52話 大賢者の塔 その11
「すまない、もう少しだけここで鳥人族と戦えないだろうか?」
と、いうローズの発言により俺達は数日を26層で過ごした。どうしても飛びたいらしくハーピーの飛び方や戦い方を研究したいという事だった。
1日、2日と徐々に上達は見て取れたのだが自由自在に飛ぶのは厳しいようだ。戦闘中に使っていたが精々滞空時間が長いジャンプという感じだった。それでも使い方によってはこれまでの戦闘スタイルが大きく変わる可能性を秘めていた。
ローズには一旦26層での鍛錬を諦めてもらい、先に進むことにした。27層では蜘蛛人族と戦った。蜘蛛人族のメスはアラクネと呼ばれるような、女性の上半身が蜘蛛に乗っかったような見た目。オスは蜘蛛が二足歩行したような、蜘蛛成分多目の人型だった。オスメスどちらも武器を使い、更に糸と魔法も使う戦闘スタイルも独特で立体な攻撃を仕掛けてくる。火魔法が弱点だが、それも気にならないくらいに強い相手だ。
こちらにはクロとスノー、そしてイズミの察知があるので不意打ちを食らう事はない、それに火魔法が得意なメンバーが多いので比較的戦いやすかった。
「き、気持ち悪いですぅ~。」
「我慢しろマリー、近寄る前に切ってしまえばいいんだ。」
マリーは虫が嫌いなのか、もの凄く嫌そうな顔をしながらローズが言った通り近寄られる前に蜘蛛人達を切っていく。クロもあまり触りたくないのかいつもより蹴りと火魔法を多めに使ってる様に感じた。
27層は女性陣、主にマリーがもの凄く嫌がったので俺もいつもよりも前に出て火魔法多目で殲滅している。そしていつもより早く階段へと辿り着き、その日は心労と疲労で早めの就寝となった。
翌朝は起きたらすぐに準備をして28層へと向かう。しかし、そこで待っていたのは多くの人に嫌われている死人族だった。死人族とはその名の通り、死んだ人間がモンスターになった奴らだ。肉が腐り落ちているゾンビや骨だけのスケルトンがその大半を占める。
こいつらは痛みを感じないので多少のダメージでは怯まずに向かってくる、バラバラにするか聖属性で浄化するしかない。
「死人族か、ここは私に任せろ。『ホーリーサークル』『バニッシュメント』!」
そう、普通ならもの凄く嫌なモンスターなのだが俺達には天騎士であるローズがいる。その極めた光魔法で死人族を全く寄せ付けずどんどん浄化して倒していく、完全にイージーモードである。
ちなみにホーリーサークルは光魔法Lv7で覚える邪悪を寄せ付けない聖なる光の結界を作り出す、バニッシュメントは聖なる光で浄化する攻撃魔法だ。
普通の冒険者であれば光魔法をLv6にするには少なくない時間が必要であり、魔力量や職業の問題もあってここまで楽にはいかない。
「ローズがどんどん人から離れてる気がするな。」
「冗談でもやめてくれ、自分でもすこしだけ思う所はあるんだ・・・。」
「ローズおねぇちゃん、天使みたいだね。」
マリーが屈託の無い笑顔で言い放ち止めを刺す。確かに、光の翼を出して空を飛び聖なる光で魔を浄化するのは御伽噺の天使のようだ。
マリーに天使みたいと言われてローズは否定しながらも満更ではない様子だ。
「さて、この層は私に任せてくれ。臭いもきついし早めに次の層へ向かおう。」
ローズの言葉に従って俺達は最短で階段へと辿り着き、そのまま29層へと入った。
そこで待っていたのは獅子人族、人型のモンスターの中では上位の部類でその戦闘力は凄まじい。オスは雄雄しい獅子の顔、殆どが筋骨隆々の逞しい肉体を持つ。メスは人に近い顔つきをしているがその四肢には金の毛が生え、鋭い爪を持っている。
「こいつらは、ちょっと気合を入れないとやばいな。全員気をつけろ!特にマリー、こいつらはスピードもかなり早い、今までとは全く違うと思ってくれ。」
「わかりました!」
「イズミはマリーのフォローに回ってくれ。」
(は~い。)
マリーは召喚獣達と相性がいいのか、お互いの欠点をサポートしながらいつも以上の力を引き出している。なのでどの召喚獣と共闘させても大丈夫なのだ。
「スノーは全体の把握と上空からのサポートだ。臨機応変に頼む。」
(任せてぇ~!マリーちゃんはわたしがちゃんと見てるよ!)
「ローズ、クロはいつもと同じで確実に倒していこう。頼んだ。」
「「任された!」」
全員が気合を入れ直した所で先へと進む。獅子人達はその肉体と筋力、スピードを生かした格闘スタイルだ。指揮官クラスになると武器も使うが、こいつらは持っていない所を見ると獅子人の中でも下位種かもしれない。
「グルゥァァァ!」
裂帛の雄叫びと共に獅子人の群れが襲い掛かってくる。勢いのまま繰り出された攻撃をローズが盾で受け止め、クロはカウンターを合わせる。俺はマリーの周りに氷の壁を作りサポートする、氷の壁にぶつかって勢いが失われた獅子人へマリーの必殺の一撃が決まった。
クロは今まで格闘スタイルの敵が少なかったこともあって生き生きと戦っている、自然と高揚しているのかもしれない。敵の攻撃にカウンターを合わせて大きなダメージを与える、そして体勢が崩れた所へ炎の拳が襲い掛かる。
「ほっ、やっ!はぁ!!楽勝!」
口では楽勝と言うが見ている限りはいつもより倒すまでに時間が掛かっているようだ。マリーの攻撃も一撃で倒せない場面が増えて来た。ローズは安定して抑えているがさすがに数が多く、きわどい場面が見て取れた。
今までにない相手だけに修行には丁度いいかもしれない、そんな事を考えながらみんなをサポートしつつ戦っているといつの間にか全て倒しきっていた。
「お疲れ様、みんなどうだった?俺にはいい戦いのように見えたんだけど。」
「そうだな、これまでの相手とは一味違ったとは思う。」
ローズは役割的にほとんどの敵の攻撃を受けるので他のメンバーよりは分かり易かったようだ。
「わたしは楽しかったな、いい修行になったよ。」
「ライオンさんは強かったです。」
クロとマリーも敵の強さを肌で感じたようだ。
「俺としてはこの層ですこし修行をしてもいいかと考えているんだが、どうだろうか?」
「そうだね~、わたしは歓迎かな。」
他のメンバーも頷いている。俺的にもここはみんなが無理なく修行出来るいいバランスだと感じたので今回の提案をしたつもりだ。
今日からすこしの間は29層で獅子人族を相手に修行をする事になった。
休日は外泊していた為に更新できませんでした。申し訳ありません。
平日は最低でも1話づつ更新したいと考えております。




