侵入
ビーッビーッ、と。カードをスキャンして部屋のドアを開けると、桜庭はその中から武器を取り出し、私とリコシェに返してくれた。
「ちっ。ここにあったんだ。探すのに時間がかかった。」
リコシェがぶつぶつと呟きながらリボルバーを弄んでいる間、私は愛用の拳銃をチェックした。問題がないことを確認し、私は壁のパネルで何かを操作している桜庭に簡潔に質問した。
「状況は?」
「大量の下級怪人がポータルを通じて侵入した。外にも多くの怪人が包囲している。」
桜庭はパネルのいくつかのボタンを押した後、スクリーンを指さした。そこには地図が表示され、赤い点が密集していた。
「ここがメインホール。ここに通じる道は魔法省内部の各重要施設へとつながってる。怪人たちはここでの防御を突破し、各地に浸透してる。特に医療区域と幼年学校へ。どうやら怪人たちは何かを探しているようだ。」
「幼年学校はここ。そして医療区域は…」
「そう、焰刃の医療カプセルと星眼の集中治療室がある場所。」
「…確認したいけど、怪人の襲撃はよくあることなのか?」
「ええ、日常茶飯事だね。週に一、二回はある。ほとんどの場合、ここに駐留している子たちが撃退する。でも、今回は少し違うみたい。攻撃があまりにも秩序立っていて、まるで誰かが指揮しているかのように…」
「今、魔法省が動員できる戦力は?」
「...特殊部隊の皆さんとC級以下の魔法少女たちだけ。」
「おいおい、それで大丈夫なのか?」
リコシェは驚いた表情を見せた。
「仕方ない。A級のブレイズエッジは医療カプセルで治療中だし、B級のうち三人は重傷で動けない。スノーランスは市内から全速で向かってるけど、途中で怪人の市民への襲撃が頻発してるから無視できない。今回の攻撃、まるでこのタイミングを狙ってたみただ。偶然とは思えない。」
桜庭は言いかけて、突然パネルの操作を止めた。同時に、私は再び遠方から粘り気のある爆発的な魔力の波動を感じた。
「どうした?」
「わからない。メインホールに高魔力反応が出てる。このパターンは…」
桜庭はパネルを操作して、メインホールの映像に切り替えた。画面には崩壊した防衛線と、特殊部隊や魔法少女たちが押し寄せる怪人に抵抗している様子が映し出された。敗北は避けられない状況だった。
しかし、さらに気になるのはその中央だった。
メインホールの真ん中に不自然な黒い点が現れた。黒点はまるで生きているかのように脈動し、徐々に大きくなっていき、ついには大人が通れるほどの大きさになった。そして、その黒い穴から一気に黒色の魔力が爆発し、最後の防衛線を吹き飛ばした。
次の瞬間、潮のように下級怪人が溢れ出てきて、衝撃で倒れた特殊部隊と魔法少女たちは、瞬く間に怪人の波に飲み込まれた。
「…っ!」
その黒い穴を見て、リコシェの表情が強張った。彼女は口を押さえ、吐き気を堪えているようだった。桜庭は静かにモニターを切った。
「…状況は思ったよりも緊急しているようね。私、今から潰えた中央通路に向かって防衛線を再構築する。できれば、リコシェちゃんには学員区域へ通じる支道を守ってもらいたい。」
桜庭は一箇所を指しながら、私たちに説明した。
「サヨナキドリちゃんは医療区域を防衛してほしい。もし怪人たちの目的がブレイズエッジもしくはスターリーアイズなら、上位の怪人が攻撃してくる可能性が高い。それだけは絶対に阻止しなければならない。この魔法省の中で、今一番戦力が高いのはあなた。あなたならその攻撃を防げるはず。」
桜庭は私とリコシェに向かって頭を下げた。
「お願いします。」
「…わかった。状況が緊急だからね。魔法省の被害が拡大するのは避けたい。」
「ありがとうございます。」
私と桜庭はリコシェに視線を向けた。紫の魔法少女は私たちの視線に怯えたように一歩後退した。
「あ…あたしはできない…」
リコシェの声は珍しく震えていて、彼女は頭を抱えた。
「あれはブラックホールだよ!ブラックホール!勝てるわけない!もしあれが本物なら、すぐに、逃げなきゃ…」
「リコシェ!」
私は声を張り上げてリコシェを叱した。彼女の肩がびくっと跳ねた。
リコシェが反応する前に、私は目の前の震える手をしっかりと握った。その冷たい手に力を込めて握りしめ、体温を伝えようと。
「今、あのちびっ子たちには君しか頼れない。もう前とは違う。今の君には、あの子たちに同じことを経験させない力がある。」
「……」
「しっかりしてくれ、戦友。私の背中は君が守る。」
「……っ!あ、ああ。任せて。」
リコシェは私の手を握り返した。まだ冷たく震えていたが、その握りには力強さがあった。彼女の唇は白くなり、顔には引きつった微笑が浮かんでいた。
「わかった、やってやる!すぐ戻る!あんたも気をつけてな、戦友!」
「ああ。」
「何を待ってるんだ、ババア!置いていくぞ!」
リコシェは前方に走り出し、すぐに角を曲がって姿を消した。
「ありがとう。私じゃあの子を説得できなかっただろう。でも、あの言い方はちょっとずるいね。」
桜庭は私に微笑み、数歩前に進んで少し乱暴にボタンを叩いた。私と桜庭の間の通路にシャッターがゆっくりと降りてきた。警報が鳴り響き、壁のLEDライトも赤く変わった。
「とにかく、紅ちゃんのことは任せたよ。」
「ああ。たまには魔法省に恩を売るのも悪くない。」
シャッターが完全に閉じると同時に、私はカチャッと音を立てて銃を装填した。
「ずるいってのは、自分が一番よく知ってるさ。」




