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喧嘩

レストランで座っていた私は、皿の上の食べ物を漫然と弄びながら、近くのテレビウォールに映るニュースを見ていた。


ニュースでは、純白の魔法少女が槍を振るい、怪人から市民を颯爽と救い出す姿が映し出されていた。少女はカメラに向かって微笑み、手を振っていた。


その営業スマイルを見ながら、私は思わずため息をついた。


「あいつ、無理してるな。」


「急に何を言い出すの?」


私の独り言に反応して、向かいに座っているリコシェが顔を上げた。彼女もテレビに目を向け、軽蔑するように鼻を鳴らした。


「まったく、目立ちたがり屋なやつだな。」


「市民の前で笑顔を見せるのも魔法少女の仕事の一つよ。余裕を見せることで、人々を安心させることができる。何しろ、建国祭の時のあの騒乱を経験したばかりだし。」


「まあ、理解はできるけど、それは野良のあたしたちには関係ないことだ。」


リコシェは肩をすくめ、体を前に乗り出し、いたずらっぽい笑みを浮かべた。


「それで、どうなの?魔法省の連中はどんな手段であんたを説得しようとしたの?」


「それは…」


私が返事をしようとした瞬間、囁くような声が耳に入ってきた。






「恥知らずな野良どもめ。飯がまずくなる。」






「あ?」


リコシェが勢いよく立ち上がった。彼女の視線を追うと、レストランの一角に集まっている筋骨隆々の男たちが見えた。彼らの制服から、以前ブレイズエッジと一緒に病院に来て私を逮捕しようとした魔法省特殊部隊だと認識した。男たちはこちらを睨みつけ、不満の色を隠そうともしなかった。


私はため息をつき、リコシェを座らせようと試みたが、彼女は私の手を振り払って、歯を食いしばりながら男たちを睨み返した。


「男なら、こそこそ話さずに、意見があるなら堂々と言ったらどうだ?それとも、あんたが生まれ時に玉を付け忘れたのか?」


「なんだと!?」


坊主頭の男たちが一斉に立ち上がり、私たちを取り囲んだ。その様子を見て、リコシェは再び軽蔑の鼻息を鳴らした。


「男たちが二人の女の子を囲むなんて、実に勇敢だな。」


「よく言う、リコシェ。」


そのうちの一人が低い声で脅しをかけてきた。


「上の命令がなければ、今頃お前たち二人を牢屋にぶち込んでいるところだ。警官への襲撃、戦闘規則の無視、制限区域の侵入。さらに、俺らのアイドルたちを重傷にした。どんな言い訳をしようと、お前らは犯罪者なんだ。覚えておけよ。」


「はっ、ご説明ありがたいね。感謝の涙が出そうだ。普段は魔法少女の後ろで震えてばかり、D級の怪人相手でも群れないと倒せないくせに、急に威勢が良くなったもんだ。」


リコシェは挑発的な表情を浮かべた。


「調子に乗るなよ。ざぁこーざぁこ。」


男たちの額に浮かぶ青筋に気づき、私はため息をついて箸を置いた。リコシェの手を引き、男たちの間を通り抜けるように歩き出した。男たちは私を止めず、ただ睨みつけてきた。


「何よ。あたし、まだ言い足りない。」


「黙れ。少しは冷静になれ。人の縄張りで挑発するなんて、どうかしてる。」


私はもがくリコシェを引っ張りながら数歩進んだ。その時、背後から再び声が聞こえた。


「逃げるのか?天下無敵てんかむてきのサヨナキドリ様。」


「安っぽい挑発だな。行くぞ、リコシェ。」


「お前の契約妖精がどんな奴か見てみたいな。きっと愚かで低劣なんだろうな。お前みたいな魔法少女を作るなんてさ。」


私は無意識に足を止めた。リコシェが私にぶつかったが、今はそんなことに構っていられなかった。私は振り返り、先ほど話した男を睨みつけた。


「今、何て言った?」


「お前の契約妖精は愚かで低劣だって言ったんだ。」


「表へ出ろ、ハゲ。」


気づけば、私は親指で自分の首をなぞり、親指を下に向けるジェスチャーをしていた。


「本当に喧嘩がしたいなら、場所を変えようじゃないか。」



§


なぜ、こうなってしまったのか。


どうやら、私の修行はまだ足りないらしい。


練習場のリングに立ちながら、ため息が漏れた。しかし、リコシェはリングの下でワクワクした表情を浮かべていた。


「おい、早く片付けろよ。あたしも戦いたいんだ。」


「君は本当にこの状況を楽しんでるんだね。」


「当たり前だ。人をぶん殴れるんだからさ。」


「はあ。」


私たちが話している間に、向かいの警官も準備を整えたようだ。制服の上着を脱いだその巨漢きょかんは、たくましい筋肉を露わにし、戦闘の構えを取っていた。彼の目は戦意に燃えている。


「覚悟はできてるか?今日はお前たちの根性を叩き直してやる。」


「できるもんならやってみろよ、この雑魚が。ざぁこーざぁこ。」


私が何か言う前に、リコシェが挑発を始めた。目の前の男がリコシェの言葉に反応し、顔が茹で上がったタコのように真っ赤になった。周りの観客も騒ぎ出した。


「やれ、吉野!」


「あのメスガキにお仕置を!」


「俺たちの意地を見せてやれ!」


目の前の男は低く身をかがめ、一気に私に向かって突進してきた。


男は教科書通りの姿勢で右拳を振りかざした。相手が普通の人間なら、その一撃で倒れていただろう。


だが、彼の相手は魔法少女だ。


軽く頭を傾けて拳をかわしながら、前に一歩踏み出した。男の右拳を越えて、私の左フックが彼の顎を正確に捉えた。激しい衝撃で頭を揺さぶられた男は、その場に膝をついた。


さっきまで騒がしかった観客が、一瞬で静まり返った。


「手応えがまるでないな。」


両手を打ち鳴らしながら、リング下の男たちに向かって微笑んだ。


「全員でかかってこい。君たちのその程度じゃ、ウォームアップにもならない。」


怒声を上げながら、男たちは次々とリングに飛び乗ってきた。リコシェは楽しそうに笑いながら私の背中に背中を合わせた。


「そうこなくちゃな!さすがあたしの戦友、話が分かるじゃねぇか!」


「私はただ、これ以上時間を無駄にしたくないだけ!」


一人の巨漢の抱きつきをかわしながら、手刀で相手の額を打ち据えた。振り下ろされる拳を避けつつ、振り子のように左右に動いて反撃の拳を打ち込む。


リコシェも負けていない。彼女は頭突きで相手の顎を狙い、そのまま一蹴りで相手をリングから蹴り飛ばした。


「あはははは!どうした!雑魚ども!あたしをわからせじゃなかったのか?おらおら!」


「く、くそ!こんなにも実力差があるなんて!」


「怯むな!囲め!」


「突っ込め!数で押しつぶせ!」


次々と身を投げかけてくる巨漢たちに対し、私とリコシェは巧みにかわしつつ、相手を気絶させる攻撃を浴びせ続けた。乱闘が最高潮に達したその時、突然白衣の女性がリングに現れた。


「あらあら。ずいぶんと楽しそうな遊びをしているのね。」


いつの間にか、桜庭もリングに上がっていた。


「ここに現れるとはな、ババア!ちょうどいい、 ぶ飛ばす!」


「ちょ!」


止める間もなく、リコシェが桜庭に向かって突進した。


「確か、こうだったかしら。」


リコシェのストレートパンチをかわすため、桜庭は一歩前に踏み出し、呟いた。


リコシェの拳が空を切った瞬間、桜庭のフックがリコシェの顎をかすめた。


「あえ?」


リコシェは間抜けな声を上げながら膝をついた。桜庭はまるで子猫を掴むように、彼女の襟首を掴み上げた。


「私が元魔法少女だったこと、忘れた?これくらいの対戦ならまだやれるわよ。それじゃあ、茶番はこれでおしまいにしましょうか。」


「...ああ。終わりにしよう。ところで、君はなんでここに?」


「そんなの決まってるじゃない。」


桜庭は微笑みを浮かべた。


「補習の時間よ。」

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