第55話 魔女裁判、そして獄中生活
前世と同じく、スザンヌはシニョーラ公国に生け捕りにされた。
捕虜になった後、自分の身に何が起こったか。
前世の記憶を、ひとつひとつ思い出す。
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スザンヌは捕まった直後、何度も脱走を試みた。
そのため、手足の拘束はしばらく解かれなかった。
そのまま荷積み用の馬車に乗せられる。
行先はジュネ2世の本拠地であるディート城。
城では捕虜として軟禁された。
捕虜についての慣習。
それはどの国・軍隊でも共通していた。
捕虜を助けるのは、ほとんどが自国の軍隊である。
身代金と引き換えに解放してもらうのが恒例だ。
しかしスザンヌに最も高い身代金を準備したのは敵のグランド国だった。
その裏には、スザンヌに深い恨みを持つ2人の男がいた。
ひとりはグランド国の総司令官ストリー二だ。
スザンヌの登場以来、ほとんどの戦いで彼は負けている。
祖国からは屈辱的な批判を浴びている。
この恨みを晴らすチャンスを虎視眈々と狙っていた。
もうひとりはラシン大学の元学長グレールだ。
彼はパビリオンの住民だった。
だがスザンヌのパビリオン奪回で生活が急転。
グランド国のシンパである彼は大急ぎで逃げ出した。
安住の地を追い出された恨みは大きかった。
多額の身代金でスザンヌはグランド国に引き渡された。
そして魔女裁判にかけられる。
裁判長を務めたのが因縁の男・グレールだった。
裁判とは名ばかり。
誘導尋問で魔女に仕立て上げようとする。
機転を利かせた答えでこれを切り抜けるスザンヌ。
しかし身の潔白を証明しても無駄だった。
スザンヌに有利な証拠は何ひとつ採用されない。
結論はもう決まっていたのだ。
有罪が決まった後、宣誓書への署名を求められた。
当時のスザンヌは文字が読めなかった。
そのため内容が分からないままサインしてしまった。
そこには「男装は異端者の象徴だから決して行なわない」という誓いが記されていた。
これはスザンヌを再び裁判に落とし込む罠だった。
二度目の有罪を宣告された者は、ただちに処刑されてしまうのだ。
スザンヌは女性服に着替えさせられ、牢に入れられた。
女性服を着たスザンヌに、男たちの目つきが変わった。
見張りの看守は彼女の胸に手を伸ばしてきた。
そして乳房を揉もうとした。
しかしスザンヌはその手をすぐさま思い切り跳ね除けた。
決して弱さを見せない毅然とした態度だった。
驚いて青ざめた顔の看守。
彼は二度とスザンヌに触れてこようとはしなかった。
しかしその後もスザンヌは悩まされ続けた。
女性服を身につけている限り、周りの男の視線が寄ってくる。
看守に金を渡して深夜にスザンヌの牢に入り込んでくる貴族もいた。
寝ているスザンヌを後ろから抱きしめて無理矢理、貞操を奪おうとする。
しかしスザンヌは決して負けなかった。
のしかかろうとする男の体を思い切り蹴り付ける。
それでもすり寄ろうとする男。
その腕や頭を、徹底して強い力で跳ね除けた。
貴族は諦めて牢から出て行く。
その後、スザンヌは、さめざめと泣いていた。
〈ああ神様、こんなことになるのは私が悪かったからでしょうか?〉
スザンヌは看守に頼んで、男装を用意してもらった。
しかし、それは、グランド軍の思う壺だった。
男装を始めてしばらく過ぎた頃、グランド国の神官が3人でやってきた。
その1人が言った。
「君はなぜ、女性なのに男装をしているのか?」
「自分の身を守るためです」
「身を守るとは?」
「私の純潔を守るためです」
「しかし今、誰も君に危害を加えていないではないか」
「夜になると襲われるのです」
神官は返事もせず、聞いているかどうかもわからない。
その後、兵士がやって来て、スザンヌを拘束した。
「あなたには異端者の疑いがある。取り調べを行う」
こうして再び魔女裁判にかけられたスザンヌ。
男装を日常的に行なっていたことが複数の証人から証言される。
ここで持ち出されたのはスザンヌがサインした誓約書だ。
「男装は異端であり決してしない」と記されている。
裁判長のグレールは勝ち誇った表情だ。
これが決め手となって、スザンヌの2回目の有罪判決を宣告した。
傍聴席に座るグランド国軍の総司令官ストリー二も溜飲を下げていた。
やがて、思い出したくもない、火あぶり処刑。
あの辛さと痛みは絶対に忘れない。
体と心にしみこんで、そのまま焼き付いた苦しみを。
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〈あの苦痛をまた味わうのは憂鬱……〉
だけど、これも運命なのだろう。
スザンヌは覚悟を決める。
今夜も投稿しますね❤️




