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エンゲージ

「っ。悪趣味だな、サヨナキドリ!」


女怪人は表情を引きつらせ、後退しながら口と鼻を押さえた。彼女の背後にいる下級怪人たちも、恐怖に怯えるように後ずさりしていた。


「あの鎧、あの死臭ししゅう。ああ、そうか。これが彼の…っ!あなた、狂ってる!」


「好きに罵ればいいさ。」


内心の高揚感が失血によるアドレナリンのせいなのか、この鎧の影響なのか、私には分からなかった。ただ、自分の顔に微笑が浮かんでいることだけは感じていた。


「もし、この姿が君たちに恐怖を与えるなら、外道と呼ばれようが構わない。」


両手を上に掲げ、私は静かに詠唱した。


「開け。」


「何をしている!早く突撃しろ!彼女を止めるんだ!」


女怪人が背後の怪人たちに怒鳴り声で命令するのと同時に、私の魔法が完成した。


演劇えんげき硝煙しょうえんの歌。」


砲身の真鍮しんちゅうのような光沢こうたくが廊下の光にきらめく。


両側に大きく開いた黒い扉から、二門の滑腔砲かっこうほうが現れた。それだけでなく、地面からも二門の機関砲きかんほうがせり上がってきた。通常の状態では考えられないような大きな兵器が自分と繋がったのを感じながら、私は両手を振り下ろした。


射撃アクセント。」


轟音が響き渡る。


二門の滑腔砲の一斉射撃が、無謀にも突撃を試みた怪人の群れの中で炸裂した。怪人たちは悲鳴を上げ、黒い粉が空中に舞った。たった二発で、怪人たちの陣形は崩れた。砲弾の空殻が地面に落ちるときの清脆な音は、残った怪人たちの肩を一斉に震わせた。


恐怖が怪人たちの間に広がった。下級の怪人たちは奇声を上げ、私から遠ざかろうとした。退却する怪人たちに対し、私は一歩を踏み出した。私の動きに呼応して、地上の二門の機関砲が作動し始めた。


「ひとりも逃がさん。連射グリッサンド。」


鈍い、連続した轟音が響く。飛び交う火花と共に、下級怪人たちの身体には大きな穴が空いた。呻き声、悲鳴、驚愕の声が入り混じる中、怪人たちは互いの屍を踏み越えて撤退しようとしたが、無情な砲火が彼らを次々と粉々にした。


「うっ!うあああああぁぁ!」


灰色の衣を纏った女怪人は、先程の二度の砲撃で既に傷だらけになっていた。彼女は刀を振りかざし、迫りくる砲弾に立ち向かった。


銀白の刀が第一撃の砲弾を受け止め、大量の火花が空に舞った。しかし、続く第二撃、第三撃が彼女の体を削り取った。苦痛に顔を歪めながら、怪人の燃え上がる衣の端が宙に舞い、瞬く間に焼き尽くされた。同時に、重低音のドラムのようにリズムを刻む機関砲が、彼女の背後の下級怪人たちを完全に殲滅した。


「アアアアァァァ!サヨナキドリ!」


女怪人が絶叫し、独眼を見開いて無我夢中でこちらに突進してきた。私は指を鳴らし、再装填を終えた滑腔砲を彼女に向けた。


「首切り…!」


「遅い。」


「っ!」


滑腔砲が発射され、女怪人は再び刀を構えて迎撃した。銀白の剣閃が正確に砲弾の先端を捉えた。


そして、金属がぶつかり合う音と火花の中で、銀白の刀は真っ二つに折れた。


「あ。」


砲弾が怪人の腹部を貫い、爆発音が響く。怪人は膝をついて地面に倒れた。


「ぐはっ。」


大量の黒い液体を口から吐き出し、怪人の下半身は粉末と化した。


「まだ、死ねない。」


上半身だけになった女怪人は、半分に折れた刀を握りしめ、這いながら前進し続けた。


「私の復讐、まだ終わってない。こんなところで、倒れるわけには。ダメだ、ダメだ。ブレイズエッジ、まだ、生きている…」


私は彼女の伸ばした手を踏みつけて粉々にした。


「…っ!」


「どうあれ、ここまでだ。」


「くっ、くそっ!あなたが邪魔するなければ、サヨナキドリ!」


怪人は残った手で半分に折れた刀を振り上げ、私の足に向かって斬りかかってきた。しかし、下半身を失い、命も風前の灯火である彼女の腕力では、私の鎧を貫くことはできなかった。私は彼女の手首を踏み折り、刀を奪い取った。


「返せ!それは私のだ!私の主人が残してくれたものだ!返せ!あなたの汚い手で触るな、この卑劣な魔法少女!」


怪人は地面を這いながら、私の鎧を叩き、刀を奪い返そうと必死にもがいた。しかし、その努力は無駄に終わり、彼女の打撃は私の鎧に何の影響も与えなかった。


「覚えているか、君は四肢を刺してから心臓を抉り出すと言っていたな。」


「~~~~~」


私は折れた刀を彼女の肘関節に突き刺した。怪人は声にならない悲鳴を上げた。


「さあ言え。君に情報を提供したのは誰だ。魔法省には内通者がいるに違いない。」


「…っ!誰が、教えるものか!」


今回は刀を彼女の肩関節に突き刺し、ひねり上げた。怪人は苦痛に身をよじらせた。


「言え!貴様たちと共謀しているのは誰だ!」


「はぁ、はぁ。あはは、あははははは!」


女怪人は笑い始め、その顔には悪意が満ちていた。


「考えろ!どうだ!自分の敵が怪人だけじゃないと気づいた気分は!」


尖った歯を見せ、残った複眼を大きく見開いた。


「もがけ!サヨナキドリ!どれだけ強いでも、あなた一人で闇に立ち向かえるはずがないわ!今日が私の終わりでも、彼は成長を続けるし、私たちの意思を継いで生き続ける!この燃える思いは、あなたがどれだけ強くなっても消し去ることはできない!」


「…っ!戯言ざれことを!」


再び刀を振り下ろそうとしたその時、女怪人の残存した体は一気に燃え上がる粉末となり、消え去った。


「苦悩しろ。サヨナキドリ。」


残った顔が冷笑を浮かべた。


「この闇が続ける限り、あなたたちに夜明けは訪れない。」


私が反応する間もなく、その残った顔は呪いの言葉を残し、瞬く間に風化してほこりとなった。


「……っ。」


仮面のディスプレイがカウントダウンをゼロに戻すと、消えていた痛みが一気に戻ってきた。鎧が消え去った喪失感に耐えきれず、私は膝をついた。異空間から医療品を取り出し、簡単に傷口を処置する。薬液が傷口にしみて、思わず顔をしかめた。


「まだ、終わってない。メインホールに急がないと。」


私は、黒い粉で満たされた廊下に突き刺さったままの銀刀のもう一つの断片を拾い上げ、異空間に収めた。






「お前は、何をした。」






メインホールへ援護に向かおうとしたその時、低く重い声が私の足を止めさせた。振り返ると、そこには片腕の大男が立っていた。女怪人と同様に、大男の体も燃え上がっていた。彼の手に握られた戦斧には血の跡があり、ここに来る前に何をしたのかは容易に想像がついた。


「…貴様か!」


油断した。


彼らが二人組であることに気づくべきだった。


私の狼狽を無視して、戦斧が襲いかかってきた。反射的に折れた刀を持ち上げて防御しようとしたが、その力はまるで初めから私の手を狙っていたかのようで、刀の柄を放さざるを得なかった。


「彼女の記憶にお前の汚い手を触れるな。」


「っ。」


「答えろ。俺はお前に聞いている。お前は何をしたんだ。」


震える手を差し出し、片腕の怪人はその場に跪いた。彼は戦斧を地面に置き、私の手から落ちた銀の刀の半分を抱え込んだ。柄を強く握りしめると、怪人の燃え盛る体が激しく震え始めた。


彼が隙を見せているように見えたが、攻撃する勇気はなかった。片腕の怪人から漂う気配と溢れ出す魔力に、全身の毛が逆立った。


「また、お前に奪われた。二度も…っ!」


怪人は顔を上げ、凄まじい叫び声を上げた。黒い魔力が渦を巻き、黒い粉と火花が風に乗って空中に散った。怪人はゆっくりと立ち上がり、本来の巨体がさらに大きく見えた。


「許さん。」


怪人は片腕で残った半分の刀をゆっくりと持ち上げた。目を見開き、片腕の怪人は心を引き裂かれるような咆哮を上げた。


「許さんぞ、サヨナキドリ!」


「っ!」


無意識に手を伸ばし、怪人の咆哮による風圧を防ごうとした。身を低くして戦闘の準備を整えたが、目の前の怪人から放たれていた殺意が一瞬で消えた。彼は手を下ろし、手に持った刃を見つめていた。


「計画は万全だったはずだ。完全ではないにしても、少なくともブラックホールは開けた。なぜ。」


怪人が慟哭し始めた。


「復讐。それを続けなければならない、必ず実行しなければ。しかし、今のままでは勝てない。体は燃えている、傷は癒えない。俺は、弱い。今戦うのは無駄死にだ。どうすればいい。どうすればいい。どうすればいい。どうすればいい。どうすればいい。」


壊れたおもちゃのように同じ言葉を繰り返していた怪人が、突然静止し、まるで結論に達したかのように見えた。


「……」


「もっと、強くなければ。」


「っ!」


怪人の顔に決意が浮かんだ。その表情を見て、背筋に悪寒が走った。


「もっと強くならなければ。失うことがないように。強くなる。魔法少女のように、掠奪する側になる。」


警鐘が鳴り響き、私は急いで銃を構えた。しかし、巨漢は足で地面の斧を蹴り上げ、そのまま一蹴りで私に向かって飛ばしてきた。身を屈めて避けるしかなかった。その隙に、巨漢は後ろに扉を開けた。


「しまった!」


「さらばだ、サヨナキドリ。」


怪人は扉に足を踏み入れ、冷たい憎悪を浮かべた目で振り返った。


「この借りは、必ず返してもらう。」


扉が消え、黒い粉だけが残る廊下を見つめながら、私は悔しさに歯を食いしばった。頭を振って、今の失敗を振り払おうとした。


「...とにかく、今は早くメインホールの様子を見に行かねば。」


深く息を吸い込み、私が再び走り出す。

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― 新着の感想 ―
[一言] この新しい鎧、ひょっとして、G.ラポスの遺骸から作ったのかな?
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