54話 停滞
大賢者の塔に入って約10ヶ月が経過した。30層の前後あたりから徐々に敵が強くなり始め、1つの層に時間を掛ける事が増え始めていた。
それでも1層づつ着実に攻略を進めて来たのだが、俺達は60層で足止めを食らっている。
ここまでの大まかな流れを説明したい。まず30層をクリアした俺達は31層へと向かった、そこは見渡す限りの海が広がっていた。戦闘自体は水中で行う事はなく、浜辺でカニ種と戦った。非常に硬く大きいカニや、軍隊で向かってくるカニ等様々だったが、思ったよりも楽に進む事が出来た。
それ以降も水に関係するフィールドが続き、出てくるモンスターも水棲系が殆どだった、その中で何度か魚人族と戦う事になったが本当に憂鬱であった。
30階層台で面倒だったのは魚人族は勿論、水中から急に飛んでくるトビウオのようなソードフライフィッシュやめちゃくちゃ大きい亀、後は沼地に同化したアシッドスライムだろうか。気付かずに沼地を進んでいたら急に靴が溶けた時は本当に驚いたものだ。
そして40層では沼地でヒュドラがボスとして待っていた。3つの首と巨大な身体を持った強敵だった。足場が悪い為戦いづらく、それぞれの首が独立して動き、火土水と3つの属性を使って攻撃してくる為対応に苦労した。俺とローズ、マリーがそれぞれの首に対応し、マリーと召喚獣達が順番に潰していく。途中で何度か冷やりとする場面もあったが苦戦の末、倒す事が出来た。
41層からは森林系のフィールドに獣種や、虫種、鳥種等多くのモンスターが襲って来た。これまでは1層に対して1つの種族や、多くても3つの種族しか出てこなかったのだが、41層からは多くの種族が徒党を組んで襲って来た。
森林フィールドでは見通しが悪く、クロやスノーのお陰で不意を付かれる事はなかったが、精神的な疲労は溜まっていった。更に状態異常を引き起こすような罠やモンスターも多く、普通の人は絶対に長くこの森には居れないだろう。
ただ、虫系は火魔法が弱点の敵が多く、俺達との相性は良かった。それにこの頃になるとローズがある程度光翼を操れるようになっていた。
ここでは1層を攻略するまでの時間も長くなり、修行の為に層に残って修行する事も増えていった。道中の雑魚でも一撃で倒す事が難しくなり、より一層の連携を求められるようになっていたのだ。
それまで俺はどちらかと言えば全体の援護という立場を取って、みんなの成長を促していた。だが、それだけでは進むのが厳しくなった為、みんなと一緒に積極的に戦闘するようになった。
大賢者の塔の中で濃厚な時間を過ごしていく内にマリーでさえもS級に届きそうな所まで来ている。俺とローズ、クロは間違いなくS級のレベルに達しているだろう。召喚獣達もゴブリンズ以外はA級に達していると思う。
50層のボスはクイーンビーと蜂の大軍だった。クイーンビーの後ろには大きな巣があり、雑魚はいくら倒しても巣から沸いてくる。更にその雑魚を指揮する上位種もおり、楽ではなかった。スノーが広範囲に氷の雨を降らせ、雑魚の動きを鈍らせてからクロと俺の火魔法で殲滅する。そして上位種はマリーとイクスが倒して行く。
巣を壊す為にクイーンビーをローズに抑えて貰って、全員で攻撃していたのだが、想像よりも固くクロに爆炎獣撃を撃ってもらって破壊した。だが、全体のダメージの蓄積がひどい上にクロも殆ど動けなくなってしまう。
そこで俺は今まで使ったことが無かった光魔法Lv9の天使光臨を使った。これは範囲内の味方の体力と魔力を全回復させる神級の魔法だ。これまで使う場面もなった事もあってぶっつけ本番で試したのだが、普通なら全ての魔力と体力の殆どを使い果たすような魔法なのだが俺は魔力の半分程で発動する事が出来た。
それによって全員が殆ど全快の状態になり、危機を脱する事が出来た。その後はローズがクイーンビーの攻撃を受け止め、全員が全力で攻撃を仕掛ける。今までで一番長い戦闘時間が掛かったが接戦の末に倒す事が出来た。
50層を越えた事でやっと全体の半分。しかし、俺達の力では限界が近いのも分かってしまった。俺達はやっと人類の上位という感じだが相手は魔神であり、それに属する強大な敵だ。こんな所でこれだけ苦労して果たして無事に魔神を封印する事が出来るのか、俺はすこしだけ不安になっていた。
51層から山脈フィールドだった。今まで出て来た敵も多く存在し、更に下位ではあるが竜種も現れ始める。フィールド自体も非常に高い山や、深い谷、進むだけでもかなりの時間が掛かる。
そこに竜種が複数で現れるのだ、苦戦するのは当然であった。俺達はモンスターと戦う経験は多く積んだ、しかし環境に対応するには冒険の経験が足りなさ過ぎた。
51層から60層まで数ヶ月を要した。やっとボス層に着いて俺達は更に絶望の淵へと落とされる。現れたのは上位の竜グランドラゴンだったのだ。
非常に固い外皮を持ち、魔法も物理も効きづらい。更に空を飛びブレスも吐く。1匹だけとはいえ、これまで出会ったモンスターの中で間違いなく最強の存在だった。
俺達は苦戦の末、60層から敗走した。勝てそうではあった、ただし全員が五体満足で勝つには厳しい戦いだった。なので全員の安全の為に逃げる事を選んだのだ。
ここを確実に勝つ為には更に修行を重ね、レベルを上げて経験を積むしかない。話し合いの末にその結論へ到った。
ここまでの攻略で食材も7割近くが無くなり、予備の装備もない。更に60層を越える場所では今の装備ではとてもではないが届かない。もっとしっかりと準備が必要だと分かったのだ、それはこれまでの環境に完全に対応出来なかった事からも分かっていた。きっとこの先も楽な道ではないはずだ、であれば一旦外で準備を整えて改めて挑戦する方がいいだろう。
こうして俺達は大賢者の塔を一旦出る事になった。
お読み頂きありがとうございます。
すこしだけ物語が動きます。




