【リナ】手のひらのぬくもり 2
私がこの学園に入学することになった理由は、いまだに謎だ。
ある日突然、お城からお迎えが来て、「エリューシア学園に入学することが決まった」と告げられた。
青天の霹靂とはまさにこのことだ。
だって、エリューシア学園といえば、貴族の子息や令嬢が通う学び舎だ。一般市民の私からすれば、それは遠く雲の上の世界、到底縁のない場所だった。
確かに、エルデンローゼ王国の国王様は代々平民にも親しみを持ち、寛大に接してくださる方だ。平民だからといって、酷く不遇に扱われることは少ない。
とはいえ、現実には、身分の差が存在する。貴族と平民の間には、目に見えない大きな壁があるのだ。
その壁を越えて、ただの平民──しかも孤児である私が学園に通うなんて、一体誰が想像できただろうか。たちの悪い冗談かと思ったほどだ。
幸いなことに、私が育った孤児院はとても素晴らしい場所だった。
「星の祈り」と名付けられたその孤児院は、貧しくても温かさに満ちていて、そこにいるみんなは私にとっては家族そのものだった。
院長のセシリアさんは、優しさと強さを兼ね備えた女性だ。孤児たちを自分の子どものように愛し、厳しくも的確な導きで育ててくれた。
セシリア院長の笑顔は太陽のようで、私たちにとって絶対的な安心感を与えてくれる存在だった。
私がエリューシア学園に特待生として選ばれたと聞いたとき、院長は涙を浮かべて喜んでくれた。
「リナ、本当にすごいわ! あなたは必ず、このチャンスを生かして大きく羽ばたける子よ」
そう言いながら、院長は私の肩をそっと叩き、心の底から励ましてくれた。
孤児院を離れるのは寂しかった。けれど、みんなが応援してくれるのだからと、私は一念発起して頑張る決意をした。
学園で一所懸命勉強して、将来は私が孤児院を支えられるようになりたい。そう心に誓ったのだ。
そう誓ったはずだったのに……
現実は、そんなに甘くなかった。
学園に入ってからの日々は、思った以上に厳しかった。
この学園で頑張ろう。たとえ平民である私が貴族たちに囲まれても、努力次第で認めてもらえるはずだと信じていた。
しかし、現実はそんなに甘くない。
クラスメイトに勇気を出して話しかけても、私が貴族ではないと分かった途端、会話はぷつりと途切れる。
誰も私を嘲笑したり、嫌がらせをしたりはしない。ただ、そこにいないもののように扱われる。
その曖昧な距離感が、静かに私の心をえぐった。
どれだけ前向きに考えようとしても、自分が浮いているように感じてしまう。
それでも──
孤児院で見送ってくれたみんなの笑顔を思い出す。院長が温かい言葉で背中を押してくれた日のことを忘れるわけにはいかない。
「リナ、あなたはきっと大丈夫」
その言葉を心の支えに、私は何度も頭を上げる。
大丈夫。私は、大丈夫。
まだ慣れないだけ。時間をかければ、きっと友達もできる。私は自分を奮い立たせ、教室の机に向かう。
でも、やっぱりどこかで思ってしまう。孤児院での温かい日々が恋しい、と。




