第48話 すべてを賭けた疾走!
翌朝、攻撃が開始された。
カルバリン砲が発射され、ラシンの守備兵たちを蹴散らす。
固い城門も爆発とともに破壊されていく。
ラシン市民は沈黙した。
しかしその静けさの裏には恐怖と怒りが潜んでいるようだった。
砲撃終了の時間ともにセーヌ国部隊が突撃を開始した。
スザンヌとバトラーの部隊はノルドサ門から。
テリー、アランシモンの部隊はアルドル門から。
城門は破壊されている。
水堀を越えてラシンに侵入しようとするセーヌ国部隊。
砲撃で態勢を崩されているラシンの守備兵たち。
セーヌ国の突撃を迎え撃つために再結集を始める。
長弓兵もロングボウの準備を始めた。
しかし、あのときのような絶望的な状況ではない。
そうスザンヌは感じていた。
飛んでくるロングボウも散発。
水堀の足場もしっかり進めている。
足取りは軽い。
〈これならいける!〉
スザンヌは力の限り走る。
水堀を渡り切り、城に侵入しようと石垣に手をかける。
そのとき!
脚に激痛が走った。
太ももに石矢が突き刺さっていた。
スザンヌは絶望に包まれた。
〈また射られてしまった……〉
足から赤い血が吹き出している。
石垣から下に落ちていくスザンヌ。
「スザンヌー!」
駆け寄るバトラー。
バトラーは倒れたスザンヌを抱え上げ、おぶって走る。
2人をめがけ、石矢が雨のように追いかけてきた。
ラシンの守備隊はあっという間に万全の態勢を建て直している。
ラシンの守備はなぜ崩せなかったのか。
カルバリン砲の攻撃を浴びたとき、確かにラシン市民兵たちも動揺を受けていた。
守備隊に多数の犠牲が出て、城門も完璧に破壊された。
〈セーヌ国はラシンを街ごと破壊したいのか?〉
ラシン市民全員に恐怖と危機感が走った。
しかし一方で、市民の心は、
〈なえあば、ラシンは我々が守り抜かなくては!〉
とセーヌ国打倒の思いで結束していく。
彼らの闘志はこれまでにないほど高まっていた。
それがラシン市民兵の戦闘力を極限まで高めていたのである。
バトラーはスザンヌをバスケス村まで連れ戻した。
救急治療を済ませる。
スザンヌが訴える。
「私は大丈夫です。ラシンに戻って戦います」
バトラーが言う。
「その脚では無理だ。歩くこともできない」
無念そうな表情を浮かべるスザンヌ。
バトラーが言う。
「俺たちに任せろ。必ず勝利を届けるから」
再びバトラーは戦地に向かう。
ラシンで戦うセーヌ国騎士たちの気持ちは一つだった。
〈スザンヌは離脱した。 しかし戦いは始まったばかり、これからだ!〉
スザンヌ負傷の報は野営地レイニー・ストーンにも伝わった。
「もうスザンヌは戦えないのか?」
スコット国王は動揺した。
この様子を見逃さなかったのが宮廷貴族シャビネスだった。
スコットに話しかける。
「ラシン市民の抵抗で騎士たちは大苦戦しています」
「勝てそうにないのか?」
「おそらく。しかもかなりの長期戦になります」
長期戦、と聞いてスコット7世の顔が曇った。
ラシン遠征でかなりの兵隊が戦いに従事している。
彼らに支払う日当のはかなりの額に達していた。
もし勝てても、長期戦となったら、費用はとんでもない額になる。
スコット国王は宣言した。
「撤退だ! ケルシュノーの修道院まで引くぞ!!」
戦いが始まって、まだ太陽が傾く前。
セーヌ国軍に「撤退」の命令が下された。
騎士たちは口惜しさに歯を食いしばる。
バスケス村のスザンヌ。
〈今度こそ、うまくやれると思ったのに。駄目だった――〉
その瞳から悔し涙がこぼれた。
今夜はもういちど投稿したいです♡




