表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
完全無欠の悪役令嬢はポンコツヒロインをほうっておけない  作者: Kei
第八章 運命の時! グランドナイトガラ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

124/155

【リナ】不器用な王子様 2

 クラリス様と離れるのは名残惜しかったけれど、生徒会役員はただでさえ人手が足りない。

 見習いの私ですら手一杯なんだから、正規の役員であるクラリス様やルークくんは、もっと忙しいに決まっている。


 だからこそ、それぞれが自分の持ち場をしっかりこなさなきゃいけない。


 ──今日の午後には、クラリス様のクラス劇がある。アレクシス殿下と一緒に演じる、あの劇。


 以前、生徒会室でなぜか私が殿下の相手役を演じる羽目になって、挙句、殿下がクラリス様に近づくための“ダシ”にされたことがあった。

 ……なんでクラリス様が、あんなことを私に頼んだのかは、今もよく分からない。

 でも、クラリス様のことだから、あれも完璧な舞台のために必要なことだったんだろう。たぶん。きっと。


 とにかく、今のクラリス様とアレクシス殿下の関係で、まともに劇なんてできるのかと不安になる。


 でも、そんな心配をしている暇もなく、クラス劇の時間はクラリス様たちが抜ける分、生徒会の仕事は私たちで回さなきゃいけない。

 だから、劇を見に行く時間なんて……ない、はずだった。


「君たちは、殿下とクラリス様のクラス劇を見てくるといい」


 そんなことを考えていたお昼休み、ノア先輩が思いがけず素敵な提案をしてくれた。


 ルークくんが「ノア先輩」って呼んでいたから、私もそう呼んでいる。

 「先輩って、なんか先輩って感じなんだよね」とは、ルークくん談。……意味はよくわからないけど、なんとなく伝わる気がする。


 もちろん、ノア先輩はれっきとした貴族だ。

 でも私が「先輩」と呼んでも、とがめられたことはない。ただ、ちょっと困ったような顔をされるだけ。

 それは、きっと平民の私が呼んだからじゃなくて、照れくさいっていうか、なんだかこそばゆい感じなんだろうと思う。


 ノア先輩は、グランドナイトガラの運営責任者を務めている。

 本来なら生徒会の二年生が担う役職らしいけど、今の生徒会には二年生がいないから、その代役としてノア先輩が引き受けているのだそうだ。


 ……なんでノア先輩、生徒会に所属してないんだろう。

 ちょっと気になって聞いてみたけど、「色々あって遠慮してる」とだけ教えてくれた。

 その「色々」は教えてもらえなかったけど、ノア先輩なりの事情があるのだろう。


「でも、それだと、生徒会の人間が一人もいなくなっちゃうけど……」


 ルークくんがそう疑問を口にすると、ノア先輩はいつもの落ち着いた声で答えた。


「殿下たちのクラス劇には注目が集まっている。観客もそちらに流れるだろうから、逆に現場に君たちがいたほうが目が届く」


 もっともらしい理由だったけど、私はなんとなく気づいていた。

 ノア先輩は、理屈よりも、私たちを気遣ってそう言ってくれているんだと。


 たぶん、ノア先輩もアレクシス殿下とクラリス様の間に流れる、微妙な空気を感じ取っているのだ。

 そして、その空気を気にしている私たちのことも、そっと気遣ってくれている。


 ……本当に、空気が読める、優しい先輩だ。




 ノア先輩のおかげで、ルークくんと一緒に、アレクシス殿下とクラリス様のクラス劇を鑑賞できることになった。


 開演までにはまだ少し時間があるものの、すでにホール内は人でいっぱいだった。

 学生だけでなく、来賓として招かれた貴族の方々の姿もちらほら見える。


 それだけ、お二人が主演を務める劇に、注目が集まっているということなのだろう。


 ……だけど、そのぶん心配になってきた。

 クラリス様、大丈夫かな。あんな状態で、アレクシス殿下と演技なんて……本当にできるの?


 モヤモヤと胸がざわつき、俯いたまま歩いていたら──


 ごつん、と何かにぶつかった。


「いたっ……!」

「……ん? リナか?」


 ──壁、だと思ったら、人だった。


 顔を上げると、そこにはヴィンセント師匠の姿があった。


 どうやら私がぼんやりしていて、真っすぐ彼に突っ込んでしまったらしい。私は慌ててぺこりと頭を下げる。


「ご、ごめんなさい、師匠!」

「……師匠?」


 隣で歩いていたルークくんが目を丸くした。


 ……あ、そういえば、ルークくんは私がヴィンセント師匠に稽古をつけてもらったとき、いなかったんだっけ。

 いきなり知らない男の人を“師匠”呼びしてる私が、不審に思えてもしかたないかも。


「おう、ルークも一緒か。元気そうじゃねぇか!」


 ……と思ったら、普通に知り合いだったらしい。


 まあ、クラリス様とも親しげだったし、ルークくんとも面識があって当然か。


 ヴィンセント師匠はルークくんの背中を容赦なくバンバン叩きながら、豪快に笑っている。

 ルークくんはというと、ちょっと顔を引きつらせていて……あ、完全に嫌そうな顔だ。


「──どうした、ヴィンセント」


 そのとき。


 師匠の背後から、低く落ち着いた声が響いた。


 ……え?

 この声、聞いたことがある。

 まさか──


「……ほう。ルークと……リナ、だったかな」


 名前を呼ばれた瞬間、背筋がぴしっと伸びた。


 ──いや、違う! こんなときは、姿勢を正すだけじゃダメ!

 礼をするんだ、最上級のやつ……!


 そうだ、確か授業で習った気が……でもどんなふうにだったっけ!?

 頭の中がぐるぐるしていると、ふいに肩に優しい手が添えられた。


「よい、楽にするといい。ここは学園だ。堅苦しいのはなしでいい」


 そう言って笑ったのは、この国の──王様だった。


 その微笑みは、どこかアレクシス殿下に似ていて──

 私はほっとする一方で、胸の奥にくすぶっていた殿下へのモヤモヤを思い出し、言いようのない気持ちが渦を巻くのを感じた。


 ──ダメダメ、王様は関係ないんだから。落ち着け、私。


 ……あれ? でも、なんで王様が私の名前を知ってるんだろう?


「おいおい、いきなり粉かけてんじゃねぇぞ。リヴィアに言いつけるからな」

「お前は私をなんだと思ってるんだ」


 師匠が虫でも払うように、私の肩に置かれた王様の手をはたいた。

 王様は眉をひそめ、不満そうな顔をしている。


 リヴィア様って、王妃様のお名前だったよね。

 ……もしかして、王様ってプレイボーイ……?


「……とにかく。お前たちもクラス劇を見に来たんだろう? 一緒にどうだ」


 ヴィンセント師匠との軽い言い合いを終えた王様が、そんな提案をしてきた。

 私は戸惑ってルークくんと顔を見合わせる。


「え、え〜っと、ルークくん……」


 お、王様と一緒に観劇なんて……

 ──なにそれ、めちゃくちゃ緊張するんですけど!


 いつもなら、王様の視察にはアレクシス殿下が同行していた。昨日の剣舞だって、殿下が案内していたはずだ。

 けれど今回のクラス劇には、その殿下が出演されている。だから王様は、騎士団長である師匠とお二人で、最前列の特等席で観劇されることになっていた。


「まぁ、いいんじゃない? 本来なら、陛下を案内する係も必要だったろうし」


 ルークくんは肩をすくめて、あっさりと了承してしまった。


 ……え、ちょっと、軽すぎない?


 私は完全に逃げ場を失ったまま、その場に立ち尽くす。


 こうして私たちは、舞台の真正面──特等席の一角、王様と師匠のすぐ後ろに並んで座ることになった。


 周囲の生徒たちからの視線が刺さるように痛い。


 ……なんでルークくんは、あんなに平然として座っていられるの!?


 それにしても、師匠もルークくんも、驚くほど自然に王様と会話していてびっくりする。


 普段、先生相手にも敬語を使わないルークくんでさえ、王様に対してはちゃんと敬語だった。でも、かしこまりすぎることもなくて、なんというか、まるで友達のお父さんと話してるみたいな雰囲気。


 ……まあ、実際そうなのかもしれないけど。でも、相手は王様だよ!?


 そして師匠に至っては、完全に友達のノリだ。

 そういえば、今この国を支えている偉い人たちは、みんな同じ頃にこの学園に通っていたって聞いたことがある。

 その世代、強すぎない? ちょっと怖い。


 でも、もしかしたら将来──アレクシス殿下やクラリス様、それにルークくんも、同じように王国の中枢を担っていくようになるのかもしれない。


 そんな未来を想像して、殿下とクラリス様が並んで立つ姿を思い浮かべた瞬間、胸の奥にまたあのモヤモヤが広がってきた。


 ……クラリス様、大丈夫かなぁ。


 舞台には、分厚い幕が降りている。

 その向こうで、クラリス様たちは今まさに準備をしているはずだ。


 クラリス様は、あまり感情を表に出さない。

 いつも冷静で、何が起きても動じず、周囲に左右されることもない。誰とも交わらない氷のような公爵令嬢。

 それが、周りが抱くクラリス様の印象。


 でも──


 私が知っているクラリス様は、少し違う。


 もちろん、完璧な公爵令嬢であることは間違いない。

 クラリス様は、なんでもこなせるし、いつだって落ち着いている。


 でも、それだけじゃない。


 クラリス様は、いつも周りを見ている。

 生徒会でも、アレクシス殿下が気づかないような細かいところまで目を配って、何も言わずにフォローしている。

 誰かが困っていれば、その人自身が気づかないところで、さりげなく手を差し伸べている。


 それを誇ることも、表に出すこともなく──

 まるで息をするように、当たり前のことのようにやってのける。

 本人は、きっと大したことだとも思っていないのだろうけれど。


 クラリス様は、人の痛みがわかる人だ。それも、誰よりも静かに、優しく。

 平民の私にだって、ちゃんと目を向けて、手を差し伸べてくれる。あんなふうに、誰かの光になれる人なんて、そういない。


 ……じゃあ、クラリス様は?

 クラリス様のことは、誰が助けてくれるの?

 誰が、クラリス様を守ってくれるの……


 胸の奥に渦巻く不安に、思わずうつむきかけたそのとき──

 劇の開幕を告げるベルが鳴った。


 クラリス様のクラスの委員長が舞台に現れ、挨拶を始める。


 ……今は、しっかり応援しなきゃ。


 私は顔を上げ、まっすぐに舞台へと視線を向けた。


ノアはゲーム中では攻略対象(課金キャラ)の一人。

アクの強い生徒会役員と違って、常識人枠です。

今回のX投稿イラストは「先輩呼びにどう反応したらいいかわからないノア」です。


次回ep.125では、いよいよ劇のラストシーン!

9月5日(金) 19:00更新予定です。お楽しみに!


感想・ブクマ・ポイントで応援いただけると、とても励みになります!

どうぞよろしくお願いいたします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


◆YouTubeショート公開中!◆
 https://youtube.com/shorts/IHpcXT5m8eA
(※音が出ます。音量にご注意ください)
(本作10万PV記念のショート動画です)

◆スピンオフ短編公開中!◆
 『わたくしの推しは筆頭公爵令嬢──あなたを王妃の座にお連れします』
(クラリスとレティシアの“はじまり”を描いた物語です)

◆オリジナル短編公開中!◆
 『毎日プロポーズしてくる魔導師様から逃げたいのに、転移先がまた彼の隣です』
(社畜OLと美形魔導師様の、逃げられない溺愛ラブコメです)

更新告知やAIイラストをXで発信しています。
フォローしていただけると励みになります!
 ▶ Xはこちら:https://x.com/kan_poko_novel

 完全無欠の悪役令嬢はポンコツヒロインをほうっておけない
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ