第57話 争奪戦
スザンヌはアンジェリーナに身の上話を語り始めた。
アンジェリーナが驚いたのはスザンヌの信心深さだ。
決まった時間に祈りを捧げ、敬虔な生活を送る。
アンジェリーナはある日、スザンヌに聞いた。。
「あなたは若いのに、なぜそんなに神様へ誠実でいられるの?」
「幼いころ、神様がわたしに直接、語り掛けてきてくれたからです」
スザンヌは天の声の話を打ち明けた。
「天使様、聖女様。暖かくて幸せな気持ちに包まれました」
それを聞いてアンジェリーナが言う。
「ステキな体験をしたのね」
「ええ。そのときから私は神の導くまま生きているのです」
「スザンヌちゃん。私にはリュクサンという弟がいた。彼にも神の姿が見えていたの」
「私と同じですね」
「ええ。神に仕える道を選び15歳で高位聖職者になった」
「すごいですね」
「でも17歳で亡くなってしまった」
「そんな……」
「今でも彼のことを尊敬して愛しているわ」
「私もリュクサンさんのことを尊敬します」
「ありがとう。あなたがどうしても他人に思えない」
「私は、あなたの家族も同然ですよ」
2人は抱擁する。
「スザンヌちゃん、あなたは純潔を守り続けているのね」
「はい」
「このままその生き方を続けていくつもりなの?」
「できれば乙女のまま神に祝福されて生きていきたいです」
「スザンヌちゃん、私もそう思って生きてきた!」
アンジェリーナはスザンヌの魅力にどんどん引き寄せられていた。
アンジェリーナのもう一人のお気に入り。
それはディート城の城主・ジュネ2世だ。
彼女にとっては甥にあたる。
ジュネ2世にとってもアンジェリーナは頼りになる存在だった。
財力があるだけではなく、人望も厚い。
絶対に逆らってはいけない存在である。
領地の相続でもジュネ2世は優遇されていた。
アンジェリーナの相続人はもともとジュネ2世の兄・マニーレひとりだった。
だが彼女は独断で領地の相続権を2つに分けた。
そしてジュネ2世に片方を与えることにしたのである。
もしアンジェリーナの機嫌を損なえば、ジュネ2世は相続予定の領地を失う。
そんなある日、アンジェリーナはジュネ2世を呼び出した。
「スザンヌちゃんはとても立派な聖女よ」
そう前置きして、こう続ける。
「もしグランド軍にスザンヌちゃんを渡すようなことがあったら、あなたの相続権はマニーレに戻しますからね」
言葉を失ったジュネ2世。
交渉状況も、自分の思惑も、すっかりバレている。
アンジェリーナはジュネ2世を厳しい表情で睨みつけている。
ジャン2世の焦りも無理はなかった。
グランド国が激しい圧力をかけてきているからだ。
ラシン大学元学長のグレール。
グランド国総司令官のストリーニ。
この2人が上司の阿闍梨公にスザンヌの引き渡しを要求している。
その結果、阿闍梨公からジャン2世は、
〈スザンヌの身柄を1万セーグルでグランド国に引き渡せ〉
と命じられていた。
しかしジュネ2世にとっては死活問題だった。
グランド国にスザンヌを売れば一時の大金をもらえる。
しかし叔母アンジェリーナは激怒。
相続権は失われる。
このまま小さな領土でなんとかやっていくしかない。
かと言ってアンジェリーナの言う通りにしたらどうなる?
もしスザンヌの身柄がセーヌ国に戻ったら。
きっとジュネ2世は報復を受けるだろう。
阿闍梨公にも見捨てられるに違いない。
ジュネ2世は頭を抱えた。
今夜も20時ごろに投稿しますね♡




