とある職員の日記
【王暦113年6月1日】
魔法省は混乱している。
前回の建国祭で怪人の襲撃が起こったのは、どうやら百年ぶりのことらしい。そして今回の襲撃には魔法少女も関与していた。
最初は悪質な冗談かと思ったけど、ネットで流れている映像を見て、そうじゃないとわかった。やはり衝撃を受ける。
特に怪人と行動を共にしていたのが、星ちゃん。
普段は無言で、雪ちゃんの後をついて回る弱気で自己表現の少ない子が、あのような激しい感情を露わにするとは。
予想できなかった。もっと注意を払っていれば、あるいはあのような事態にはならなかったかもしれない。
私がカウンセラーとして失格だったということだ。
上の連中も前例がないから、どう処置していいかわからないみたい。
情報を隠して、対策を決めるまでスターリーアイズを監禁するつもりらしい。
重要な戦力だからね。
厳しい処罰もできない。
他の子たちの士気に影響するか、最悪の場合反乱を引き起こすかもしれないから。
魔法省内でもスターリーアイズが怪人と共に行動していたことを信じられない者が多く、その怒りをサヨナキドリに向けている。
厄介だ。
魔法少女が怪人に打倒されたことや、建国祭での事件、今年は人を不安がるなことが多い。まるで何か大きな出来事が起こる前兆のようだ。
すべての出来事が、紅が捕まえた野良魔法少女、サヨナキドリと関係しているように思える。
おそらく、私の知らない歯車が回っているのだろう。
とにかく、上層部からサヨナキドリのカウンセリングを任命された。彼女を説得して、私たちの仲間にするようにとの指示だ。
乱暴な子だと聞いているので、少し心配。
だが、紅の負担を軽減するためにも、頑張らなければならない。
ファイト、私。
...
【王暦113年6月3日】
サヨナキドリと会った。
扱いにくい子だと思っていたが、意外にも落ち着いている。
なんというか、とても大人びた印象だ。同じく確保された魔法少女のリコシェと比べると、その差が一層際立っている。
娯楽のために怪人を虐待するとは考えにくい。
何か理由があるのかもしれないが、交戦規則に違反したのは事実だ。
とりあえず教材を渡してみたが、きちんと読むかどうかはわからない。まずは様子を見ることにする。
ちなみに、あの子はかなり人気があるようだ。
理由ははっきりしないが、雪ちゃんとリコシェは彼女にとても懐いているように見える。
大人のような落ち着いた雰囲気、A級の強さ、そして対比としての違反行為。
矛盾した感じがする。彼女の外見も神秘的で、かなり魅力的だ。話をしていると、なぜか背徳感を覚える。
これがいわゆる危険な魅力というものかもしれない。
リコシェはともかく、雪ちゃんが悪影響を受けないようカウンセリングしなきゃ。
...
【王暦113年6月5日】
前言撤回。
サヨナキドリとリコシェが夜遊びをしているところを捕まえたうえ、重要区域に侵入していた。
安全警報が作動しなかった。もし巡回中の特殊部隊員が異変を感じなければ、私たちは気づかなかっただろう。
セキュリティ担当者はほとんど吐血する勢いだった。
上層部は激怒しており、彼女たちの行動をしっかり管理するようにとの指示があった。
リコシェにどうやって侵入したのか尋ねたところ、彼女は「ただ適当にパスワードを押しただけ」と答えた。
気が遠くなるような回答だ。
一応、全ての通路のパスワードを全面的に変更するよう指示した。
今回の事件で気になるのは、サヨナキドリが紅の医療カプセルを発見したことだ。彼女がそれをどう思ったのかはわからない。
とはいえ、魔法省が彼女の力を必要としていることを知ってもらうのは良いこと。
サヨナキドリは魔法省で何かを探しているようだ。
彼女が探しているものを理解することが、彼女が魔法省に留まる意欲を引き出す鍵になるかもしれない。
...
【王暦113年6月7日】
あの子たちは本当に元気がある。すでに何日も夜遊びを続けている。
驚いたことに、パスワードを変更しても安全対策がまったく彼女たちを阻止できない。
これはリコシェの能力だと疑っている。
リコシェが運に左右されるゲームと認識したものは、彼女の固有魔法によって有利な結果を引き寄せるらしい。
おそらく、パスワードロックをビンゴのようなゲームとして扱ったのだろう。
本当に頭が痛い。
リコシェが探しているのは明らかにタバコと武器だが、サヨナキドリの目的はわからなかった。
物欲は感じられないが、何かを急いで探しているようだった。
直接尋ねてみたところ、意外にも正直に答えてくれた。
彼女は自分の契約妖精を探していると言った。
上層部に確認しなければならない、あのバカどもが本当に妖精を確保したのかどうか。
サヨナキドリが嘘をついていないなら、妖精を見つけたら本気で逃亡するだろう。
もし彼女が紅の療養中に逃げ出すとなると、誰も止められない。
ともかく、これは一歩前進かもしれない。彼女が少しずつ心を開いてくれたのだろう。
引き続き努力しなければならない。
...
【王暦113年6月9日】
サヨナキドリのデータを調べてみた。
まるで混乱の塊で、信じられないほど不可解。
彼女を捕まえたので、写真を通じてデータを取り寄せたが、見つかった資料は信憑性に欠けている。
一見すると完璧に揃っているようだが、詳しく調べると多くの不合理な点が見つかる。
サヨナキドリの出身は依然として不明だ。
役員たちは驚いており、こんな見落としは珍しいと言っていた。
これには妖精の影響があるのではないかと疑っている。
これほどまでにしてサヨナキドリをこの街に現れさせるのは、単なる遊び心なのか、それとも他の目的があるのか、まったく見当がつかない。
その資料がないと家族構成の推測もできず、彼女の人格形成も把握しづらい。
そして契約妖精の件。上の連中はやることが中途半端で、今考えても腹が立つ。
指示に従って曖昧な答えをしたが、あの子の鋭さではすぐに不審を抱くに違いない。
上層部は相変わらず私に急ぐように言ってくるが、手札がない状況ではお互いの時間を無駄にするだけだ。
何度も上に言ってきたが、どうやら聞く耳を持たない。
とにかく、これからも強引に進めるしかない。
動揺する時代だ。あの子たちに自分たちは孤独ではなく、互いに協力できることを理解させなければならない。
...
【王暦113年6月15日】
油断した。
今回の怪人襲撃がこれほど深刻になるとは思わなかった。
現役時代の感覚で怪人を阻止しようとしてしまい、その結果重傷を負ってしまった。
私が病床にいる間に、上層部は紅に「例の方法」でサヨナキドリとリコシェを従わせるよう命じた。
上層部も焦っているのだろう、今回の怪人襲撃が引き金になったに違いない。
戦力低下の問題が再び浮上してきた。
知らぬ間にまた紅に負担をかけてしまった。
抗議しても無駄だった。
上層部は簡単に考えているようだが、本当に彼らの思い通りになるのか。
これまでの子たちはサヨナキドリほどの強さを持っていないし、大半は紅に憧れている。
ともあれ、命令は下された。
先輩として、私ができることは多くない。ただ従うしかない。
頑張って、サヨナキドリ。
こう言うのはおかしいかもしれないが、彼女には簡単に屈してほしくない。
どうか、挫けないでほしい。




