新しい朝
朝の太陽が眩しいくらい照りつける中、私は病院の前にある小さな庭園のベンチに座って、前の小さな集団を眺めていた。
その集団の中心には、車椅子に座った少女がいる。彼女は人懐っこく、魅力的な笑顔を浮かべていた。家族と思しき人たちから花束を受け取り、少し恥ずかしそうに笑っている。
友達らしい少女たちが、喜びでいっぱいの顔で、車椅子の少女に抱きついてる。
私は缶コーヒーを手に取りながら、その風景をぼんやりと眺めていた。
「素晴らしい風景ですね。」
「雪野さん。」
「ユキ、あるいはアリスと呼んで。遠慮しなくでいいよ。」
声をかけられ、振り向くと、高く結んだポニーテールの女の子が微笑みながら近づいてきて、私の隣に座った。
「来てくれてうれしい。」
「別に。ただ雪野さんがうるさかったから来ただけだ。」
「ふふ、ごめんね。でも、どうしてもサヨさんに新芽の風の現状を見せたかったの。ありがとう。彼女は元気になって、家族や仲間と再会できたよ。」
「私が特別なことは何もしてない。あの魔法少女を救出したのは、君とブレイズエッジだろ?」
「そう言うけど、G.ラポスを倒したのはサヨナキドリだ。おかげで彼女は元気を取り戻せた。」
「……」
「彼女は精神的に不安定で、また怪人に襲われるのではないかと恐れていた。でも、G.ラポスをあなたが倒したことで、彼女は自分自身を見つめ直すことができた。まだ完全回復には程遠いけど、もうすぐ魔法少女の仕事に戻れるかもしれない。」
雪野は真面目に私を見て、頭を下げた。
「本当にありがとう。」
「……感謝されるようなことをした覚えはない。感謝されても困る。」
「ふふ、素直じゃないね。まあ、そういうことにしておこう。」
私と雪野は一緒に、病院前で楽しく話す女の子たちを見つめた。朝の風が鳥のさえずりと共に吹き抜けていき、平和な風景が広がっていた。
「ねえ。」
雪野が口を開いた。
「何か悩みがあったら、私に話していいよ。」
「別に悩みなんてない。」
「嘘つき。顔に書いてあるわよ。」
雪野は私の手を握った。
「あなたは強大な怪人を倒し、たくさんの人々を救ったのに、笑顔を見せられない。何か悩みがあるはずだよ。」
「……手を離してもらえる?これはセクハラだから。ノータッチ。変態。不愉快。」
「えっ!そんなこと言わないで。女の子同士だし、少しは親しくなってもいいじゃない?」
私は雪野の手を振りほどこうとしたが、雪野は私の手をつかもうとした。二人の手が空中で舞い上がった。
「チッ!朝からこんなに汗をかかせるなんて!」
「へへ、私の勝ち!」
私は抵抗しようとしたけど、結局は雪野に負けた。
私は抵抗をやめた。雪野は私の手をしっかりとつかんだままで、二人の手は互いに絡まり合う形になった。
少女の手はとても暖かかった。ドキドキと。雪野の手のひらから、微かに心臓の鼓動が感じられた。
「ねえ。」
雪野が私に顔を近づけた。淡い、蜂蜜のような香りが漂ってきた。
「何か悩みがあったら、お姉ちゃんに話してみて?」
「大人ぶってんな、ガキ。私の方が一回り年上だからな。」
「何、それ?」
雪野はクスクスと笑い出した。二人の間に再び沈黙が訪れた。
「先輩!」
遠くの車椅子に座った少女が、大きく手を振って呼んでいた。
「ごめんね。ちょっと行ってくる。」
雪野は私の手をしっかり握った後、小走りで人々の方に向かった。
騒がしい少女たちを眺めながら、私はコーヒーを一口飲んだ。
去ろうかと思っていると、パンとベンチの反対側に誰かが座った。
それはもう一人の少女だった。
少女はパンクスタイルの服装をしており、紫色のハイライトが入ったショートヘア。耳にはピアスなどの装飾がつけられていた。彼女はベンチにもたれ、足を投げ出し、タバコの箱を取り出した。一本を軽く叩き出し、タバコの箱を私に差し出した。
「一服どうだ?」
「……ありがとう。でも、断らせてもらう。」
「禁煙中?」
「いや。最初から吸ってない。」
「ふーん、間違えたかな。あんたの目が欲しがっているように見えたから。まあ、いいか。」
「……病院の近くでタバコを吸うのは、あまり良くないと思う。」
「そんな堅くならないでよ。ちょっと話をしに来ただけさ。すぐに終わる。」
少女は指を鳴らしてタバコに火をつけた。慣れ親しんだ、でもこの身体になってからは接触しなかった匂いが、私の鼻をくすぐった。
「なかなか和やかな光景だよね。」
パンクスタイルの少女は、煙を吹き出しながら言った。彼女は微かに目を細めた。
「退院した少女、再会した家族、そして喜んでいる友人たち。まるで美しい絵画のようだ。」
「......。」
「でも、私にとっては、その絵画は甘ったるすぎて吐きそうだ。そんな光景、あたしたちのような暗闇で生きている者には眩しすぎる。」
少女の紫の瞳が私をじっと見つめていた。
「そう思わないか?」




