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完全無欠の悪役令嬢はポンコツヒロインをほうっておけない  作者: Kei
第八章 運命の時! グランドナイトガラ

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【ライオネル】救援

 ──背筋を鋭い寒気が走り抜け、思わず背後を振り返った。


 クラリス殿の代わりにリナ殿を寮へ迎えに向かう途中、それは突如として襲ってきた。


 俺は平民出身だ。魔術の才能は持たない。

 魔素を感じ取れる貴族出身の同僚たちは、俺よりも早く魔物の気配を察知することができる。

 俺にわかるのは、魔物が発する殺気のようなものだけだ。だが、騎士としてはそれで十分だった。敵は常に攻撃的で、感覚を研ぎ澄ませば遅れを取ることはない。


 ……だが。


 今、背を貫いた悪寒は、それとはまるで違う感覚だった。

 俺の直感は告げていた。

 ──これは、“魔素”だと。


 だが、それはありえないことだった。


 俺に突然、魔術の才能が芽生えたはずはない。

 そうであるなら、俺がこの感覚を拾えた理由はひとつ。

 ──それほどまでに、桁違いの濃度で魔素が噴き出しているということだ。


 周囲を歩いていた生徒たちもざわめき、辺りをきょろきょろと見渡している。

 中には、急激な魔素の変化に膝をつく者までいた。


 そんな彼らを助けようと足を向けかけた、そのとき。


「うわぁぁ……!?」


 悲鳴。


 俺は反射的に腰の剣を抜き、地を蹴っていた。

 声の方へ駆け出し、生徒に襲いかかろうとしていた影を一刀のもとに両断する。


 肉を断つ感触。地面に崩れ落ちたのは──魔物の死骸だった。


 頭と胴を断たれたそれは、狼のような姿をしていた。

 しかしすぐに黒い霧となって掻き消え、魔石だけを残す。


 ……なぜ、学園の中に魔物が。


 ここは訓練区域ではない。

 学園内の魔素濃度は管理され、低く抑えられているはずだ。魔物が生まれるなど、本来あり得ない。


 ──まさか、訓練区域から逃げ出したのか?


 脳裏に、以前クラリス殿たちが遭遇したという規格外の魔物がよぎる。俺は直接目にしてはいない。だが、本来現れるはずのない魔物だったと聞いている。


 それがまた現れ、外へ逃げ出したというのか──


「な、なんなのこれ!?」

「くそっ、来るな──!」


 考えを遮るように、周囲で次々と悲鳴が上がった。


 視線を巡らせると、あちこちに魔物が姿を現している。

 まるで森の奥にでも迷い込んだかのように。


 生徒たちが必死に魔術で応戦しようとしていたが、相手は訓練区域で相手にする魔物よりはるかに強い。

 ほとんどの者は、恐慌に駆られて逃げ惑うしかなかった。


 ──落ち着け。今は考えている暇はない。


 学園の生徒たちは優秀だが、実戦経験はほとんどない。訓練区域での魔物討伐は、あくまで“訓練”なのだ。

 今ここに溢れているのは、俺たちが遠征先で相手にするような強敵ばかりだ。


 理由はわからない。だが、俺が動かなければ被害が広がるだけだ。


「みんな、逃げろ! 歩ける者は歩けない者を助けろ! 近くの建物に避難するんだ!!」


 強い口調で叫ぶと同時に、俺は剣を握り直した。

 そして、次々と現れる魔物たちへと駆け出していった。




 生徒たちの退路を確保するように、俺はひたすら魔物を斬り伏せていった。


 どれだけ斬ったのか、もう数えてはいられない。

 だが、湧き出る魔物の数は減るどころか、尽きる気配さえない。


 本来なら、疲労を感じるほどの動きではない。

 それでも、先の見えない状況に精神を削られ始めていた。


 ──一体何なんだ、これは……!


 ルーセントホールは無事だろうか。

 殿下や大人のゲストもいる。もし魔物が現れたとしても、対処できるはずだ。


 ……クラリス殿は?


 彼女はちゃんと、ホールで待っていてくれているだろうか。

 それとも、リナ殿を心配して、こちらに向かってきてはいないだろうか──


 胸の奥をかすめた不安に、思わず動きが鈍った。


 その一瞬の隙を、背後から襲いかかる気配が突く。


 振り返りざまに剣を振ろうとしたが、それより早く、鳥の姿をした魔物の爪が俺の眼前に迫った。


 奥歯を噛み、衝撃を覚悟する。


 ──だが、その魔物は目前で炎に呑まれ、音もなく、灰すら残さず掻き消えた。


「──危ないところでしたね」


 落ち着いた声。


 そちらへ視線を向けると、闇の中からゼノ先生が姿を現した。


「ゼノ先生……!」


 今のは先生の火魔術だったのだろう。

 あまりに見事な一撃に、俺は安堵すると同時に驚愕していた。


 魔術師団でも、ここまで寸分違わず魔術を操る者を、俺はシリル師団長以外に知らない。

 俺の目の前に迫っていた魔物を、俺には一切の被害を与えず、ただ塵にした。

 その精密さ、その威力──常識を超えている。


 呆然としている間にも、学園の教師たちが次々と駆けつけ、魔物に応戦を始めていた。

 ガラに参加しない教師たちが、騒ぎを聞きつけて出てきてくれたのだ。


 これなら、生徒たちを守り切れる。俺は一度、肩の力を抜いた。


「──ライオネル先生。ここは私たちに任せて、騎士団に救援を求めてください」


 ゼノ先生の静かな声に、俺はハッとして顔を上げた。


 ──これから何かあったら、アストレアを使って、すぐ知らせに来いよ。


 脳裏にヴィンセント団長の言葉が蘇る。

 そういえば、副団長率いる精鋭部隊が近隣で訓練をしていたはずだ。

 アストレアで駆ければ、一の時もかからず連れてこられる。


 ……まさか、団長はこれを見越して──?


 胸の内をよぎる疑念を振り払う。今はそんなことを考えている場合ではない。


 周囲を見渡すと、教師たちが必死に魔物へ応戦している。決して楽勝ではないが、俺が戻るまで持ちこたえられるだろう。


 だが、本当に今、俺が抜けても大丈夫なのか──


 迷いを見透かしたように、近づいてきた別の魔物をゼノ先生が一瞬で消し炭に変える。

 転がった魔石を拾い上げながら、彼は余裕のある微笑みを浮かべた。


「──大丈夫ですよ。この程度の魔物に、遅れはとりません」


 ……この人は、底が知れない。


 ゼノ先生はシリル師団長の同期で、魔術師団の副師団長の席が空白になっているのは、彼のためだと噂に聞いたことがある。

 なるほど。確かに、あの人が気に入りそうな実力者だ。


 苦笑を漏らし、俺はゼノ先生に深く一礼する。


 そして踵を返し、アストレアの待つ厩舎へと駆け出した。


ライオネルとゼノ、大人組の共闘回でした。


今回のX投稿イラストは、魔石を片手に微笑むゼノ先生。悪そう(笑)。


次回ep.139はアレクシス視点。

10月17日(金) 19:00更新予定です。お楽しみに!


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──────


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いつも読んでくださって、本当にありがとうございます!!


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 完全無欠の悪役令嬢はポンコツヒロインをほうっておけない
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