面談
最後に植物に触れて、自然と親しんだのはいつのことだっただろうか。目の前の小さな花を触れながら、そんなことをふと考えた。
豊かな緑と花々に囲まれた私。空気には草木の爽やかな香りが漂っている。
私は温室の中に立っていた。ガラス製の天井と壁から陽光が差し込み、植物に当たってきらめく光を反射している。
花の上に付いていた露を手で拭い取り、振り返って後ろを見た。
テーブルと椅子のセットがあった。テーブルの上にはお菓子のバスケットが置かれ、色とりどりのマカロン、クッキー、小さなケーキが並んでいる。二杯の紅茶が湯気を立てていた。
テーブルの向かいには、一人の女性が座っていた。
その女性は眼鏡をかけ、栗色の長い髪を持ち、目の下に少しクマがあった。彼女は穏やかな微笑みを浮かべながら、厚い資料の束を取り出し、ふうっと一息ついてテーブルに置いた。
「さて、時間もそろそろですし、始めましょうか。」
私が腰を落ち着ける前に、櫻庭はすでに資料をめくり始めていた。
「魔法少女、小夜啼鳥。推定撃破数五十以上、評価はAランク。生年月日、年齢、本籍地は不明。資料には改竄の痕跡あり。出入国の記録もなし。登録された本名も偽名の可能性が高い。資料は揃っているが、どれも信憑性に欠ける。役人たちはこの件で頭を抱えているよ。あなたがどうやって資料を改竄し、この街に突然現れたのか、全く謎だからね。」
櫻庭は資料を閉じ、微笑みを浮かべた。
「まあ、役人たちの悩みは置いといて、魔法省にとって、戦力になりうる魔法少女は大歓迎さ。リコシェのように過去に何か問題がありそうな子は別として、あなたのように即戦力になりそうな魔法少女なら、多少の怪しさは問題にならない。」
「…つまり?」
「上からの指示は、何としてでもあなたを魔法省に迎え入れるようにってね。そのために、法の最大限の解釈を駆使して、あなたがここに留まれるようにする。あなたが納得するまで、ね。」
「ふむ。なるほど。」
「その余裕から察するに、あなたが本気になればいつでもここから逃げられるだろう。でも、逃げる前に、まだまだ一緒に過ごす時間はたっぷりある。夜の冒険でのかくれんぼや、昼間の授業までね。とにかく、よろしくね、サヨナキドちゃん。」
「はぁ、無駄だ。私が好きでここにいるわけじゃない。やるべきことがたくさんあるから、無駄な時間を過ごす暇はない。それに、私が魔法省のやり方とは合わないことも、君がくれた本を読んで確認した。」
「まあ、あなたは本当に真面目な性格なんだね。あの本を最後まで読むとは思っていなかったから、ちょっと驚いたよ。」
櫻庭は微笑みながら、ノートに何かを書き留めた。
「その点は心配しなくていい。あなたの固有能力を考慮して、我々は譲歩することに決めた。つまり、あなたの行動に対して大目に見るということ。解剖や拷問で怪人を処理しても、もう追及しない。」
「…自分たちのルールを無視するとは、本当に原則がないんだな。」
「柔軟性と言うんだよ。それが大人の生き方さ。」
櫻庭は優雅に肩をすくめ、マカロンを一つ口に運んだ。
「私たちはかなり譲歩しているんだよ。何しろ、君のせいで大事な戦力を失ったんだからね。重傷を負ったスターリーアイズはまだ目を覚まさない。この時期に高位の魔法少女が一人欠けるのは非常に痛手なんだ。どう?少しは補償しようとは思わないか?」
「...ずいぶんとずるい言い方だね。私の状況は正当防衛、せいぜい過剰防衛ってところでしょ。」
「あら。これは一本取れたわ。あなたにあの本を渡したのは逆効果だったようだ。」
櫻庭は苦笑しながら、再びクッキーを口に運んだ。
「でも、よく考えてみて。たとえば法律的な責任がなくても、道義的な責任はあるはずだよね。」
「無駄だ。感情に訴えてプレッシャーをかけようとしても、私には効かない。私じゃなければ、他の魔法少女ならきっと引っかかっていただろう。子供を前線に送り出す人の言うことはやっぱり違うわ。」
「なかなか辛辣なことを言うね。」
櫻庭はケーキの一つを手に取った。
「まあ、あなたの年頃の子は理想主義者だから、私たちのやり方には嫌悪感を抱くかもしれない。あなたたちも成長すれば、時には自分を汚さなければならないことに気付くよ。」
「そんな当たり前のことをわざわざ言わなくていい。無駄話はやめて、交渉したいならQを連れて来て。彼女に会うまでは何も話す気はない。」
櫻庭が次のケーキに手を伸ばす前に、私はそれを奪い取って口に入れた。櫻庭の手は空中で数秒止まった後、ゆっくりと引っ込められた。彼女は肩をすくめた。
「前向きに検討する。」
「結構。」
「...サヨナキドリちゃんは本当に早熟だね。あなたと話していると、まるで同年代か年上の人と話しているように感じる。」
「それを褒め言葉として受け取っておくよ。君こそ、お姉さんぶってるけど、実際にはあの魔法少女たちとあまり歳が変わらないんじゃない?」
「まあ。それを褒め言葉として、私が若くて美しいって意味に受け取っておくね。」
櫻庭は素早く最後のクッキーを私の前で取り、満足そうに咀嚼しながら微笑んだ。
「口元にクッキーの欠片が付いてるよ。」
「それは失礼。」
櫻庭はハンカチで口元を拭い、立ち上がった。
「どうやら短時間では合意に達しそうにないね。ティータイムも終わったことだし、少し散歩でもしないか?あなたに会わせたい人がいるから。」




