58話 竜の里
竜の里は北大陸の一番奥地にある。非常に険しい山が続き、強力なモンスターが生息している為、普通の方法で辿り着く事は非常に難しい。
迷宮の竜から教えて貰った情報では、ここから北に一月程進んだ山の頂上、そこに隠された魔法陣があり、その魔法陣を起動する事で竜の里から迎えが来るという事だった。
「ジンにぃ、こっちに変なのがあるよ。」
マリーが見つけたソレは恐らく竜の言っていた魔法陣だろう。
「よく見つけたな。早速魔法陣を起動するぞ。」
魔法陣は光を放つ。すると魔法陣から巨大な竜が現れた。どうやら喋る事は出来ないようで、首で背中に乗れと促しているようだ。
俺達がその竜の背中に乗ると、空へ飛び出して行く。かなり上空のはずなのだが不思議と寒さを感じない、それどころか温かさすら感じる。どうやらこの竜が結界を張ってくれているようだ。
そのまま竜の背中に乗って、2時間程経った所で竜が下降し始める。眼下には何もないように見えるが、竜はそのまま山肌へと突っ込んでいった。
「キャーぶつかるぅうう~!」
「助けて~!」
クロとマリーは涙目で騒ぐ、ローズは目を瞑って震えていた。正直俺も怖い。しかし、山にぶつかることは無く、目を開けるとそこには森が広がっていた。
「結界だったみたいだな。心臓に悪いぞ、これは。」
全員がふにゃふにゃと倒れ込む。目の前の森は普通の森ではなかった、1本1本がもの凄く大きいのだ。なんとなく神聖な空気を感じる。
「どうやら、ここが目的地みたいだな。ここで降りろって言ってるみたいだぞ。」
「そ、そうかようやく着いたか。本当に無事に着いて良かったぞ。」
森を抜けた先には小さな集落があった、入り口に立っている男に話しかける。
「すまない、迷宮の竜より案内されて辿り着いた大賢者のジンという者だ。竜王様とお会いしたい。」
「ふむ、お前から竜王様の気配を感じる。しばしここで待つがよい。」
そういえば竜王の友っていう称号を貰っていたな、と思い出した。良く考えればあの時の竜が竜王だったのだな。
「待たせたな、それでは竜王様の御前まで案内する。着いて来い。」
男に案内されて一番奥の建物に案内された、しかしそこで待っていたのはあの時見た竜ではなく、綺麗な赤い髪の女性だった。
「よく来たな、あの時の子供が大賢者になって訪れるとは思いもしなかったぞ。」
「はい、えと、どこかでお会いしましたっけ?」
「ダンジョンの奥で出会ってプレゼントをやったじゃろうが。ふむ、そうかあの時は竜の姿であったな。」
そう言うと目の前の女性は真っ紅な竜の姿になった。その姿は間違いなく、幼い頃にダンジョンで出会った竜だった。
「これで理解出来たか?この里に住む竜は人化する事が出来る。普段は人の姿で過ごす事が多いのじゃよ。」
「は、はい。理解出来ました。」
俺も彼女達もみんな驚いた。竜が人化するなんていうのは聞いた事が無かったからだ。
「さて、本題に入ろうかの。ここへ来たという事は大賢者の塔を攻略し魔神を封印する為じゃな?」
「はい、その通りです。」
竜王様は確認するように俺に問いかける。そしてその目をみてしっかりと答えた。
「よかろう、こちらへ来い。」
竜王様の近くに行くと、右手を俺の頭に置く。その瞬間時が止まるような感覚を感じ、それはすぐに消えた。
「すまん。お前の意識と記憶を読ませて貰った。万が一があってはならんからな、読んだ記憶に関しては口外しない事を誓おう。」
いきなりで驚いたが怒る様な気持ちにはなれなかった。それに竜王様が頭を下げて謝るのだ、許さないはずがない。
「大丈夫です。あなたを信じます。」
「では、ジン。お主に鍵と新しい力を授けよう。付いて来るがよい。」
俺だけが竜王様に付いて行くと、そこは建物の地下、それもかなり深い場所だった。そして目の前にはとても大きな、そして静かに佇む竜が居た。俺はその空気に飲まれ、動く事も話す事も出来ない。
「大賢者よ。そなたに鍵と力を授ける。」
その竜が一言呟くと俺の身体が光り、目の前に1本の剣が現れた。
「その剣は最後の扉を開く鍵でもあり、魔神を封印する為の力の半身でもある。そして新しい力はそなたの中に刻まれたであろう。その剣の名は『始まりの剣』この世界を創った時に生まれたモノだ。」
その剣を取ると、知識が流れ込んできた。目の前にいるのは始祖竜、この世界の大地を司る存在。そしてこの剣は世界の誕生と共に生まれた、世界の希望を受け入れる器。そして希望と共に魔神を封印する為の鍵になるのだ。
「では、私はまた眠りに着くとしよう。」
そう言って始祖竜は静かに眠りに着いた。始祖竜は魔神が封印する度に大賢者へこの剣を渡し、世界の崩壊を防ぐ役割を担っているらしい。
広間へ戻ると俺達に武器と防具が渡された。
「これは始祖竜様の力を僅かに込められた武器と防具じゃ。これを与える。」
「ありがとうございます。」
その武器や防具は不思議と身体に馴染み、力が湧いて来るようだった。これで鍵も手に入り、全員が新しい強力な武器と防具を得た。これならば大賢者の塔を攻略出来るだろう。そう思って、竜王様にお礼を言おうとした時だった。
「母上、あの時の冒険者が来ているとは真ですか!?」
扉が乱暴に開かれると真っ赤な髪の幼女?が現れた。
「うむ。それがどうかしたのか?」
「妾も付いて行くのじゃ!」
「「「は!?」」」
竜王様も俺達もきっと間抜けな顔をしていただろう。
「妾は決めておった、あの日洞窟の奥で出会った時から運命を感じておったのじゃ!妾はこの人間と一緒になりたいと!」
「えっと?は!?」
「妾の事はコウと呼んでくれ。」
全く理解が追いつかない俺に竜王様が言葉を掛けてくれた。
「実はわたしの娘はあの日ダンジョンでお主に一目惚れしてしまったようでな。あの日からお主に会いたいとうるさかったのじゃ。その思いで人化も習得してしまってな。どうだろうか、連れて行ってやってくれぬか?まだ幼いがコウは強いし役に立つぞ、それにお主に惚れておるからな。」
「宜しく頼む、ジン。」
にっこりと微笑むコウを見て、俺は諦めた。それに幼いけどかわいいし、いや何を考えてるんだ俺は、ロリコンじゃないだろう!と、一通り自分の中で葛藤したがロリコンでもいいやと思った。
「分かった。一緒においでコウ。」
その日は竜の里で宴会が開かれてみんなで心いくまで楽しんだのだった。
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