密会
馴染みの夜。
私服に身を包み、つばの低いキャップとマスクをつけて、私は指定された場所に到着した。
静寂に包まれた廃墟に降り立ち、深く息を吸う。秋を迎えて微冷たい空気が私の肺を満たす。
肌を撫でる冷たさを感じながら、私は廃墟の中を彷徨い始める。
明るい月光が廃墟を照らす。交錯する残骸が生み出す影の中を歩くと、寂寥感の美しさが感じられる。
ここを訪れてからまだ一ヶ月も経っていないのに、何故か懐かしい感覚がある。
「サヨ、本当にこの場所で、あの魔法少女と会うの?」
Qが尋ねる。声には不安が滲んでいる。少し考えた後で、私は答える。
「相手のターゲットが私だからこそ、この機会に相手のことをもっと知るべきだ。虎穴に入らずんば虎子を得ず。」
「でも...」
「君の懸念は理解できる。だからこそ私は事前にここへ偵察に来たんだ。少なくとも、罠である可能性を減らしたいと思って。」
周囲をチェックしながら、詳細を記憶していく。私の頭には紫の魔法少女の顔が浮かんでいた。
乱射。
彼女も私と同じく、魔法省には名を連ねていない。スノーランスも彼女について詳しくは知らない、ただ、彼女も私と同じく指名手配中の魔法少女だということだけは知っている。それ以外には、インターネット上の断片的な情報しか得られない。
傭兵の魔法少女。
何でも屋。
私と同じように、彼女の妖精も動画をネットにアップロードするタイプではない。しかし、それは当然だ。裏社会で生きる魔法少女が足跡を残すわけにはいかない。ただ、私が驚いたのは、彼女の妖精がそのような違法な取引を許可していることだ。
「ねえ、Q。噂が本当だとしたら、リコシェは犯罪に手を染めている可能性があるんだ。それ、君たちが許す範囲内なのか?」
「一般的な妖精なら、そんな行動許さないだろうね。普通、妖精は契約者を選ぶ時、魔力の親和性だけじゃなく、澄んだ心や強い信念も大切にするんだ。それらが失われたら、契約者は不適格になり、契約が切れてもおかしくない。」
「心と信念か。つまり、リコシェが犯罪行為に関与している可能性があっても、それを持ち続けているってことか?」
「それは必ずしもそうとは限らない。私が言ったのは一般論で、具体的なことは契約した妖精次第だから。」
「ふうん?そう言うなら私も気になるけど、最初に私を選んだ理由はその澄んだ心とか?アラサーにそんなものはもう遠い記憶だと思うけれど。」
「まあ、それは確かだな。サヨの心は少し汚れている。元々はおじさんだったから、普通の女の子とは違って、もう純粋じゃないから。」
「おい。」
「でも、信念について言えば、それは強いと思う。他の人とは違うかもしれないけど、サヨはこの世界を自分なりの方法で守り続けている。だから、サヨは強い心を持っていて、素晴らしい魔法少女だと思うよ。」
「強い心か。それについては自信がないな。」
思わず手のひらを見下ろしてしまった。ここで以前、怪人を倒した時の感触がまだ手に残っているようだ。
「ここに来ると、あいつを思い出さずにはいられない。まあ、怪人のことはともかく、今はリコシェのことに集中しないとね。」
「そうね。リコシェに関しては、軽々しく衝突するのは避けた方がいい。あなたの最終手段の装甲は、まだ改造と修復が進行中。相手の能力も不明。手札と情報が不足している状況では、危険すぎる。」
「わかっている。」
その時、背筋を這う熟知した電流感。直感に従って、私は慌てて振り返った。
視界に飛び込んできたのは、自分に向けられたリボルバー。
「っ!」
私は慌てて避ける行動を取り、自分の体を隠す。
「……どういうつもり?」
「あははは。ごっめんごっめん。」
紫色の魔法少女は、楽しそうな笑顔を見せる。
「ただちょっと試してみただけだよ。でもあんたの直感と反応は本当にいいね、正しい人物を選んだようだ。」
「ここで戦いを始めたいということか?」
「ただの冗談だよ、本気にしないで。これから託すことになる人の能力を知っておく必要があるからね。」
リコシェはリボルバーを操作し、薬莢を排出する。薬莢が地に落ちる清らかな音が遺跡に響き渡る。
彼女は両手を挙げて、敵意がないことを示すポーズをとった。あの様子を見て、私は警戒を保ちながら廃墟の壁の後ろから出てきた。
相手が銃をしまったのを確認してから、私は彼女に質問した。
「聞きたいことがある。」
「なーに?」
「どうして私を選んだ?私たち、初めて病院で会っただけ。まったく面識もないのに。どうして私を仲間に引き入れようと思ったの?私が通報しないとでも?」
「うーん、どう言ったらいいか、直感かな。そして、気まぐれ。」
「はぁ?」
「あんたを初めて見たとき、あたしの任務に関わる重要な人物だと感じたんだ。」
「...無謀すぎる。」
「そうかもしれないね。でも、あたしの直感と運はいつもいいから、あまり間違えないんだ。まあ、こんなこと言っても始まらないし、情報共有を始めようか。」
リコシェが一束のファイルを取り出したが、途中で止まった。
「...どうやら邪魔が入ってきたようだね。」
まるで影から這い出るように、いくつかの細長く歪んだ黒い怪物が私たちの周囲に現れた。低いうめき声を上げながら、私たちに近づいてきた。
「怪人か。おそらくCからDランクの間くらいだろう。」
怪人たちに囲まれながら、私も腰から予備の拳銃とナイフを抜き取った。
「よく来た。お互いのために何ができるかを考えるいい機会だね。」
「ああ。」
リコシェはのんびりと弾を装填し、弾倉を回転させる。カチッと音を立てて、銃を再度セットする。
敵に銃を向けると、彼女の口角がわずかに上がった。
「お金はもらえないけど、これをウォーミングアップとして、ちょっとした慈善活動にしてみよう。」




