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28話 クロとローズの長い1日

 その日は学園での授業初日だった。朝起きたクロは深いため息を吐く。


「はぁ~わたしが戦士見習いかぁ、ちゃんと戦えるかなぁ。治療士とか魔術士になりたかったんだけど、適正が火だけじゃどうしようもないもんニャ・・・。」


「よっし、気を取り直して学園いこう。今日が初日だもん、友達だっていっぱい作らないといけないし、暗い顔してたらダメだよね。」


 昨日友達になったジンは適正診断で召喚士とかいう聞いたこともない職業になった上に、全属性適正、更に筆記も体力測定も断トツトップの主席合格。あんなにかわいらしい男の子のどこにそんな力があるのか不思議でならない。


 食堂で朝ご飯を食べながら周りを見ると本当にいろんな種族の子がいる。みんな強そうだなぁ、あのエルフの子凄い綺麗だなぁ。と、話しかける事も出来ずに一人で隅の方へ座っていた。


「教室に行ったら隣の子に声掛けるんだ!」


 教室に行くとジン君が座っていた。


「ジン君、同じクラスだね、これから三年間一緒に頑張ろうね。」


 勇気を出して話しかける事が出来たが、わたしの様子を気にしてくれたのか優しく言葉を掛けてくれた。

 私は昨日の結果を話したんだけど、語尾が訛ってしまった。気をつけてるんだけどどうしても癖が抜けなくてニャって言っちゃうんだよね、凄い恥ずかしいよ。けど、話したらすっきりした。友達の存在って凄くありがたいんだな、ちょっと心が温かくなった。


 最初の授業は模擬戦だった、ジン君と朝食堂で見たエルフの子が戦うみたい。ジン君の召喚士って魔法使い系だよね、大丈夫かな、怪我しなきゃいいけど。


 戦いは明らかにレベルが違った。わたしは攻撃の半分くらいは見えなかった、特にジン君の動きは獣人のわたしの目でも追うのが難しい。こんなに強い人初めて見た、わたしは必死でジン君の動きを追いかけていた。


「わたしもいつかあんな風に強くなれるのかな・・・。」


 戦いが終わった後、エルフのローズさんがジン君に話しかけてきた、なにやら一緒に鍛錬する約束をしてるみたいだ。わたしは勇気を出して一緒に鍛錬したいと言った。これからはもう少し前向きに頑張って見ようと思う。



 ローズは朝から機嫌が悪かった。理由は単純だ。絶対に主席になれると思っていたのに全てにおいて2位だったのだ。これはローズの12年の人生で初めてだった。


 ローズは幼い時から両親にエルフのなんたるかを叩き込まれ、厳しい修行を強いられた。親は長い時間を生き、沢山の経験を積んできた。その全てを娘に受け継がせようとはじめての子供の教育に全てを注ぎ込んだ。

 元々剣の才能があったのだろう、めきめきと実力が上がって行く。ある日、突然心が強くなった感覚があった。必死に修行に取り組み知識を詰め込む。そしてエルフの誇りを感じるようになった、小さなローズはそれを大事なものと信じ、守ることを誓った。


「私のこれまでの日々は何だったのだ、こんな結果など認められる訳がない!」


 ローズはずっと考えた。これまでの事、そしてどうするべきかを。そして、チャンスを得た。


「私に戦わせて下さい!」


 気が付くと授業の模擬戦であの男、ジンと戦う事になった。奴は私の事など全く知らないように振舞う、私はバカにされたようで腹が立った。


「私が守るべきものとは自分の誇りだ!」


 全ての力を振り絞り剣を振るう。しかしジンには届かない、事如くを防がれ払われ流される。頭に血が昇っていくのが分かった、一瞬意識が逸れてしまった。彼はその一瞬を見逃してはくれなかった、強烈な突きが鳩尾に突き刺さる。完全に集中が途切れた、流れるように倒され剣を突きつけられて勝負は終わった。


 負けて気付く、私は自分の世界しか知らない。いや、知らなかったのだ。ジンの剣がそれを教えてくれた。世界は広い、私はもっと強くなれるはずだ。それを知りたい、そして彼に近づきたい。一緒に鍛錬したいという願いを彼は快く受け入れてくれた。そしてクロという猫獣人の女の子と友達になった。


 その日の夕飯はクロと一緒に食べた。友達との初めての食事はいつもより美味しく感じた。これから彼と、そして彼女や沢山の人と友達になって広い世界へ飛び立っていこう。そう考えるとなんだか凄く世界が綺麗に見えた。

今日の更新はこれで終わりです。

お読み頂きありがとうございます。

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