【リナ】約束
足元がふわふわしている。まるで雲の上を歩いているみたい。
私はルーセントホールへと続く道を歩いていた。
けれど、目指しているのは会場じゃない。
その先にある──声のする方角。
私の中の“何か”は、その声を求めて歓喜していた。
けれど、別の私が必死に引き留めようとしている。
……なのに、足は止まらない。
ルーセントホールを通り過ぎ、裏手へと進んでいく。
私はこの道を知らない。だから、この先に何があるのかもわからない。
それでも、自分を止めることはできなかった。
周りに人影はない。
みんなガラに参加するため、ホールの中へ吸い込まれていったのだから当然だ。
小道を抜けた瞬間、視界が開ける。
そこには、大きな噴水があった。
──そして、その噴水の前。
その人は、いた。
知らない人だった。
でも、どこかで見たことがあるような気がした。
肩まで届く少し長めの髪は、夜の闇に溶けてしまいそうなくらい真っ黒だった。
クラリス様と同じ色……でも、クラリス様の髪みたいに光を映す黒じゃない。これは、闇そのものに同化しているみたいで、似ているようで全然違う。
それと対照的に、肌はびっくりするくらい白くて。
こちらを見つめる冷たい銀色の瞳は、宝石のように美しいのに、底の見えない恐怖を映していた。
顔立ちは整いすぎていて、男の子なのか女の子なのかも判断がつかないくらい。
ぱっと見では、十歳くらいの子どもにしか見えない。
……でも。そこから伝わってくる気配は、子どものものじゃなかった。
柔らかさなんて少しもなくて──むしろ底知れない威圧感に包まれているようで、思わず息をのんでしまう。
「待っていたよ」
──その言葉を、聞いた瞬間。
頬を伝って熱いものが落ちていた。
涙──それが、自分の意思とは無関係に零れていた。
そう、ずっと待っていた。
このときを。
──違う。
行ってはだめだ。
私の中で、相反する声が鳴り響く。
待っていた。
だから、早く、一緒に──
──違う、違う違う。
行っちゃだめ。
──リナ──
遠くで、クラリス様の声が聞こえる。
そう──クラリス様……
クラリス様と、約束したんだ。
会場で会おうって。
きっと、クラリス様は待っていてくれる。
早く。早く、行かなきゃ──!
──リナ──
再び響いたクラリス様の声が、私の背を押してくれる。
私はぐっと拳に力を込めた。
私でない“何か”に、抗うために。
運命に逆らおうと必死にもがくリナ。
果たして彼女はその力に抗えるのか──
次回ep.137はクラリス視点。
本日10月10日(金) 19:10更新!(10分後です!)
感想・ブクマ・ポイントで応援いただけると、とても励みになります!
どうぞよろしくお願いいたします!!




