ep.65あたりに出てきた伏線を、ようやく回収することができました。

我慢してここまで読んでいただきありがとうございます!


今回のX投稿イラストは、二人のクラリス(公爵令嬢と守護者)です。


次回ep.153は、ゼノ視点でクラリスの語りを見ます。

12月5日(金) 19:00更新予定です。お楽しみに!


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 『わたくしの推しは筆頭公爵令嬢──あなたを王妃の座にお連れします』
(クラリスとレティシアの“はじまり”を描いた物語です)

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 完全無欠の悪役令嬢はポンコツヒロインをほうっておけない
― 新着の感想 ―
ここは乙女ゲームなんです、ってちょっと言ってもらいたいかもしれない……!笑
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