ハンティングスタート 裏
深夜。
汚れた小道を一人の影が進んでいく。
重厚感ある足音が無人の小道に響き渡る。
それは背の高い男性。一見すると約二メートル以上もあるのではないかと思わせる。大男の逞しい体には古びたトレンチコートがまとわれ、頭には大きいなハット、手にはブリーフケースを提げていた。影の中に身を隠し、表情や顔つきを確認することは難しい。
男の左袖はぶらんと揺れている。そこから大男が左腕を失っていることを推測するのは難しくない。
大男は小道の中にある一つの扉を押し開けた。
目の前に広がるのは、汚れた空間、どうやらカジノのようだ。
照明は暗く、空気中にはタバコの匂いとゲロの酸っぱい臭いが入り混じっている。スロットマシンの音とベットの声が狭い空間でこだまする。
バーカウンターで荒々しくグラスを拭いているバーテンダーが大男を一瞥した。大男はそれを無視し、地面に倒れているビール瓶を足で蹴り飛ばしながらカジノの奥深くに進んでいく。
彼はすぐに目的の人物を見つけた。
それは一人の少女だ。
粗野なギャンブラーたちと比べて、少女の顔立ちはポーカーテーブルにおいて浮いて見える。
少女は下半分を紫色に染めたショートヘアをしており、右半分の髪の毛は耳にかけて、ピアスとイヤリングをつけた耳を見せていた。体を覆っているのはパンク風のドレスで、上着として黒のレザーコートを羽織っている。
爪は黒くを塗った手でトランプを握り、口にはたばこをくわえている少女が、集中してポーカーテーブルを見つめていた。
「待って。」
彼女は後ろを向かずに言った。大男は言われた通り、じっと一旁に立つことにした。
少女がテーブルの縁を叩くと、一枚のカードが彼女の前に配られる。少女がそれを開いた途端、眉間にしわを寄せる。
「アホ。カンニングするならもっと上手くやりな。」
冷たい声で彼女は言い、手元のカードをテーブルに投げる。二枚のクラブの三だった。
椅子が倒れる。一人のギャンブラーが慌ててテーブルから逃げ出す。少女は追いかけることなく、ただ静かにコートの内側からリボルバーを取り出す。
バン! 逃げ出したギャンブラーが倒れる。壊れたマリオネットのように、彼は床に倒れ込む。
「ふっん。」
少女は手を振り、リボルバーを再びコートの内側のホルスターにしまう。
「今日はここまで。あたしには客がいるから。」
テーブルに座っていたギャンブラーたちは黙って立ち去り、バーテンダーは慣れた手つきでカウンターの下からモップとバケツを取り出す。
少女は大男に座るように手を振り、新たなタバコを火をつける。
大男は無言で少女の正面に座る。
「お前が、乱射か?」
「その通り。なに?」
少女の問いに、大男は頷き、ブリーフケースをテーブルに置いた。
「金。持ってる。」
大男の声はかすれていて、少し言葉を噛む。まるで話すことに慣れていないようだ。
「依頼したい。」
少女はブリーフケースを開けて中を見て、うなずいた。
「対象は?」
「魔法少女、サヨナキドリ。」
大男が目標を伝えると、少女は動きを止めた。口角に冷たい笑みが浮かぶ。
「ふっ、これは面白くなってきた。本気?」
「ああ。」
「興味本位で聞いてみるけど、理由は何?」
「復讐だ。」
「ほう?そうなのか。面白いね。」
少女はわずかに体を前に傾け、鋭い紫色の眼差しで大男を見つめる。
「ついでに聞くけど、あんた、怪人なの?」
「......」
「サヨナキドリも魔法少女だし、普段彼女が殺すとすれば怪人か何かだろう。そしてあんたが魔法少女への復讐を語っているということは、怪人のための復讐ということになる。怪人のために復讐を誓う人間は、頭がおかしいか、それとも自身が怪人だろう。」
「……」
「黙るのか。まあ、それでもいい。あたしにとってはお金はお金で、誰のお金かなんて関係ないからね。」
少女はブリーフケースを閉じた。
「目標が魔法少女で、しかもそれがA級だとなると、この程度では足りない。これを手付金として、仕事が終わったらこれの二倍を支払うこと。」
「ああ、わかった。」
「よし、取引成立ね。」
少女の顔には獰猛な笑みが浮かんでいた。彼女は手を伸ばす。大男も手を伸ばし、二人はテーブル越しに握手を交わした。
「それでは、狩りに行こうか。」




