第54話 なぜスザンヌは生け捕られたのか?
〈なぜ城門が閉じられるの?〉
スザンヌには理解できない。
〈相手兵がなだれ込むのを防ぐため?〉
それにしてはタイミングがあまりにも図ったようだ。
スザンヌが戻る直前のタイミングで退路を断つとは……。
白馬に乗ったスザンヌを捕まえようと、シニョーラ国兵たちが群がってくる。
シニョーラ国の弓兵が彼女の上着に手をかけ、引きずり降ろした。
スザンヌの体は地面に叩きつけられ、身に着けた甲冑の金属音が響いた。
そのまま身動きが取れないスザンヌ。
兄ふたりが駆け寄ろうとするが、彼らも敵兵に捕まってしまう。
多数の兵士たちがスザンヌに駆け寄り体をとりおさえた。
「スザンヌを生け捕りしました!」
その報を受けたジュネ2世は、小躍りして喜んだ。
両手を縛られたスザンヌは、シニョーラ国軍の陣地に連行された。
そして大きな戦果として、兵士たちの前で見せしめにされる。
ジュネ2世をはじめ、シニョーラ国軍はもうお祭り騒ぎだ。
勝どきの声も、何度も挙がる。
サントレールの北東で待機していた阿闍梨公。
スザンヌを捕まえたという報を受けて満面の笑みだ。
さっそく拘束されたスザンヌの姿を見に来る。
「この成果には勝利より大きな価値がある」
彼女の姿を確認すると、阿闍梨公はそう言って、各方面に、
〈シニョーラ国軍が「パビリオンの乙女・スザンヌ」を捕虜にした〉
という知らせを流し始めた。
と同時に阿闍梨公は軍を撤退させ始めた。
〈セーヌ国軍2千人の援軍がこちらに向かっている〉
彼のもとには、内通しているシャビネスから情報がいち早く入っていた。
ついにスコット国王がセーヌ国軍に出撃指令を出したのだ。
軍の撤退、これはサントレール包囲戦の失敗を意味する。
同時にシニョーラ公国軍の敗北ということになる。
しかしそれは阿闍梨公にとって大きな意味をなさなかった。
〈スザンヌの捕縛〉
これが何よりも大きな戦果である。
グランド国との関係にも波風は立たないのだ。
この知らせにセーヌ国宮廷でほくそえんだのがシャビネスである。
彼はスザンヌの追放を常に画策していた。
以前から敵であるグランド国、シニョーラ国ともひそかに内通して、機会をうかがっていた。
セーヌ国内部にも金で動く者を抱えている。
内部工作にかけては超一流だった。
今回も彼は、サントレールの市民兵の中に、手下を紛れ込ませていた。
そしてスザンヌが逃げ込もうとする瞬間、城門を閉じさせたのである。
スザンヌはシャビネスに陥れられたのだ。
明日はお昼ごろに投稿しますね♡




