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完全無欠の悪役令嬢はポンコツヒロインをほうっておけない  作者: Kei
第九章 完全無欠の悪役令嬢はやっぱりポンコツヒロインをほうっておけない

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全員集合とか聞いてない 2

 謁見の間に入ると、国王陛下と宰相である父の姿はまだなかった。


 けれど、視線の先に──ずっと気にかけていた人物を見つけ、ほっと息を吐く。


「クラリス様……?」


 相手も、すぐにこちらに気づいた。

 大きなエメラルドグリーンの瞳を見開いたリナが、信じられないものを見るように私を見つめていた。


 今日のリナは、淡い水色のドレスに身を包み、胸元には小さな宝石が光っている。

 柔らかな水色が彼女の白い肌を優しく引き立て、まさにヒロインらしい装いだった。


 ──大変、可愛らしくてよろしい。うん、百点満点。


 などと心の中で頷いていたせいで、リナの全力タックルに対する備えがまるでできていなかった。


「クラリス様っ!!」


 不意を突かれたが、なんとか彼女の体を受け止める。

 せっかくの可愛い装いなのに、すでに顔は涙でぐしゃぐしゃだった。


 ──それだけ、心配をかけてしまったということだ。


 その事実に胸が痛む。

 ……力いっぱいの突撃で肩の傷も痛んだが、顔には出さないでおこう。鋼鉄の表情筋は、今日も健在である。


 私はリナの顔をハンカチでそっと拭き、穏やかに言葉をかけた。


「心配をかけてごめんなさい。……わたくしは、もう大丈夫よ」

「クラリスさまぁ……っ!!」


 ──せっかく拭いたのに。

 次から次へと涙があふれてきて、努力は一瞬で水泡に帰した。


 ……まぁ、今回はもういいだろう。

 なにせ、彼女はすでに絆を結んだ相手がいるのだ。

 このくらいの失態は、誤差の範囲だ。


 そんな彼女の顔を拭き続けていると、ふと視線を感じた。

 そちらに目を向けると、リナの後ろでライオネルが静かに佇んでいた。

 その穏やかなアイスグレーの瞳にも、リナと同じ安堵の色が浮かんでいる。


「……ご無事で、何よりです」


 短い言葉の中に、深い感情が滲んでいた。

 胸の奥がじんわりと温かくなる。彼にも心配をかけてしまったのだ。


「ありがとうございます、ライオネル様──」


 彼の名を呼んだ瞬間、私は内心で小さく首を傾げた。


 今、この謁見の間には──

 アレクシス、ライオネル、ルーク。


 ……三人の攻略キャラが、いる。


 私の知るこのイベントでは、本来ここにいるのはヒロインと“選ばれた相手”ただ一人のはずだ。


 なのに、なぜ三人も……?


 混乱が広がる中、さらに奥の方にもう一人の姿を見つけ、思わず息を呑む。


 ──嘘。どうして、あなたが。


 私の視界の先で、その人物が静かに歩み寄ってくる。

 気づけば、彼は私の目の前に立っていた。


 眼鏡の奥のアメジストが、いたずらっぽく輝く。


「──こんにちは、クラリス嬢。元気になったようだね」


 唇に浮かぶ微笑は、いつもと変わらぬ妖艶さ。


 けれど──私の思考は追いつかず、ただ、彼を見つめることしかできなかった。




 ……情報を整理しよう。


 ここは謁見の間。

 これから起こるイベントは、ヒロインが自身の運命を明かされるというもの。


 だから、リナがここにいるのは当然だ。


 私が呼ばれた理由も、おそらく──あの夜の事件を予見していたからだろう。

 そこまでは、いい。


 問題は、攻略キャラの四人。


 ルークは私の付き添い。

 アレクシスはエスコート役。


 ライオネルは、どうやらリナの護衛として同行しているようだ。

 なぜ護衛に──とは思わない。

 リナはこの国にとって最重要人物。今回こそ無事だったが、次に同じことが起これば、彼女を守れる防衛線が必要だ。


 そして──ゼノ。

 彼は「王家の影」としてではなく、証言者としてここに呼ばれたらしい。

 あの場で「古代の神」と対峙したのは、私とリナ、そして彼だけ。

 表向き一介の魔術教師である彼も、関係者として呼ばれてもおかしくはない。


 ……いや。

 おかしい。おかしすぎる。


 私が知るシナリオとは、あまりにも違う。


 アレクシス、ライオネル、ルーク──この三人はまだ理解できる。

 彼らはリナと絆を結んだ可能性がある。

 フラグもばっちり、好感度も十分なはず。


 でも──ゼノは違う。

 彼のルートは、あの必須フラグを逃した時点で消滅していたはずだ。


 なのに、なぜ彼はここにいるの?

 一体、これから何が起こるというの……!?


 馬車の中で膨らませていた妄想は粉々に弾け、頭の中は不安で埋め尽くされていく。


 そして、情報の整理が追いつかないまま──

 国王陛下の参上が告げられた。


妄想にふけっている場合ではありませんでした。

全員集合したイベントで、何が起こるのか──


今回のX投稿イラストは、ヒロイン&悪役令嬢&攻略キャラ、全員集合!


次回ep.151では、クラリスも知らなかった事実が発覚。

11月28日(金) 19:00更新予定です。お楽しみに!


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 完全無欠の悪役令嬢はポンコツヒロインをほうっておけない
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