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完全無欠の悪役令嬢はポンコツヒロインをほうっておけない  作者: Kei
第八章 運命の時! グランドナイトガラ

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顕現

 ルーセントホールの入口を抜け、私は前を見据えたまま悠然と歩を進めた。

 周囲から視線を感じるが、それは異変を察知してのものではないだろう。

 私を知る生徒たちが、なぜ私がホールから出ていくのかと不思議に思っているだけに違いない。


 私は何事もないかのように振る舞いながら、裏手の噴水へと続く道に足を向けた。


 やがて人影は完全に消える。

 大半の生徒は馬車の待機所や寮から会場へ向かっており、わざわざホール裏手に回る者などいないのだから。


 人気がなくなったところで、私は歩調を早めた。

 目的地を急ぎながら、共犯者に問いかける。


「──ゼノ。リナは……!?」

「今、彼女は噴水に着いた。私もそちらに向かう」


 耳元に届いた声に、私は唇を噛む。


 ──どうして私は……あのとき……


 私は、リナを公爵邸に連れて行くべきだった。

 これは不測の事態。だが、これまで幾度もシナリオが狂ってきたことを考えれば、万全を期して彼女を傍に置いておくべきだったのだ。


「……すまない。私の落ち度だ」


 後悔をにじませるゼノの声。


 その響きに、私は小さく苦笑した。

 彼はきっと研究室から学園全体を監視していたのだろう。

 研究室のある校舎はルーセントホールからは遠い。影で移動するにしても、学生たちが溢れている最中では不可能に近い。


 私だって、まさか彼女がガラに参加せず、直接噴水へ向かうなどとは思いもしなかった。


 ……お互い様だ。


「……リナは、きっと大丈夫です」


 自分に言い聞かせるように、そう口にした。

 願いにも似たその言葉とともに、私は心の中で彼女の無事を強く祈った。




 その背中を見つけた瞬間、私は心の底から安堵した。


「──リナ!」


 一緒に選んだ淡いピンクのドレスに身を包んだ、ようやく見つけた後ろ姿。


 けれど彼女は、噴水へ向かってふらふらと歩き続けていた。

 まるで私の声など届かないかのように。


「リ──」


 もう一度名を呼ぼうとした、その瞬間。


「──っ」


 全身が粟立つような不快感に襲われ、私は思わず両腕を抱いた。

 噴水を中心に、魔素の濃度が急激に上がり始めている。


 あまりの変化に、足がすくんで膝をつく。

 奥歯を震わせながら、必死にリナを見上げた。


 リナは止まらない。

 何かに導かれるように、噴水へと歩み続けている。


 その先に──あり得ないほど高濃度の魔素が、集束していた。


「……っ、リナ!!」


 全身に絡みつく魔素の拘束を振り払い、私は彼女の名を叫ぶ。


 ──駄目。そっちは駄目!!


 心の奥底から絞り出すような叫び。


 その声にならない声が届いたのか、一瞬リナの体がビクリと跳ねる。

 そして、ゆっくりと首だけをこちらへ向けた。


 私の姿を認めた彼女の表情が歪む。

 泣きそうで、それでいて心底ホッとしたような表情──


 私は全身に力を込め、彼女へ向かって駆け出した。


「リナ、今──」


 助けるから。

 必ず──!


 必死の願いを込めて手を伸ばした、その瞬間──


 リナを中心に、魔素濃度が爆発的に跳ね上がった。


 本来、魔素は目に見えるものではない。

 だが今、リナの周囲に発生した高濃度の魔素は、漆黒の炎が噴き出すように揺らめき、空気そのものを焼き焦がすかのように広がって──彼女を、包み込んだ。


 ──リナが、漆黒に呑み込まれていく。


「リナ!!」


 私の叫びを合図にしたかのように。


 漆黒の魔素は、瞬く間に学園全体へ広がっていった。




 そして、私は確信する。


 「古代の神」の顕現を──


とうとう現れた「古代の神」──

クラリスたちの戦いが、いよいよ幕を開けます!


今回のX投稿イラストは、顕現した「古代の神」です。


次回ep.138はライオネル視点。

10月14日(火) 19:00更新予定です。お楽しみに!


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