表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
完全無欠の悪役令嬢はポンコツヒロインをほうっておけない  作者: Kei
第八章 運命の時! グランドナイトガラ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

111/155

決戦の地へ

 学園祭、初日──


 運命の時まで、あと二日。


 


 ……昨夜は、正直ほとんど眠れなかった。


 リナの完璧な可愛さに、勝利を確信したはずが、気づけばこちらが沼に沈みかけていた。危うい。このゲームはそういうジャンルではない。


 寝不足の頭に気合を入れて、鏡台の前で背筋を正す。

 映っているのは、公爵令嬢としての威厳を──なんとか取り繕った自分の姿。正直、この表情で「完璧な公爵令嬢」と言うには、少し自信が持てない。


 とはいえ、気を抜いている暇はない。今日からの数日は、生徒会役員として嵐のような忙しさが待っているのだから。


 初日の開幕は、学園長の挨拶に続き、国王陛下による来賓の辞がある。

 それを終えて、ようやく各クラスや部活動による展示、模擬店が本格的に始まるのだ。


 関係者が多ければ、多いなりにトラブルも増える。

 生徒会役員は、見習いのリナを含めてもたったの四人。さすがにこの規模のイベントをその人数で回せるはずもなく、各クラス委員や協力者を巻き込んで、なんとか学園祭は動いている。


 もっとも、学園に通っているのは貴族階級の子女たち。特に三年生ともなれば、卒業後に控える社交界デビューに向け、自分たちの評判を何より重視している。

 だから多少の揉め事が起きても、たいていは自分たちで対処してくれる……はず。


 今の私に、そんな些細なトラブルに構っている余裕はない。できるだけ問題が起こらないことを祈るしかない。


 とにかく、ヒロイン──リナと攻略対象たちの絆を深めさせ、「古代の神」の脅威を、一時的にでも退けなければならない。


 私は大きくひとつ息を吐いて気持ちを切り替えると、背筋を正し、ドアノブに手をかけた。


 ガチャリと扉を開けた、その瞬間。


「わっ!」


 小さな悲鳴が、耳に飛び込んできた。


「……リナ?」


 驚いて声をかけると、扉のすぐ前にいたリナが、鼻を押さえながら顔を覗かせた。

 どうやら開けた拍子に、私が扉をリナの鼻先にぶつけてしまったらしい。


「ご、ごめんなさい、クラリス様……!」


 慌てた様子で頭を下げるリナ。


 ──まずい。ヒロインの顔に傷をつけてしまった……!


 私はすぐにリナの手を取って、ぶつけた箇所を確認する。

 ……赤くなってはいるが、腫れもなく、時間が経てばすぐ引きそうだった。


 ひとまず安心──したところで。


「あ、あの、クラリス様……」


 か細い声が耳に届く。見れば、リナが真っ赤な顔をしてうつむいていた。

 至近距離で見つめていた上、彼女の手をつかんで放さない状態だったことに、ようやく気づく。


 ──近い。というか、これではまるで……


「……何いい雰囲気出してるの、二人とも」


 背後からの呆れた声。

 思わず振り返ると、そこには腕を組んで立つルークがいた。


 私は内心の動揺を必死に押し隠しながら、そっとリナの手を離す。

 何事もなかったかのように、一つ咳払いをしてみせた。


「おはよう、ルーク」

「……おはよう、姉さん」


 ──視線が冷たい。誤魔化せていないことは、火を見るより明らかだった。


 無理もない。先ほどの体勢では、誤解されても仕方がない。

 朝から何をしているのかと呆れられても文句は言えないし、姉としての威厳は──もう諦めるしかないだろう。


 リナに目を向けると、まだ鼻と頬は赤みを帯びているものの、すっかりいつもの調子を取り戻したのか、ニコニコと笑っていた。


 昨日、エミリアにしっかり磨き上げてもらった成果が表れている。

 見た目も中身も、もう立派なヒロインだ。


 リナにはちゃんと、グランドナイトガラで踊りたい相手がいる。その事実が、私を深く安堵させてくれた。

 本人は「無理だと思います」と言っていたが、これほど可愛いヒロインを振るような愚か者がいるとは、到底思えない。


 となると、問題なのはただひとつ。私とリナの──あの約束だ。


 なぜか彼女は、私にもガラで誰かと踊ってほしいと言ってきた。

 もし私が誰とも踊らないなら、自分も踊らないと。


 ……まさか、そんな条件をつけてくるとは思わなかった。


 心優しい彼女のことだから、自分だけが幸せになるのは、許せなかったのかもしれない。

 しかし、壁の花を決め込むつもりだった私にとっては、想定外の要求だった。今さらパートナーを探すなど──難易度が高すぎる。


 一応、婚約者であるアレクシスという選択肢がないわけではないが……もし彼がリナの本命だったとしたら、私の存在は邪魔以外の何物でもない。


 無表情の裏で、私がそんな葛藤を抱えていることを知らないルークは、しばらく不審な目で私とリナを見つめていたが、諦めたようにため息をついた。


「……まあ、いいや。そろそろ出ないと間に合わないよ。準備ができてるなら、行こうか」


 ルークの言葉に、私は静かに頷いた。


 考え込んでいても、状況が好転するわけではない。

 ここまで来たら、あとは出たとこ勝負。

 壁の花を気取ってる令息を見つけて、強引にでも一緒に踊ってもらおう。


 やれることは、全部やってきた。

 リナを完璧なヒロインにするために、彼女の背中を押して、支えて。

 できる限りのことはしたつもりだ。


 ならば、あとはもう祈るしかない。そして、進むのみ。


 私はまっすぐ前を見据え、決戦の地へと足を踏み出した。


学園祭編、開始です。本章は長くなりそうです。

次回、王様に絡まれます。

8/5(火) 19:00更新予定です。


Xでは更新連絡やAIイラストの投稿をしています。

今回のイラストは、決意を持って前に進むクラリスです!

https://x.com/kan_poko_novel

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


◆YouTubeショート公開中!◆
 https://youtube.com/shorts/IHpcXT5m8eA
(※音が出ます。音量にご注意ください)
(本作10万PV記念のショート動画です)

◆スピンオフ短編公開中!◆
 『わたくしの推しは筆頭公爵令嬢──あなたを王妃の座にお連れします』
(クラリスとレティシアの“はじまり”を描いた物語です)

◆オリジナル短編公開中!◆
 『毎日プロポーズしてくる魔導師様から逃げたいのに、転移先がまた彼の隣です』
(社畜OLと美形魔導師様の、逃げられない溺愛ラブコメです)

更新告知やAIイラストをXで発信しています。
フォローしていただけると励みになります!
 ▶ Xはこちら:https://x.com/kan_poko_novel

 完全無欠の悪役令嬢はポンコツヒロインをほうっておけない
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ