第62話 スザンヌを捕まえなければよかった
突然のアンジェリーナの悲しい知らせ。
ディート城は、誰もが悲しみに包まれていた。
城に暮らす者たちはみな、ジュネ2世を責めるような目で見ている。
捕虜のスザンヌをグランド国軍に売るつもりなのは、公然の事実だった。
〈自分が生きる道はそれしかない〉
それがジュネ2世の心の声だ。
もしスザンヌを売らなければジュネ2世はグランド国軍から敵とみなされるだろう。
阿闍梨公にも見放されるに違いない。
しかしディート城のみんなから白い目を向けられ続けるのは辛かった。
〈今後、みんなはこんな俺に忠誠を誓ってくれるのだろうか?〉
おそらく信頼関係も危うくなるだろう。
グランド国からの身代金は入ってくる。
だがその後、決してよい方向には進みそうもない。
スザンヌを捕虜にした当初は大喜びだった。
しかし時間が経つにつて、それがどれほど大きな意味を持つかがわかった。
厳しい重圧が肩にのしかかる。
〈スザンヌを捕まえなければよかった〉
今となっては、それがジュネ2世の本音である。
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一方のアランシモンと阿闍梨公の会談。
阿闍梨公はアランシモンにこう言い放つ。
「あなたは貧乏騎士でしょう。私はお金のない人には用はありませんよ」
「金ならある!」
アランシモンが受けて立つように言い放つ。
「ほう」
阿闍梨公があごに手を当てて、言う。
「いかほど?」
「1万7千セーグルだ」
それはグランド国が提示した身代金の1.7倍だった。
阿闍梨公は大笑いした。
「あなたが用意できるわけはないでしょう」
「払うのは私じゃない」
アランシモンは3人の騎士たちの誓約書を見せた。
〈ルナール・デ・オーランド 7千セーグル〉
〈デシャン 5千セーグル〉
〈アンドレ 5千セーグル〉
阿闍梨公は真顔になって言う。
「そうですか。では、あとは私が、どちらと組むかだけですよね」
するとアランシモンは、椅子から降りて、阿闍梨公の前にひれ伏した。
頭を地面にこすりつけるような姿勢で、阿闍梨公に言う。
「私の残りの生涯をあんたに捧げる。だから今回だけはスザンヌを返してくれ」
阿闍梨公はアランシモンに近寄る。
「顔を上げてください」
と言って両肩を支え、再び椅子に座らせた。
阿闍梨公が言う。
「グランド国の身代金額をわざと流したのはなぜだと思いますか?」
「金額を吊り上げようとしたからでは?」
「それもあります」
少し間を置いて、阿闍梨公が続ける。
「セーヌ国の国力が見たかったからですよ。グランド国との長きに渡る戦争、いったいどちらがいつ頃勝ちそうなのか、それが私の判断材料です」
「で、どちらが?」
と詰め寄るアランシモン。
「今のところ引き分けです」
と阿闍梨公。
「……ですが、あなたが生涯を捧げてくれるそうですから、今回はセーヌ国の判定勝ちですな」
阿闍梨公はそう続けた。
アランシモンは阿闍梨公に抱きついた。
阿闍梨公も楽しそうな笑みを浮かべた。
明日は朝に投稿しますね♡




