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ブレックファースト

「よっ。あんた、元気になったのね。もうダメかと思ったわ。」


目の前の紫の魔法少女が、なぜか得意げな表情を浮かべている。


「スターリーアイズを倒したって聞いたよ?よくやったな、あのうぬぼれた奴を懲らしめてくれて、さすがあたしの戦友。」


そう言いながら、リコシェは私の食器にサンドイッチを一つ置いた。それは少し形が歪んだサンドイッチだった。


私はこっそりと雪野の表情をうかがった。少女の顔には何を考えているのか分からない笑みが浮かんでいた。少し気になったが、私はリコシェに話しかけた。


「スターリーアイズのことはひとまず置いておいて。それより、どうして君がここにいるんだ?」


「あんたと同じ、捕まったのよ。偉そうなババアにここで働くよう強いられてるの。保護観察だって。はあ、ムカつく。」


リコシェはため息をつきながら、雪野の視線を受け止めて、眉をひそめた。彼女はコートの内側を探り始めたが、すぐにやめた。


「ちっ、ライターもタバコもないと落ち着かないわ。」


「それは災難ね。君の強運がこのような時には役に立たないみたい。」


「好きに言って。あのババアがあんたにどうするか、楽しみにしてるわ。」


「私をババアと呼ぶなんて、ひどいね、リコシェちゃん。」


「げっ。」


少しかすれた女性の声が私たちの会話に割り込んだ。リコシェは敵を見るような顔で顔を歪めた。リコシェの視線の先に目をやると、声の主がいた。


長身で栗色の長い髪を持ち、眼鏡をかけた女性だった。黒いシャツと短いスカートに白いラボコートを合わせている。整った顔立ちで、知的な美人と言えるだろう。ただ、目の下のクマが気になるところかもしれない。女性は右手に黒いコーヒーを持ち、左脇には分厚いファイルを挟んでいた。


「あ。おはようございます。桜庭さくらば先生。」


「おはよう、雪ちゃん。...少し元気が戻ったみたいだね。それが何より。」


女性は雪野に微笑みを返し、次いで私の方を向いた。


「初めまして、サヨナキドリちゃん。私は補導ほどう課の桜庭リカ、あなたたちを輔導することになるわ。よろしくお願いしますね。」


「補導、か?」


「そうよ。魔法少女保護法により、未登録の魔法少女は三ヶ月、魔法省による人身保護と教育を受ける義務ぎむがある。まあ、普段は外で好き勝手している子には不自由かもしれませんが、我慢してくださいね。」


「はぁ...」


「立って話すのも何なので、座りましょう。ちょうど雪ちゃんもいるし、私から伝えたいことがあるので。」


「その前に、ババア、私のライターとタバコを返して。」


リコシェが桜庭をババアと呼ぶと、雪野は剣呑な表情を浮かべた。しかし本人の桜庭は気にせず手を振った。


「タバコをやめたらどう?子供にはふさわしくないものよ。」


「もう子供じゃないってつの!」


「そういう態度だから子供って言われるのよ。座って? 今朝はまだ何も食べてないでしょ?」


「…それもあんたのせいでしょ!」


「落ち着いて。」


リコシェを椅子に引きずり、手に持っていたサンドイッチを彼女の口に押し込んだ。リコシェは少しもがいたが、すぐにおとなしく噛み始めた。


「むっ。ずるい!私も!あーん。」


「嫌だね。」


雪野は不満げな子供っぽい顔をした。


一方でコーヒーを飲んでいた桜庭は軽く笑った。


「まさに青春ね。若い子たちを見るのはコーヒーよりも元気が出るわ。」


「…本題に入っていただけますか? 桜庭先生。」


「そうね。とりあえず、これを見てください。」


桜庭は一冊の本を取り出して私に渡した。


「これは?」


教材きょうざいよ。魔法少女になる際の注意点、怪人に関する解説、そして魔法少女の権利と義務、法律ほうりつについての説明。基本的に、この三ヶ月間でこれらを覚えて試験に合格すること。そうしないと保護期間は延長されることができる。」


櫻庭はゆっくりと本を何ページかめくりながら、説明を始めた。


通常つうじょうは、この国の魔法少女になる子たちはみんなこの教材を読んでいるわ。まあ、あなたのような野良の場合は別かもしれないけれど。」


「その試験は?」


「権利と義務、怪人に関する理解の試験。それに実技操作と実習のカリキュラムもあるわ。これを終えたら、魔法省で公式に魔法少女の資格を取得して登録されるの…あなたの顔、少し不満そうね。」


「もし、その資格が要らないし、魔法省に登録されたくないと言ったら?」


私はそう言ってから、心配そうの表情で私を見ている雪野を無視して、目の前の桜庭をじっと見つめた。


「魔法少女が所属を選ぶ自由は保障されている。でも、講習こうしゅうを受けることは強制されるわ。それでも私は、魔法省に所属することをお勧めする。安全面で保障があり、将来の選択肢も広がるから。」


「...なるほど。」


「桜庭先生は以前、魔法少女だったからね。魔法少女を辞めた後、魔法省の職員になったの。」


雪野が割り込んだ。


「昔のことよ。でも、その経験のおかげで、他の人よりも少しはあなたたちの状況を理解できると思う。」


桜庭は手を振った。


「ロリコンの妖精に選ばれて、光り輝く見た目とは裏腹に不規則な労働時間とハイリスク。それで適切な報酬や保障がなければ、可哀想すぎるわ。」


桜庭は再びコーヒーを一口飲んだ。カップを置いた後、彼女は両手を組んで私を真剣な表情で見つめた。


「大人に頼るのは悪いことじゃない。すべてを自分で背負う必要はないの。少し私たちに任せてみない?魔法省はまさにこのために存在しているの。」


櫻庭の視線を感じながら、私は肩をすくめた。


「前向きに検討する。」


「そう。」


桜庭は微笑みながら、空になったコーヒーカップを持ち上げた。


「自由に動けない間に、その本をよく読んで。あなたにとって損にはならないわ。何か話し合いたいことがあれば、いつでも私のところに来て。」


桜庭が去った後、雪野は感慨深い表情を見せた。


「桜庭先生は本当に優しいわね。彼女のような落ち着いた女性になりたいと思わない? サヨさん?」


「ふん。バカ犬、あんたは騙されているんだよ。あれはただの作り物に過ぎない。」


「は?」


雪野とリコシェは口論を始めた。私は手に持っている教材に視線を移した。本の装丁は簡素だが、かなりの厚みがあった。内容の難易度によっては、習得に時間がかかるかもしれない。


「損にはならない、か。」


二人の言い争いの声を無視して、私は本を開いた。

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