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いつかは沈む標に舫う【短編集】  作者: 冬至 春化


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21「毒杯」



 お嬢様の影武者である私は、彼女と共に楼閣に閉じ込められ、毒の入った杯とそうでない杯を前に困り果てた。


 どうやら賊は私とお嬢様の見分けがついていないらしい。神童と称されるお嬢様なら、影武者に毒杯を押し付けると踏んだのだろう。馬鹿な私にはどちらも同じ盃にしか見えず、毒杯を判断できなかった。


「わたしはこちらを選びます」

 傍らのお嬢様が凛と告げ、漆塗りの杯を手に取る。私はその横顔に真に迫った決意を認めた。


「お前、影武者の身で主人を出し抜く気なの?」

 私は咄嗟に、お嬢様なら決して言わないような言葉で杯を奪い取る。お嬢様は一瞬だけ眉根を寄せて私を正視すると、瞼を伏せ、黙ってもう一つの杯を取り上げた。



 果たして同時に杯を干せば、頽れたのは傍らのお嬢様であった。「どうか息災で、」そんな、驚くほど残酷な言葉を残して、私の主人は息絶えた。


 かくして人質となった私は、姫君として今も生きさらばえている。しかし、城に送り返された遺体を見れば、当主様は全てを理解するはずだ。

 私を人質とした賊の言葉に当主様は応じない。賊の企ては失敗に終わる。



 お嬢様は聡明な人であった。きっとあの数秒の逡巡のうちに全てを見越していたのだろう。愚かな私があなたを庇おうとすることも分かっていたはずだ。


 残された私に手を差し伸べる者など、誰一人として存在しないことさえも。



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