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第52話 サントレール市民からの手紙

 セーヌ国とグランド国の戦いは新たな局面を迎えていた。

 スザンヌの活躍でセーヌ国がバーレル川の都市と橋を奪還。

 そのためグランド国はセーヌ国北東部・モワーズ川沿いの都市と橋をすべて占拠する作戦を立てた。


 グランド国の総司令官・ストリー二は、この作戦のための、ある男の協力が不可欠と考えていた。

 シニョーラ公国の領主・阿闍梨(あじゃり)公である。

 

 シニョーラ公国はグランド国と同盟関係にありセーヌ国とは敵対関係にある。

 しかし最近の戦いにはまったく参戦していない。


 というのもシニョーラ公国の領主・阿闍梨公の心が戦争に向いていなかったからだ。

 阿闍梨公は30人以上ともいわれる愛人を囲っていた。

 しかも今は3度目の結婚のために準備する忙しい日々を送っていたのだ。


 ストリーニは阿闍梨公が戦いに加わるよう、交換条件を提示した。


〈占領中のセーヌ国東部と北東部の統制権をお渡ししよう〉


 その代わりに要求したのは、


〈モワーズ川沿いの都市・サントレールを奪う。その戦いに参加してくれ〉


 サントレールはもともとはシニョーラ公国の支配下にあった。

 しかしスコット国王の戴冠時にセーヌ国への復帰を宣言した。

 というのも住民の大半がセーヌ国派だったからである。


 しかしここはモワーズ川流域の重要都市である。

 ストリー二はここを絶対に奪わなくてはならない。


 阿闍梨公に選択肢はなかった。

 これを無視すれば、グランド国が自分を潰しにかかることが目に見えていた。

 すぐに了承の返事を出し、重い腰をあげた。

 

 この情報はセーヌ国にも流れた。

 いちはやくつかんだのは宮廷のシャビネスだ。

 彼は敵国とも内通し私腹を肥やしていた。

 今回もシニョーラ公国の阿闍梨公に恩を売るチャンスと考えた。

 シャビネスはサントレールの街に使者を出した。

 差し向けたのは手下の貴族・クラ―ト1世だ。


「シニョーラ公国軍は、この街への攻撃準備を進めている」


 驚くサントレールの住人たち。

 クラ―ト1世が続ける。


「この街の正式な支配権はシニョーラ公国にある。降伏して街を彼らに引き渡してはどうだろう?」


 住民代表が呆れながら言った。


「あんたはセーヌ国から来たんじゃないのか?」


「セーヌ国からの使者だ」


「じゃあなんで、敵国への降伏を勧めるんだ? おかしいだろう」


 クラート1世は全く相手にされず、引き返すことになった。


 セーヌ国への愛国心が高いサントレールの住人は大半がスザンヌの信奉者だった。

 シニョーラ公国が攻めてくるという情報に、市民は立ち上がった。

 街のセーヌ国軍守備隊と、志願者してきた市民兵が協力して迎撃態勢を敷いた。


 それとともにサントレールの市民たちは、スザンヌに使者を派遣した。


〈フルーレの乙女へ〉


 そう始まる、サントレールの市民代表からの手紙を、スザンヌは開けた。


***********************************

 セーヌ国の宮廷からの使者が来た。

 シニョーラ公国への降伏を勧めてきた。

 我々にとっては論外の選択だ。

 きっと、彼らはよからぬ陰謀を進めているのだろう。

 

 私たちが目指すのは、あなたスザンヌと同じ。

 エール国の完全復権だ。

 我々の思いはひとつだ。

 神の意思のもと、我々と共に戦ってはいただけないだろうか

**********************************


 スザンヌは思う。

 宮廷が陰謀を仕掛けている。

 セーヌ国の軍の助けも得られない。

 このまま、戦いに乗り出してしまえば、私は捕らえられてしまうかもしれない。


 だけど、この戦いを、見て見ぬふりをしていいのかしら?

 私がセーヌ国民に掲げた、

〈神の声に導かれた戦い〉

 これにみんながついてきてくれている。

 声を出した私が、戦いから逃げていいのかしら?


 よくない。

 それは神の声に従う、私の生きる道に反するのだ。

 たとえ破滅に向かっているとしても、私は私の生き方を貫こう。


 すると、まぶしい白い光がやってきた。

 天からの声が、また来てくれたのだ。

 あたたかく、絶対的な、やさしい、やわらかい光。

 今回は大天使ボードルはいない。

 聖人乙女のエリース^_^が語り掛ける。


「祝福の日を前に、あなたは捕らえられてしまうでしょう」


 スザンヌは、ついに運命が決まったのだな、と思う。

 知性と美貌の聖女ランシーヌも言う。


「しかし何も恐れることはありません」


 もはや怖さはなかった。

 むしろ、すべてが決まったことで、清々しささえ感じる。

 美しく感動的な聖女たちの姿が、消えていく光とともに薄まっていく。

 スザンヌは言う。


「ありがとうございます。全てを受け入れます」


明日も夜にならないうちに、いちど早めに投稿しますね❤️

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