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廃墟テニス部(4)

本日はもう一回更新します(夕方予定)

 シンディに飾られたいだけ飾られたあたしは、1コマめの講義が始まるという鐘の音を聞きながら生徒会室に直行した。生徒会室には警察部の完全装備で決めたジジが待っていた。朝から生徒会室は慌ただしげに書類が飛び交っているが、ジジの周辺2mには誰も近寄ろうとしない。ファエバ! こう、もうちょっとだな、民間人に対して、フレンドリーな雰囲気をだな……

 まあ、いい。人間には向き不向きがあるように、あたしらにも向き不向きはあって、ジジは「人当たりの良い対応」が決定的に下手だ。あたしたちは互いに軽く頷きあうと、並んで外に出る。後手で扉を閉めると、生徒会室の中で複数人の学生が重たいため息をついたのが聞こえた。


 あたしら3人はのんびりと廊下を歩き、いったん校舎の外に出ると、物理や化学の実験実習をする専用の棟へと向かった。原則的に人間はこの手の学問を学ばないので、実験棟では奇特な教師が数人、自分の研究をしているだけだ。空調がよく効いた棟内は、どこまで行っても静かだった。

 「物理準備室」と書かれた部屋の扉を掌紋認証と虹彩認証で解錠し、中に入る。入ってすぐの空間は高いパーテーションで区切られていて、ちょっとしたソファやローテーブルが並んでいるが、これはいわばカモフラージュだ。パーテーションに設置されたドアを開けると、その先にはメタルラックやモニタがならぶ作戦指揮室になっている。つまりここが、あたしら第9中隊の本部ってわけだ。


 シンディが指揮卓にログインして認証やらなんやらを通している横で、あたしとジジは着ているものを全部脱いで(シンディによるデコレーションもこの時点で終了だ)、ルデリットが用意した最新鋭の装備を装着していった。一切の金属部品を廃した装備を身につけると、心の底から安心感が湧き上がってくる。

 ジジも露骨にほっとした顔をしていて、いやほんとこればっかりはマジであたしらの本能の一部に近いんだなと改めて実感する。ファエバ! 今回の敵として想定される狼憑きは金属を感知する能力に長けているわけじゃないから、意味なんてないんだが。


「ルデリット会長お墨付きなだけはありますね。以前使っていた装備の半分くらいの重さですが、強度は1.2倍弱あります。これなら狼憑きの速度にも十分に対応できるかと」

「持つべきものは金持ちの友人、ってな。盾は2枚でいいのか? 1枚くらいなら、あたしが背負えるぞ。携帯食料もえらく軽いし、シュラフの類も羽みてえな軽さだ。水筒がやったら重く感じちまうな、これ」


 今回の作戦は、ルデリットに告げた通り、最長で一週間を予定している。旧校舎の上水道は場所によってちゃんと生きているそうなので大量の水を運ぶ必要はない(旧校舎を活動場所とする連中のために、生徒会が一部の上水道を復旧させたらしい。ファエバ!)が、食料を筆頭にした野営の道具は必要になる。だがその手の資材を詰め込んだバックパックはビビるくらい軽く、ひ弱なあたしですら積載量にたっぷりと余裕が出た。


「キャパに余裕があるのでしたら、この雑嚢をもう1つ持ってもらえますか?

 せっかくルデリット会長が用意してくれた秘密兵器です。持ち込み数が多くても損することはないかと」


 あたしはジジが指差した黒い雑嚢を手に取る。ずっしりと重いが、重量バランスを整えて体に密着させてしまえば、そこまでの負荷にはならないだろう。ファエバ! カツシローかハカセがいたら、連中に運ばせるってのに!

 ジジに手伝ってもらって雑嚢を固定した段階で、準備は完了した。シンディも指揮卓を起動し終えたようで、モニタの一枚にはあたしら2人の現在位置が赤く表示されている。モニタの情報を完全に信用すると、あたしらはこの部屋から20mほど離れたところにあるトイレに籠もっていることになるが、この程度の誤差はやむを得ない。


「おし、じゃあ行ってくる。シンディ、バックアップは任せたぞ」

「シンディ、よろしくお願いしますね。長丁場になりますから、食事や睡眠のリズムを崩さないよう、気をつけて。18時にはルデリット会長が交代で指揮管制に入ると聞いていますが、忙しい人ですから1~2時間の遅刻はありえます」


 シンディは指揮卓から立ち上がると、「行ってらっしゃいませ!」と言って、敬礼した。あたしらも反射的に敬礼で返す。ファロファロ! 結局あたしらは、フォージ城塞学園なんていう不可思議極まりなくも(デラックスな)超キラキラしたところ(ファンタジー世界)に来てもなお、戦争の道具で全身を固めて敬礼するような生き方がお似合いってことだ。

 物理準備室には床下収納がある……と見せかけて、その狭い入り口は地下室へと続いている。地下室は長い地下道につながっていて、他の生徒の目に触れることなく、完全武装で校外に出られるという構造だ。昨日ルデリットに説明を受けたときは学校にこんな地下道が必要か? と思ったが、そういえば旧校舎は強化決戦兵士のプロトタイプを作っていた研究施設で、新校舎もその流れを組んでいると思えばさほど不思議ではない。


「研究施設って、必ず地下にこの手の横穴がありますよね」

「おおっぴらに捨てられないものを捨てる場所が必要だからな。

 放射性廃棄物が詰まったドラム缶が並んだ穴を抱えた研究所、結構あるって聞くぜ?」


 適当な無駄話をしながら地下道を10分ほど歩くと、大げさなロックのかかった扉にでくわした。ジジは重たそうなハンドルを軽々と回し、ロックを解除してから、ちらりとあたしを見る。


「周囲100m以内に人間の反応はない。行こうぜ」


 ジジは軽く頷くと、大きな鉄の扉を押し開けた。扉の先は雑草が生い茂る下りの急斜面で、斜面の上のほうをちらりと見ると、疎林が広がっていた。若さを持て余した連中がサカるにしたって、こんな場所は絶対に選ばねえなって感じの場所だ。ファエバ! まったく、準備がよすぎねえか?


 なにはともあれ地下道から外にでたあたしらは、斜面を駆け下りた。軽い急ぎ足で1分も進まないうちに、あまり整備状態のよろしくない、狭い道路に行き当たる。

 ルデリットいわくこの道は何に使われていたのかハッキリしない旧道で、旧校舎までほぼ一本道でつながってはいるものの、途中の橋が落ちたまま放置されているらしい。旧校舎を活動の場としている生徒たちは旧校舎まで自動車を使って移動するため、この旧道を進むあたしらが学園の生徒と出くわす心配はないそうだ。

 いやはや。生徒が、自動車、ねえ。基地じゃあ自動車も使われていた(ジジとハカセは運転もできる)が、戦場で機動力が必要となる場合は安価な戦馬(スレイプニル)を使うのが普通だった。でも騎兵連中は自分たちのことを超エリートだと信じ込んでいて、あたしら空挺のことを公然と「カラス野郎」と呼んで軽蔑していた。そのせいで何度連中と殴り合いになって、何度あたしだけ一方的に営倉送りにされたことか。ファロファロ!


 そこから先は、しばらくは単調な行軍が続いた。旧校舎までは直線距離で48km。旧道を走れば56km。ガチで一直線に走ってもいいんだが、そんな移動をしてるところを一般生徒に見られると面倒くさいことになりかねない。それに、そこまで大急ぎで移動しなきゃならんような任務でもない。

 結局、半ばピクニック気分で行進したあたしとジジが旧校舎に到着したのは、午後3時過ぎだった。バカみたいに天気がよく、空はどこまでも青かった。さんさんと日光が降り注ぐ下で、旧校舎という名前の巨大な灰色の廃墟が、視界の先の先までずっと広がっていた。


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