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第60話 頼みの綱

 アランシモンが次に働きかけたのは王族のアンドレだった。

 もともとはパビリオンの領主だ。

 今は捕虜としてグランド国に幽閉されている。

 通信手段は使者や手紙だ。

 幽閉先からパビリオンの運営や一族の金策の指示を出している。

 豊かな富を蓄えるアンドレ。

 パビリオン解放の際には、セーヌ国軍に大きな感謝を表してくれた。

 スザンヌには(きら)びやかな盛装を贈った。

 デシャンには新たな領地とともに年金まで与えた。


 アランシモンは使者を使ってアンドレに手紙を送った。


****************************************

 

 スザンヌが捕虜になり、グランド国が身代金1万セーグルで身受けしようとしている。

 それを阻止するために、その半分の金額を用意してほしい。

 用意いただければ、今後はグランド国との交渉であなたの身柄を優先する。

 あなたの幽閉をいちはやく解くように要求する。


***************************************


 そしてアランシモンはもう一人の騎士の元に向かった。

 ルナール・ド・オーランドだった。

 若いころに広大な領地を相続した彼には豊富な資産があった。

 しかも軍人として勝利するたびに、戦地から多くの富を略奪。

 自らの領地に持ち帰っていた。

「憤怒の男」と呼ばれていた粗暴な騎士。

 しかし、なぜかスザンヌに対しては心酔していた。

 パビリオンでもパテ―でも、常にスザンヌの身を守った。

 そして忠実に戦い続けた。


 アランシモンが切り出す。


「スザンヌがシニョーラ公国の捕虜にされた件は知っているな」


 ルナールが答える。


「へい。で、エール国はいつ、解放に動くんですかい?」


「動きたくても、スコット国王には身代金を払う金がない。逆にグランド国が1万セーブルでスザンヌの身柄を奪おうとしている」


「見せしめにして、処刑するつもりですね」


「そうだ」


「アランシモンさん、今すぐ兵を出して、スザンヌを取り戻しまょうよ!」


「まあ待て。相手は阿闍梨(あじゃり)公だぞ。こちらも生きて帰れないかもしれない」


「でも、スザンヌは殺されちまいますよ」


「だからルナールには、7千セーグルの身代金を用意してほしいのだ。他の騎士にも声をかけているから金額では上回るはずだ」


 ルナールは腕組みをした。

 やはり簡単な額ではないのだ。

 しかし彼は言った。


「大切なスザンヌのためなら、一肌脱きましょう。少し大変だけど、ひとまず集めにかかりますよ」


「頼んだぞ!」


__________________________________________



 ディート城のスザンヌとアンジェリーナ。

 長きに渡る日々ですっかり打ち解けていた。

 アンジェリーナが言う。


「明日からしばらく留守にするね、スザンヌちゃん」


「ああ、そういえば、亡くなった弟のリュクサンさんの命日でしたね」


「ええ。お墓参りをしに行くの。スザンヌちゃんと仲良くなったことも報告してくるわ」


「弟さんによろしくお願いします」


「わかったわ。おやすみ。いってきます、スザンヌちゃん」


「おやすみなさい。いってらっしゃい。アンジェリーナさん」


 これが2人の最後の会話となった。


明日もお昼頃に投稿しますね♡

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