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完全無欠の悪役令嬢はポンコツヒロインをほうっておけない  作者: Kei
第七章 嵐の前の嵐

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【ゼノ】王国の中枢

 ──その部屋にいるのは、王国の中枢を担う者たちだった。


 場所は王城の奥深く、政務用として設けられた小会議室。余計な装飾の一切ない石造りの室内に、重厚な円卓が一つ。その周囲には、国王、宰相、騎士団長、そして魔術師団長が揃っていた。

 椅子に腰をかける三人の中で、ただ一人、宰相だけが立ったままだ。


「エリューシア学園の学園祭は来週だ。予定通り、事は進める」


 宰相の淡々とした声が、冷えた空気を切り裂くように部屋に響いた。


 彼の言葉に、騎士団長が苦々しげに眉をしかめながら、椅子の背もたれに体を預けた。軋む音が、彼の苛立ちを代弁する。


「しかし、『古代の神』なんてものが本当に現れるのかねぇ。しかもグランドナイトガラの夜に、って……狙いすぎだろ」


 ここ一ヶ月、彼はその「古代の神」に備えるべく、学園祭最終夜に合わせて警備体制の構築を進めてきた。

 正体は不明、場所も曖昧。ただ一つ確かなのは──「その時」に備えよ、という命令があるということだけだった。


 人目につかぬよう、必要最低限の人員と情報で動くというのは、騎士団長の性には合わない。そもそも彼は、剣を振るってこそ意味があるという人物だ。じれったさのあまり、宰相に向ける視線には、もはや露骨な恨みが滲んでいた。


 だが、その程度の不満で動じるような相手ではない。宰相はわずかに口元を動かし、静かに言葉を返す。


「我々しか知らぬはずの『封印の鍵』の存在を知っている者からの情報だ。信憑性は、十分にある」


 騎士団長はわずかに不満そうな表情を浮かべたが、それ以上は何も言わず、肩をすくめると視線を逸らした。


「学園の周囲には魔術結界を張ってある。たとえ『古代の神』とやらが現れても、周囲に被害が及ぶことはないさ」


 大したことのないようにそう告げたのは、魔術師団長だった。

 先日、彼は学園に立ち寄った際、自らその結界を構築している。訓練区域で使われている結界と同じ形式のものだが、今回のものはその何倍もの規模だ。

 本来、学園の魔術教師たちが複数人で数日かけて張る結界である。それを彼は──たった一人で、半日足らずで完成させてしまった。

 文字通り、桁外れの存在である。


 宰相はその言葉に小さく頷き、今度は国王に視線を向けた。王は少しむくれたような様子で口を開く。


「私は行くぞ」

「……何も申し上げておりませんが」


 宰相が淡々と返すと、国王はどこか得意げに両腕を組んだ。


「お前の顔に書いてある。毎年学園祭に出席している王が、今年だけ姿を見せないとなれば、何かあると思われるだろう?」


 そう言って笑った王の顔は、普段見せる理知的で威厳のある名君の顔ではなく、信頼する者にだけ見せる親しげな一面だった。


「それに──うちの愚息と、お前の娘の行く末も気になるしな」


 からかうような声色でそう言いながら、王は斜めに宰相を見やる。

 宰相はその言葉にわずかに眉を上げたものの、それ以上の反応は返さなかった。


「……クラス劇は二日目です。最終日はお控えください」

「わかったわかった。──もちろん、お前も見に行くんだろう?」

「私は多忙です。それに、あなたのような下世話な趣味は持ち合わせておりません」


 いつもの調子で言い合いを始めた国王と宰相を、騎士団長はニヤニヤと眺め、魔術師団長は興味なさげに胸元の黒薔薇を弄んでいる。


 一見するとまとまりのない中枢──だが、ひとたび事が起これば、彼らは驚くほどの結束力を発揮する。それがこのエルデンローゼ王国の最大の強みだった。


 ──私は影を消した。

 宰相たちの動きに、今のところ、綻びはない。


 クラリスからもたらされた情報には、明確な裏付けはない。

 だが、「封印の鍵」が現れたという事実だけで、何かが起こる可能性は限りなく高い。

 ならば、何もせずに事態を待つよりも、可能性に賭ける方が賢明だ。


 夏休みも終わり、学園は学園祭に向けて、最後の仕上げに入っている。


 ──運命の時が、着実に近づいていた。


アレクシスの前では威厳を保っていますが、意外と子供っぽい王様です。

シリルは通常運転で。

次回は7/8(火) 19:00更新予定です。

来週は糖分多めで行きます!


Xでは更新連絡やAIイラストの投稿もしています。

今回のイラストは、下世話な趣味を持つ国王に冷たい視線を向ける宰相です(笑)。

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