第49話 誓いの指輪
首都ラシン奪回のための遠征軍は解散した。
作戦失敗の原因はスザンヌの負傷――。
そう結論付けようとする空気が宮廷に流れていた。
王室はスザンヌに戦闘への参加禁止命令を言い渡した。
理由は負傷としているが、真意は闇の中である。
そしてスコット国王は総司令官バトラーにナルマンジー遠征を命じた。
天からの声がスザンヌに予告した展開と全く同じである。
ナルマンジーはセーヌ国北部の都市。
海沿いにあり、現在はグランド国占領下だ。
海をはさんで隣接するグランド国とセーヌ国。
グランド国がセーヌ国に入る際は、ここが拠点となっている。
両国にとって、首都ラシンに次ぐ重要都市である。
バトラーは訴えた。
「ナルマンジ―遠征は、スザンヌと一緒に行かせてください」
しかしスコット国王は、
「スザンヌはラシンで負傷して作戦は失敗した。彼女は行かせない」
と退ける。
バトラーは国王をにらんだ。
しかしスコット7世もにらみ返して言う。
「おまえ一人で行くんだ」
その様子をそばで見て、ほくそえむ男がいる。
宮廷貴族のシャビネスだ。
バトラーとスザンヌのコンビは最強を誇っている。
しかし宮廷にとっては非常に邪魔な存在になっていた。
国王や宮廷の言うことを聞かない。
操ることもできない。
何をしでかすかわからない。
「あの2人は引き裂かなければなりません」
シャビネスはスコット国王にそう進言したのである。
スコット国王もスザンヌを手中に収めたい。
それにはバトラーが邪魔だ。
二人の思惑は一致したのだ。
バトラーはスザンヌのもとを訪ねた。
「どうしたの? バトラー」
スザンヌが尋ねると、バトラーは寂しげな微笑みを浮かべて、
「ノルマンジーに遠征することが決まった」
と告げた。
「では私もお供します」
とスザンヌ。
「それはできない」
というバトラー。こう続ける。
「俺もお前を連れていきたいと国王に頼んだ。しかし断られた」
「なぜなの?」
「国王と宮廷にとっては、俺とお前が組むことが気に入らないらしい」
「そんな……私、抗議します!」
「やめておけ。お前の立場が悪くなるだけだ」
うつむくスザンヌ。
「すまん。今日来たのは、そんな話をするためじゃない」
スザンヌがバトラーの顔を見つめる。
バトラーが言う。
「俺はノルマンジーに行くが、俺の魂はいつもお前と共にある」
スザンヌがバトラーを見つめる。
その言葉の意味を理解しようとしているようだ。
バトラーが続ける。
「だから、これを持っていてくれ」
バトラーが差し出した小さなケース。
そこには青色の宝石が光る指輪があった。
そのベキリーブルーと呼ばれる色で、神秘的な輝きを放っている。
宝石の種類は、スザンヌの誕生石であるガーネットだった。
バトラーはこれをスザンヌのために用意していた。
しかしこの日まで、渡せずにいたのである。
「ありがとう。大切にする」
スザンヌは受け取って、こう付け加える。
「私の魂も、あなたとともにあるわ。バトラー」
バトラーはスザンヌを見つめて言う。
「いつかまた会える日まで、さらばだ。スザンヌ」
立ち去るその背中を見つめるスザンヌ。
どう気持ちを整理すればいいのかわからなかった。
瞳からは熱い感情が涙となって、どめどなくこぼれ落ちていく。
明日も早めに投稿しますね♡




