早起き
私はこの世界の夜明けが好きだ。
店の掃除を早朝に行う私は、ほうきを手に持ちながら缶コーヒーを開けた。冷たくてホロ苦いコーヒーが眠気を覚ます感覚を楽しみながら、私は遠くの地平線を見つめていた。
元々の夜が星々を失い、辺りはまるで殻を破るように徐々《じょじょ》に白く明るくなる。一筋一筋の光が雲を通り抜け、徐々に都市のビル群に当たる。ガラスに反射された光は、まるで宝石のように輝いていた。
この光景を見ることができるのは、早起きする私だけの特権だ。
怪人の追跡や討伐が終わった後、もしまだ力が残っていれば、こんな風に立ち尽くして、昨日から今朝にかけての戦いを振り返るのが好きだ。そうすることで、自分の努力がこの世界を変え、明るさをもたらしていると感じることができる。
やるべきことが山積みで、不安なことも多いけれど、それでも何となく心は落ち着いている気がする。
都市全体に公平に注がれる朝の光を見て、心の中の雑念が少しずつ沈んでいく。
早起きはいいことだ。私の場合、早起きというより夜更かしに近いが、とにかくこの夜明けを見られるのはそれだけの価値がある。この世界がまだぼんやりと目覚めていない、まるで時間がすべて私一人のものであるかのようだ。
都市の人々の声が徐々に増えてくるのを感じながら、私は手元の空の缶を近くのゴミ箱に投げ入れた。金属缶がぶつかる澄んだ音と同時に、自分の背後に近づく足音に気づいた。
Qである。
彼女はゆっくりと私のもとに歩み寄り、私の隣で昇る朝日を一緒に眺めた。
「どうしたの、サヨ。またぼーっとして。朝ごはんできたよ...あれ、また空腹でコーヒー飲んでる?胃に悪いって言ったでしょ。」
頬を膨らませて顔をそむけ、Qは腕を組んだ。
「まあ。サヨの体調なんて、私は気にしないわ。ふん。」
子供っぽい表情を見せる彼女に、私は苦笑いを浮かべるしかなかった。
リコシェとの事件を経て、Qはずっとこのような態度だった。慰めようと試みたが、彼女にはまだ不満が残っているようだ。
「ああ、ごめん。次から気をつける。」
「あなたっていつもそう言って、結局また同じことを繰り返すのね。ふん。とにかく、冷める前に一緒に朝食を食べましょう。」
その言葉に従ってほうきを置き、Qの後をついて店の後ろの生活スペースへ行った。シンプルだけれども温かい朝食が用意されていた。さっきまでの不機嫌な表情とは一変して、トーストにジャムを塗るQの楽しそうな姿を見て、私は思わず、リコシェが私に言った言葉を思い出した。
あいつもこんな日常を持っていたのだろうか。平凡で小さな、でも砂金のように貴重な日常。今、あいつはどこにいて、何をしているのだろうか、少し気になる。
Qは私の視線に気づいて、トーストをかじるのをやめて首を傾げた。
「どうしたの?今度は私を見てボーッとしてるの?ここ数日、サヨはずっと上の空で、私を見ているようで、何か別のことを考えているみたい。まさか…」
Qは目を細めた。
「また他の女の子のことを考えてるの?」
パンくずが喉に詰まり、私は数回咳き込んだ。しかし、Qは容赦なく私に言葉の攻撃を続けた。
「不潔!変態!おっさん!」
「最後の一言は余計だろう。深刻な人身攻撃を感じ取った。」
「事実だから。」
「事実だとしても、おっさんを罵倒の言葉として使うのは、やっぱりちょっと傷つくな…」
「そんなことはどうでもいいわよ。こんなに可愛くて、献身的で美しい共犯者がいるのに、他の女のことばかり考えて!」
Qは泣いてふりをした。そんな彼女を見て、苦笑いせずにはいられなかった。彼女をなだめようとした矢先、店のドアベルが鳴り、休憩中のサインを掛け忘れたことを思い出した。
「お客さんが来た。とにかく、後で話そう。」
「むっ。また逃げられた!」
数口でトーストを口に押し込み、手を拭いてカウンターに向かった。
「いらっしゃいませ。」
店の入り口に現れたのは、なじみの顔。スラリとした体、猫のような目、高く結ばれた長いポニーテール。雪野だった。
少女が私を見て、目を大きく見開いて驚いた。その驚きはすぐに喜びに変わり、彼女は元気に私の前まで駆け寄ってきた。その姿を見て、尾を振る大型犬を思い浮かべずにはいられなかった。
「おはようございます、サヨさん。無事で何よりです。最近見かけないし、メッセージも返ってこないから心配しました。」
「おはようございます。雪野さん。」
「この間どこに行ってたの?連絡もなく、京香さんにも連絡取れなかったから、もしかするとこの街を離れたのではないかと。」
「京香…?ああ。」
私はこの街でのQの偽名を思い出し、リビングエリアに目を向けた。テーブルにうつ伏せになっているQが、私に向かって舌を出し、おどけた顔をした。
「いけませんよ。どこに行ったのか京香さんにも報告しないなんて!みんな心配してますよ!」
雪野に対し言い訳を考えようとしたが、口に出す前に雪野の表情は一層険しくなった。
「もしかして、星ちゃんがあなたに何かトラブルを起こしたわけじゃないでしょうね。」
「っ。」
「やっぱりか。」
雪野は深くため息をついた。
「…さあ。その星ちゃんって、もしかして君の後輩の星眼のこと?」
「もうごまかさないで。はぁ。ごめんね、星ちゃんの行方がわかったら、ちゃんと說教します。」
「君の話し方、スターリーアイズの居場所がわかってないみたいだけど。」
「ええ。」
雪野は憂いを帯びた表情を見せた。
「星ちゃん、連絡がとれなくなった。」




