41話 大賢者の塔 その3
「さて、今日から5層か。ここまでは問題ないけど気をつけて進もう。」
出て来たのはホーンラビットとウルフ、外の世界では有り得ない事に兎と狼が共闘していた。どうやら塔は独特の世界のようだ。ウルフが素早い動きで撹乱し、ホーンラビットがその鋭い角で背後から急所を狙ってくる。
「気を付けろ、いつものホーンラビットのつもりで居たら刺されるぞ!」
ガキっと音を立ててローズが盾でホーンラビットの角を受け止める。すかさずウルフ達が攻めてくる、強さ自体は大したことないが今まで見たこともない連携に浮き足立つ。
「落ち着けみんな!ただ、モンスターに襲われてるだけだ、落ち着いて対応すれば大丈夫だ!」
俺とローズはホーンラビットを盾で止めつつ、クロがウルフに対応して殴り殺していく。そして落ち着いて1匹づつ片付ける。
「ちょっとあせっちゃった。まさか違う種類の魔物が一緒に襲ってくるなんて思わなかったよ。」
「確かにな、俺も一瞬だけ焦ってしまった。だけどここは塔の中だ外の常識は捨てたほうがいいだろうね。何があっても落ち着いて対応しよう。」
ここまでの層は1層につき1種族しか出てこなかったし、外の世界や他の塔でも全く別の種族が共闘することなどよほどの事がない限り有り得ない。その常識が俺達に危機をもたらしたのは言うまでもない。これまでも塔についてしっかりと意識して行動していたつもりでもどこかで常識に囚われていたようだ。
「クロ、右だ!」
ガッ! クロの右ストレートがウルフの顔面を捉え、そして一撃で砕く。
「よし、今のでこの辺りはお終いみたいだな。進もう。」
ここまでの5層で分かった事がいくつかある。まず層の広さはそれぞれ違っていた。そして途中に安全地帯があるという事だ。極端な話しだと4層目はボスしかいなかった事で極端に距離が短かったし、1層目は明らかに一番広かった。
それに5層目に入って初めて隠し部屋を見つけた、その部屋は全くモンスターの気配がなく、外から襲われる事もなかった。今後は隠し部屋の事を念頭に置いて探索し、見つけた場合は休憩や宿泊が必要かもしれない。
「この先に気配があるよ。大体8匹前後だと思う。」
クロは気配を読むのが大分上手くなってきた。最近ではある程度の数も把握出来るようになった。
「了解。スノー先行して先制攻撃。ローズは向かってくる敵を挑発で抑えて、その間に俺とクロ、マリー、イズミで倒していこう。」
(了解ですぅ~。行ってきます。・・・敵はウルフ6にホーンラビット2ですぅ、攻撃開始します!)
ドゥ!っと通路の先から風の音が聞こえた。どうやらスノーは嵐魔法で先制攻撃を仕掛けたようだ。
(ホーンラビットを遠くに飛ばしました。すぐにウルフが来ますぅ。)
「了解スノー。ローズまずはウルフが6匹くるぞ、その後に送れてホーンラビット2匹だ。」
「任せろ。こい犬っころ『挑発』!」
ローズの挑発によってウルフが一斉に向かって行く。だが、そこへ俺とイズミ、クロが1匹づつ迎撃する。イズミはその鋭い爪を使ってウルフを切り裂く、上位種であるイズミの爪は簡単にウルフの首を飛ばす。
「いいぞイズミ、こっちも行くぞ。『疾風迅雷』!」
俺はスキルを使い身体能力を引き上げてウルフへと剣を振り下ろす。その一撃は首を刎ね飛ばす。そしてクロは強力なパンチでウルフの顔面を潰す。マリーはその大きな剣で真ん中から縦に割る。
「スノー、ホーンラビットは任せるぞ。」
(任されたぁ~)
その瞬間、ゴゥ!っと風が舞い上がりスノーの羽根吹雪と共にホーンラビットへ襲い掛かる。先ほどは遠くへ弾き飛ばす風だったが、今回は切り裂くための風だ。短剣のような羽根が突き刺さり、激しい剣戟のような風がホーンラビットを簡単に消滅させてしまった。
「残りは俺達で。」
ローズがウルフを盾で受け止めたまま右手の剣を一振り。そしてクロが飛び蹴りを、俺は雷撃でウルフを消し飛ばす。
「敵の気配はなくなったみたいだな。スノーもイズミも良くやったぞ。」
クロは戦闘後すぐに敵の気配を探すが、反応はないようだ。力強く頷きそれをみんなに伝える。俺はそれを確認してみんなに言葉を掛け、召喚獣達を撫で回す。これまでとほとんど変わらない、いつもの戦闘の風景だ。そして俺達は先へと進む。その繰り返しで塔を攻略していく。
その後も順調に進んで行く。俺達は出来るだけ素早く、確実に敵を倒して行く。物語定番の序盤に油断して怪我をするとか、勿体ぶって進んで強い敵が出てくるとかそんなフラグは一切必要ない。兎に角最短最速で敵を倒す事を意識している。そうじゃないと俺の称号がテンプレを呼んでしまうのだ。
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