第60話 頼みの綱
アランシモンが次に働きかけたのは王族のアンドレだった。
もともとはパビリオンの領主だ。
今は捕虜としてグランド国に幽閉されている。
通信手段は使者や手紙だ。
幽閉先からパビリオンの運営や一族の金策の指示を出している。
豊かな富を蓄えるアンドレ。
パビリオン解放の際には、セーヌ国軍に大きな感謝を表してくれた。
スザンヌには煌びやかな盛装を贈った。
デシャンには新たな領地とともに年金まで与えた。
アランシモンは使者を使ってアンドレに手紙を送った。
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スザンヌが捕虜になり、グランド国が身代金1万セーグルで身受けしようとしている。
それを阻止するために、その半分の金額を用意してほしい。
用意いただければ、今後はグランド国との交渉であなたの身柄を優先する。
あなたの幽閉をいちはやく解くように要求する。
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そしてアランシモンはもう一人の騎士の元に向かった。
ルナール・ド・オーランドだった。
若いころに広大な領地を相続した彼には豊富な資産があった。
しかも軍人として勝利するたびに、戦地から多くの富を略奪。
自らの領地に持ち帰っていた。
「憤怒の男」と呼ばれていた粗暴な騎士。
しかし、なぜかスザンヌに対しては心酔していた。
パビリオンでもパテ―でも、常にスザンヌの身を守った。
そして忠実に戦い続けた。
アランシモンが切り出す。
「スザンヌがシニョーラ公国の捕虜にされた件は知っているな」
ルナールが答える。
「へい。で、エール国はいつ、解放に動くんですかい?」
「動きたくても、スコット国王には身代金を払う金がない。逆にグランド国が1万セーブルでスザンヌの身柄を奪おうとしている」
「見せしめにして、処刑するつもりですね」
「そうだ」
「アランシモンさん、今すぐ兵を出して、スザンヌを取り戻しまょうよ!」
「まあ待て。相手は阿闍梨公だぞ。こちらも生きて帰れないかもしれない」
「でも、スザンヌは殺されちまいますよ」
「だからルナールには、7千セーグルの身代金を用意してほしいのだ。他の騎士にも声をかけているから金額では上回るはずだ」
ルナールは腕組みをした。
やはり簡単な額ではないのだ。
しかし彼は言った。
「大切なスザンヌのためなら、一肌脱きましょう。少し大変だけど、ひとまず集めにかかりますよ」
「頼んだぞ!」
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ディート城のスザンヌとアンジェリーナ。
長きに渡る日々ですっかり打ち解けていた。
アンジェリーナが言う。
「明日からしばらく留守にするね、スザンヌちゃん」
「ああ、そういえば、亡くなった弟のリュクサンさんの命日でしたね」
「ええ。お墓参りをしに行くの。スザンヌちゃんと仲良くなったことも報告してくるわ」
「弟さんによろしくお願いします」
「わかったわ。おやすみ。いってきます、スザンヌちゃん」
「おやすみなさい。いってらっしゃい。アンジェリーナさん」
これが2人の最後の会話となった。
明日もお昼頃に投稿しますね♡




