火事
「キリス!どうした!立って!」
男装の麗人が倒れるのを見て、片腕の男が大声でその名を叫んだ。しかし、キリスと呼ばれる女性の怪人は、地面に横たわったまま動かない。
リコシェはゆっくりと弾倉に弾丸を装填しながら、私に向かってにっこりと笑った。
「ナイスアシスト。」
「…次はあの命をかけた技を使うのはやめて。見ているこっちが胃が痛くなる。」
「それは保証できないな、あれはあたしの切り札だから。とにかく。」
リコシェは大口径のリボルバーを片腕の怪人に向けた。
「これで形勢逆転だね。」
片腕の怪人は最初にリコシェの銃口に目を向け、次に地面に倒れている男装の麗人、そして最後に私に視線を定めた。その目には濃厚な憎悪が感じられた。
「あんた、本当に怪人に嫌われてるな。」
怪人から発せられる雰囲気を感じ取ったのか、リコシェは軽く笑い出した。私は一方の手でパイルバンカーを持ち、もう一方の手で再び拳銃を構えた。
「油断するな、まだあのスーツの怪人にとどめを加えていない。」
前回の攻撃の余波が何かを点火したようで、破壊されたカジノ内で木が燃えるパチパチという音が響き始めた。足元で流れる水の音を聞き、焦げるにおいが強くなるのを感じながら、私は視野を広げ、地面に横たわる怪人と目の前の片腕の怪人の両方に注意を払った。
先に動いたのは、目の前の片腕の大男だった。
戦斧を盾のように前に構え、大男は牛のような勢いで突進してきて、私が男装の麗人に向けて撃った射撃を遮った。弾丸は戦斧に当たり、大量の火花を散らした。
リコシェはこの機会を逃さなかった。大口径のリボルバーが発射する音とともに、片腕の怪人は頭をかわす動作をした。元々被っていた帽子が弾丸によって大きく削られ、落下した。
「っ!」
帽子が落ちた後、現れたのは包帯で覆われた顔で、その顔の両側から牛のような角が伸びていた。
私とリコシェは再び発砲した。今回、片腕の怪人は体を使って弾丸を受け止めた。まるで痛みを恐れないかのように弾丸を耐え、彼は斧を高く持ち上げた。
「させん。今回は、もう失わない。」
相手が振り下ろした重い一撃に対して、私とリコシェはそれぞれ両側に避けた。戦斧は私たちがいた場所を直撃し、古い木製の床板を割ってしまった。
そして、怪人たちの足元に巨大な扉が現れた。開かれた扉の中の暗闇が、ゆっくりと二人の怪人を呑み込んでいった。
「あの扉...っ!リコシェ!彼らが逃げるぞ!」
「わかってる!この!っ!」
リコシェは焦りながら連射を続けたが、片腕の怪人は自分の体を仲間の上に覆い、すべての攻撃を受け止めた。弾丸が彼の体に穴を開け、黒い液体と粉塵が飛び散った。しかし、片腕の怪人は少しも怯えず、巨大な体と戦斧で仲間を守り続けた。
私がパイルバンカーを構えて前進しようとしたその時、突然現れた別の扉が行く手を阻んだ。扉の隙間からは色々な形の怪物のような手が伸び、私の服を引っ張りながら前進を阻止した。
「くそっ!一体何だ!」
リコシェも突然扉から現れた下級の怪人たちに忙殺されていた。彼女は怒鳴りながら、再び弾を装填し始めた。
「っ!」
手中のパイルバンカーを放り投げ、ナイフを取り出して私を掴んでいた手を切断した。しかし、扉からはさらに多くの手が伸びて、無秩序に私に向かってきた。
伸びてくる手の隙間から、私は片腕の怪人に向かって叫んだ。
「その扉、貴様とG.ラポスと何か関係があるのか!」
「すぐに分かる、サヨナキドリ。俺が、お前を倒す。」
片腕の怪人が私をにらみつけた後、男装の怪人を連れて扉の中へと完全に沈んでいった。同時に、わずかに開いていた扉は、扉の後ろの圧力に耐え切れずに大きく開かれた。
潮のように下級の怪人たちが、尖ったような奇声を上げながら私を飲み込み、地面に押し倒した。
「くっ!しつこい奴らだ!」
テレビのような頭を持つ怪人の拳を避けながら、ナイフを相手の胸に突き刺し、横に転がりながら立ち上がった。
「ストレージ!格納庫七番!」
勢いを増す火の中で、小型ガトリング砲の掃射が次々と現れる怪人を抑え込んだ。怪人たちは何かから逃れるように、扉の後ろから転がり出てきた。すでに何らかのダメージを受けていたらしく、ガトリング砲の射撃で簡単に黒い粉に変わった。
「戦いに夢中になるな!ここはもう崩れるぞ!」
私は片腕の怪人が言ったことを頭から振り払うようにして、リコシェの手を掴み、振り返ることなく火事現場から走り出した。




